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noterさんからの大切な記事

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すばらしいnoterさんたちの大切にしたい記事をまとめています。
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#小説

ほねかみ

ほねかみ

 辰さんの骨を盗んだ。
 辰さんの奥さんが、辰さんの足の骨を骨壷に入れている隙に。
 他の参列者たちも足の方を向いていたから、辰さんの右手中指の骨をそっとつまんでポケットに入れた私のことなど誰も見ていない、と思った。

「主人がお世話になりました」
 葬儀が始まる前、奥さんは辰さんの漁師仲間にそう言い、私にも同じ声色でそう言った。
 この小さな漁村では、誰かの葬儀があると、村のほとんどの人が出席し

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「羅生門」を読む① 序章として処女作「老人」を読む

「羅生門」を読む① 序章として処女作「老人」を読む

「羅生門」が「帝国文学」に発表されたのは1915年(大正4年)11月です。芥川龍之介は当時、23才、東京帝国大学在学中でした。その1年前、「新思潮」に「老年」という短編を発表してますから、「羅生門」は彼の第2作目になります。

どうでしょうか、ここまでで、この芥川という作家、かなり特異、というか有り体にいうと変です。処女作、しかも彼はこのとき大学生です。それで「老年」?ありえなーい、でしょ。「羅生

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誰かに語られる人になりたい。

誰かに語られる人になりたい。

――「語る」は認知を広げるということで、「語られる」は価値を高めてくれるということ。昨日の記事でも触れましたが、自分で「感動」だの「成功」だの言うのは簡単だし分かりやすいんだけれども、誰かがそれを言うことにこそ意味があって、価値があります。

人生は物語。
どうも横山黎です。

大学生作家として本を書いたり、本を届けたり、本を届けるためにイベントを開催したりしています。

今回は「誰かに語られる人

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小説「歩み」 第2章 第2話 「小学校」

 幼稚園年中で自分の名前を漢字で書けるようになっていたし、年長でかけ算九九の二の段まで覚えていたので、平仮名から習う小学校の授業は退屈だった。
 隣の席の男の子が「この平仮名なんて読むの?」と訊いできたので目を向けると、その男の子の名前に使われている平仮名だったので心底驚いた。自分の名前の平仮名すら読めずにどうやって6年間生きてきたのだろうか、と。

 小学校に入ってから、水曜日を好きになり、木曜

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小説「歩み」第2章「幼稚園」

   三歳くらいからは朧げに覚えているので私視点で話を進めることにする。

 幼稚園は楽しかった。幼稚園児ならではの「ママなんで帰っちゃうのぉ〜」と言って泣きじゃくり先生や母を困らせる、なんてことは一度も無く、なんなら「なんでママも園庭に入ってくるの?」なんて言い放つ三歳児だった。
 いかにも「幼稚園児」といった性格の女の子に嫌がらせをされて傷ついた記憶もあるが、幼稚園でやる勉強や運動にはついてい

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【エッセイ#22】手紙はあらゆる場所に届く -夏目漱石『こころ』の構造について

【エッセイ#22】手紙はあらゆる場所に届く -夏目漱石『こころ』の構造について

以前、谷崎潤一郎の『痴人の愛』について書いた時、日本の近代文学の中で、海が印象的な場面として『痴人の愛』と、夏目漱石の『こころ』を挙げました。

『こころ』に海が出てくるのは、冒頭と回想内にもう一つあるくらいで、印象的な場面ではあります。

しかし、この作品を読んで最も頭の中に残るのは、場所ではなく手紙です。有名なあの告白という意味だけではありません。モノとして何度も飛び交う「手紙」。
 
素晴ら

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