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創作大賞2024 応募作品

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初めて挑戦します。ファンタジー部門に応募しました。
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エウレカ 私は見つけた 最終話

エウレカ 私は見つけた 最終話

19 人生の転機 似顔絵を描き始めて半年ほど経った頃、1人の背広姿の男性が
「色紙を描いてくれ」と注文した。
 ロドリゴは、『このリゾート地にそぐわない格好だなあ』と言う印象をまず彼に持った。
その彼が言うには
「あなたがロバタクシーの仕事をしながら、絵を描いているロドリゴさん
ですか?あなたは、絵に色をつけたことがありますか?」

「いいえ、私は絵の具を持っていないので、1度もありません」

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エウレカ 私は見つけた 第18話

エウレカ 私は見つけた 第18話

18 ロドリゴの似顔絵 
 ロドリゴは、真珠のネックレスが引き立つドレスをミケーネに買うために、いっそう仕事に心を込め、お客さんに丁寧に接した。仕事はだんだん軌道に乗ってきて、彼はやりがいを覚えるようになった。

 大きく変わったのがミケーネとの関係だ。お礼にもらった真珠のネックレスを彼女に見せたとき、彼女は間髪を入れずに「私にはもったいない」と言った。
 だが、つけてみると、まるで彼女が以前から

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エウレカ 私は見つけた 第17話

エウレカ 私は見つけた 第17話

17 忘れ得ぬできごと 
 ある日、いつものように客待ちをしていると年を重ねたすてきなカップルがやってきた。2人とも50歳位だろうか。

 男性がタクシーの受付に話をすると
 「それはロドリゴが適任です」と応じ、こちらに
「おーい、ロドリゴ、奥さんの方を乗せてくれ」と声がかかった。彼女は足を少し引きずり、ゆっくり歩いている。

『ロバの背に乗るのは大丈夫だろうか』とロドリゴは、彼女が安全に乗れる

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エウレカ 私は見つけた 第15話

エウレカ 私は見つけた 第15話

15 前とは違う日常 2週間ほど経ち、ロドリゴの体力は仕事ができるまでに回復した。気持ちを新たに、ロバタクシーを再開する前日、彼はランドルのところに行った。
 
 前からランドルには話しかけていたが、『彼が唯一無二の相棒である』という意識はロドリゴには、全くなかった。でも彼はヘラジカとの出会いによって、動物にも自分の気持ちが伝わると強く感じたのだ。

 ロドリゴは、ランドルの背中を優しくなぜなが

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エウレカ 私は見つけた 第16話

エウレカ 私は見つけた 第16話

16 ある夫婦の決断 アネモネが咲く美しい庭を横切って歩いていくと、ヘンリーとエマの住む白い素敵な家が見えてくる。いつも庭の手入れをし、美しい花を咲かせていたエマが外の作業があまりできなくなって以来、庭の様子は少し変わった。しかし、今まで全く庭仕事をしたことがなかった夫のヘンリーが、人に聞いたり自分で調べたりしながら、彼女に代わって手入れをするようになった。
 
 1年前、エマは病院のベッドに寝

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エウレカ 私は見つけた 第14話

エウレカ 私は見つけた 第14話

14 目が覚めて ぼーっとして目を開けたとき、まず飛び込んできたのは、疲れのためかまぶたが落ち込んでいるミケーネの顔。
 たぶん、何日も寝ていないのだろう。でも俺の顔見て、ポロポロと真珠のような涙を流しながら、目覚めたことを喜んでくれた。
 

 彼女の話によると、3日3晩高熱が続き、何かうわごとを言いながら寝ていたそうだ。医者も原因が不明なので
「薬が処方できない。体を冷やし、水分を補給し、本

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エウレカ 私は見つけた 第13話

エウレカ 私は見つけた 第13話

13 ヘラジカとの出会い 
 昨夜の夕食では、元気のない俺のことをを励ますためか、奥さんが歌を歌ってくれた。そのメロディーにはどこか哀愁があり、初めはこんなに落ち込んでいるのにと思った。サントリーニ島でよく耳にした、明るくアップテンポの曲だったら、きっと元気が出ると感じたのだ。でも、それは間違いだった。伴奏もないその哀しげな歌を聴いているうちに、彼は、自分の切なさが癒されていくのがわかったのだ。

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エウレカ 私は見つけた 第12話

エウレカ 私は見つけた 第12話

12 お礼の絵
 狩から戻った日、ロドリゴの落胆ぶりは、はためにもはっきりわかるほどだった。

 『俺は何もできない。ここの厳しい自然環境では何もなすすべがない』
昨夜からの興奮と疲れが一度に襲ってきた。

 シュルルー、シュルルルーとお湯が沸く音がした。奥さんがお茶の準備をしているようだ。おやつには近くで摘んだブラックベリーなども出された。
 温かいお茶をもらうとき、ロドリゴは
「初めて、狩に

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エウレカ 私は見つけた 第11話

エウレカ 私は見つけた 第11話

11 森での体験 少しずつ彼らとの生活にも慣れてきた頃、私は今まであえて気づかないふりをしてきたいくつかの疑問について考えるようになった。

◇ 俺は今、死んでいるのか?それとも生きているのか。
◇ 今いるこの場所での生活は、幻なのか?それとも実際にこの場所は、地球上に存在するのか。
  
 このままだったらずっと私はこの場所にいることになる。だが、もうこれ以上彼ら家族に迷惑をかけることはで

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エウレカ 私は見つけた 第10話

エウレカ 私は見つけた 第10話

10 支え合う暮らし
 毎晩父親は、狩の道具の手入れをしている。磨き込まれ、鈍い光を放つそれらは、ロドリゴにとってはまるで生き物のように見える。
 今朝もまだ暗いうち、父親はすっと立ち上がり、外に出て行った。
 
 獲物を追う彼の勇姿を一度、ロドリゴは見たいと思う。でも、それは生きるか死ぬかの緊迫した領域である。なまはんかな興味本位で、立ち入ってはいけない場所であることも十分想像できた。そこでロ

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エウレカ 私は見つけた 第9話

エウレカ 私は見つけた 第9話

9 タクレットとのお出かけ
 4、 5日すると、ロドリゴの体力は、確実に回復してきた。
 ここでの食事は、ほとんどが、味のあまりない肉中心のもの。
 ないものねだりだが、彼は色とりどりの新鮮な野菜のサラダ、様々な香辛料で味付けされたミケーネの肉料理が、どれだけ自分の口に合い、おいしかったかがわかった。

 タクレットとどうしてもわかり合えないときには、紙に木炭で絵を描いて、意思の疎通を図るように

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エウレカ 私は見つけた 第8話

エウレカ 私は見つけた 第8話

8 見知らぬ土地 ブルっと身震いして、ロドリゴは目を覚ました。『一体ここはどこだろう』
ズキズキと痛む頭をなんとか持ち上げ、彼は辺りを見回した。
 
 まず、目についたのが、見たこともない文字で書かれた年代物の看板だった。広い道に面してるようだが、人っ子ひとり歩いていない。
 あたりはほんの少し明るいが、今が昼間なのか、それとも夜なのかさえ、わからない。

 ロドリゴは、一体どこに行けばいいのか、

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エウレカ 私は見つけた 第7話

エウレカ 私は見つけた 第7話

7 ある日のできごと 今朝はこの時期には珍しく曇天。仲間の情報によると、今日は大きなクルーズ船が寄港する予定なので、久しぶりに忙しくなりそうだ。
 ロドリゴは深呼吸をした。この前、相棒のランドルが歳をとったと、しみじみ感じたが、彼とて同じ。急な坂を登るとき、かっぷくのいいお客さんを乗せると、息切れしそうだ。

 今日1番のお客さんは、ふくよかな50歳位の女性。おしゃれで化粧はとても派手だ。
 その

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エウレカ 私は見つけた 第6話

エウレカ 私は見つけた 第6話

6 ニ人だけの暮らし ロドリゴはミケーネが余計なことを言ったから、息子夫婦が島を出て行ったと思っていた。子供が生まれたら、また元通りの楽しい生活にも戻ったのではと、頭の隅で考えていたからだ。ロドリゴも、いつかは夫婦だけの暮らしになると、漠然とは考えてはいた。しかし、いざ現実にそうなってみると、週末もまるで明かりが消えたように寂しかった。今となっては、たわいのないことで笑い、楽しく食事をしていたのが

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