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エウレカ 私は見つけた 第9話


9  タクレットとのお出かけ


 4、 5日すると、ロドリゴの体力は、確実に回復してきた。
 ここでの食事は、ほとんどが、味のあまりない肉中心のもの。
 ないものねだりだが、彼は色とりどりの新鮮な野菜のサラダ、様々な香辛料で味付けされたミケーネの肉料理が、どれだけ自分の口に合い、おいしかったかがわかった。

 タクレットとどうしてもわかり合えないときには、紙に木炭で絵を描いて、意思の疎通を図るようになった。
 ロドリゴは、親切な家族にお世話になっても、力仕事もできないので、自分のことをふがいなく思った。そこで彼はタクレットの似顔絵を描いてプレゼントすることを思いついた。

 ロドリゴは、無表情に見えてしまう彼の顔に、ちょっとしたときに一瞬よぎる、好奇心にあふれたいたずらっ子このような目をとらえて描いた。
 すると両親はとても喜び、タクレットにいたっては、似顔絵を持って『喜びの舞?』をみんなに披露した。
 
 父親は、木片に糸のようなものが貼ってある不思議なものを口にくわえて、ビヨーンと鳴らした。それは、彼らの楽器かもしれないが、ドレミの音階もなく、まるで糸のうなりのようだ。その振動音に合わせ、即興的にタクレットが踊る不思議な夜は更けていった。

 翌日、父親から風を通さない服を借りて、ロドリゴはタクレットと初めて外に出た。誘いの言葉の代わりに、タクレットは寝ていたロドリゴを揺り動かし、肩をトントンと叩いて、彼の手を握った。そしてその手を左右に振って、「どこか行こうよ」とせがんだようにロドリゴには思えた。

 タクレットが連れて行ったのは、切り取った山々を背景に、豊かな水をたたえる静かな湖だった。遠くで、小鳥のさえずりが時々聞こえるだけ……。
 
 世間から切り離されたような、ゆったりとした時間がそこには流れている。

 ロドリゴはその湖を、ただぼんやり眺めていた。まるで時が止まったような静かな場所にいると、呼吸がだんだん深くなっていく。俺はサントリーニ島で何をあんなにあせっていたのだろう。
 いつも心に余裕がなくて、景色の美しさにも周りの人の優しさにも気づかなかったのかもしれない。

 風に合わせて湖面がわずかに揺れる。それを見ていると、1つの色だと思っていた湖の色が日の光によって、様々な色に変化することにも気づいた。
ーーー 光のプリズム ーーー
 そして、ぽとりと落ちた葉っぱが動くことによって、風向きやその強さが微妙に変化しているのがわかる。
 
 美しい湖を見ているうちに、ロドリゴの体から余分な力が抜けていき、いつの間にか眠ってしまったらしい。
 
 トントンと肩を叩かれ、ふと我に帰った。
 一体どれだけの時間、寝ていたのだろう。
 フィラでは、いつも気ぜわしく動き、こんなにのんびりしたのは、ほんとうに久しぶりだ。
 かたわらにすわっているタクレットを見ると、退屈して大あくび。
でも、彼なりに私のことを気遣ってくれていたのだろう。
 
 ロドリゴの手を握り、それを前後に揺らした。その動作が、「もう帰ろう。ここは飽きたよ」とせがんでいるように感じて、タクレットと家路を急いだ。


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