エウレカ 私は見つけた 第12話
12 お礼の絵
狩から戻った日、ロドリゴの落胆ぶりは、はためにもはっきりわかるほどだった。
『俺は何もできない。ここの厳しい自然環境では何もなすすべがない』
昨夜からの興奮と疲れが一度に襲ってきた。
シュルルー、シュルルルーとお湯が沸く音がした。奥さんがお茶の準備をしているようだ。おやつには近くで摘んだブラックベリーなども出された。
温かいお茶をもらうとき、ロドリゴは
「初めて、狩に行って疲れたでしょう。お茶でも飲んで、ゆっくりしてください」
と、彼女から優しく声をかけられたような気がした。
ひと口飲むと、森の中で感じた、言いようのない恐怖と緊張から生じた体のこわばりが、徐々に溶けていくような気がした。
その温かみに、不覚にも涙がツゥーっとひとすじ流れた。
やはり俺はロバタクシーの仕事しかできない。それなのに、今までは仕事に何の工夫を加えることなく、ただ惰性的に続けていた。それと俺は絵を描くのが好きだ。ましてや、その絵を喜んでもらえたら、この上ない幸せを感じる。
自分には何もないが、今日狩に行って、心からやりたいことがよくわかった。
2人が今日の獲物の解体をしている間、ロドリゴは紙を取り出し、木炭でこの家族の絵を書くことにした。
タクレットの絵を描いたとき、『なるべく本人に似せよう』とスケッチした。でも、今日はそれではいけない気が、なんとなくした。
3人の心の内面が、わかる絵にしたい。
父親の精悍さと他者への優しさ、母親のたくましさと温かさ、
そしてタクレットの無邪気さと行動力を。
ロドリゴは目を閉じ、彼らのイメージを思い浮かべて一気に描いた。
タクレットのスケッチでは、まず「似せよう」と言う気持ちがあったので、
なんとなく線にためらいがあった。だから、絵からエネルギーはあまり伝わってこない。
それに比べ、今日の絵は迷いなく一気に描いたので、勢いのある表現になった。その上、3人の姿から、お互いを思いやる仲の良さまで伝わってくる。
『今晩、夕食の時にこれを渡そう』
彼らの厚意に対して、何のお礼もできないが、この絵を気に入ってもらえるとうれしい。
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