思い出のレモンケーキ。
「アップルティー、…それと、レモンケーキ。」
午後の、北欧風カフェ。
私のお気に入りの場所。
休日はいつも、ここへ来て、
紅茶と、甘いスイーツを楽しむ。
……心の糸が、緩んでいく…、
…私の、唯一の自由時間…。
そんなある日、
……私は、不思議な出会いをした。
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『…すいません、
ここの椅子、、座っても良いですか…? 』
レモンケーキを食べていた時、
後ろから、柔らかな声が聞こえた。
…振り返ると……、
にっこり微笑む、お爺さんが、
私の向かいの椅子を指差していた。
金縁の丸メガネに、長髪のシルバーヘアー。
…とても、お洒落な佇まいだった。
私は、
(どうして、ここが良いのだろうか…?
椅子なら、他にも沢山あるのに…。)
と、疑問に思ったが、
「はい、大丈夫ですよ。 …どうぞ。」
と、快く承諾した。
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…ラテを飲むお爺さんを、横目で見る。
あれから、お爺さんと私は、
たわいのない話をした。
青空と入道雲が、とても綺麗だということ。
ここのレモンケーキは、美味しいということ。
家で飼っている猫の話。
…お爺さんの、柔らかい雰囲気が、
私の心を癒していく…。
しばらくして、会話が途切れた時、
おじいさんは、私の顔をじっと見つめた。
そして、ゆっくり口を開いた。
『実は、、驚きましてね……、
あなたが、亡くなった妻の若い頃に、
そっくりだったものですから_____。』
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side 〈old man〉
今日は、亡くなった妻の命日。
…妻が生きていた頃、
このカフェに、二人でよく来ていた。
二人で、一つのレモンケーキを半分こして、
思い出話をしながら、笑い合う。
…それが私の幸せで、生きがいだった。
妻が膵臓ガンで亡くなってから、
……今日で一年。
……本当に、あっという間だったなぁ…。
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お爺さんは、空を見上げた。
まるで、妻の存在を確かめるかのように…。
そして、こう言った。
『あなたと出会えて、本当によかった。
……今日は、、ありがとう。」…と。
その時、
突然強い風が、私達の身体を通り抜けた。
……ビューーン、、シューーーー!…
目の前一面に、花びらが舞い上がり、
私達を包み込む。
……しばらくして、空から声が聞こえた。
「…ありがとう。あなたは、もう大丈夫___。」