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ポップカルチャーは裏切らない

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”好きなものを好きだと言う"を基本姿勢に、ライブレポート、ディスクレビュー、感想文、コラムなどを書いている、本noteのメインマガジン。
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記事一覧

恋が共同幻想だとして/坂元裕二『ファーストキス 1ST KISS』【映画感想】

恋が共同幻想だとして/坂元裕二『ファーストキス 1ST KISS』【映画感想】

脚本・坂元裕二、監督・塚原あゆ子というヒットメイカー同士の初タッグ。主演は松たか子と松村北斗(SixTONES)。事故で夫を亡くした折、タイムトラベルする術を手にした妻が、夫の死なない未来を作るために15年前・2009年に2人が出会った日へと戻り、手を尽くそうとする。何度となく扱われきたSF題材であり、その目的もラブストーリーとして極めてオーソドックスなものだ。

しかしそこは坂元裕二。この夫婦は

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the pillowsとフリクリが見せた夢、米津玄師とガンダムの今

the pillowsとフリクリが見せた夢、米津玄師とガンダムの今

※米津玄師 2025 TOUR/JUNKの若干のネタバレがあります

ガンダムにほぼ触れていない私としても先日鑑賞した『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』は高揚した。色々と興奮した箇所はあったが、やはり"発進"に際したアニメーションの躍動感、それを強調する米津玄師「Plasma」の威力は特筆したい。やはり何かが動き出す瞬間にアッパーな楽曲は欠かせない。特に、飛びあが

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フジファブリックというバンド【後編】2015-/逸脱を引き受け続けること

フジファブリックというバンド【後編】2015-/逸脱を引き受け続けること

フジファブリックの歴史を総浚いし、その稀有な歩みを批評的に紐解く記事シリーズの後編。前編は↓。こちらを先に読んでいただきたい。

志村正彦は“イメージ”を重視しつつ、遺作となった『CHRONICLE』で内省を深めた。3人体制となってからもフジファブリックらしさという“イメージ”に応えつつ、『LIFE』で山内総一郎がフロントマンとして、表現者としての内省を行なった。どちらの時期もイメージから内省とい

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フジファブリックというバンド【前編】2004-2014/イメージと内省の風景

フジファブリックというバンド【前編】2004-2014/イメージと内省の風景

2025年2月6日、NHKホールでのワンマンライブをもってフジファブリックが活動休止に入る。2000年結成、2004年にメジャーデビューして以降、一度も足を止めることのなかったバンドであり、かねてより「解散しない」と公言してきたからこそその驚きは大きい。2009年に当時のフロントマンであり、結成の中心人物だった志村正彦を亡くし、オリジナルメンバーが不在になってなお15年もの期間、人気と活動規模を維

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最期は“人間”になる/吉田大八『敵』【映画感想】

最期は“人間”になる/吉田大八『敵』【映画感想】

精神科医という職業上、私は他者の歩んできた人生について訊くことが多い。特に高齢者となればその生活歴の厚さは凄まじい。そして語っている現在の当事者とその歴史のギャップに驚くこともある。認知症でかつての仕事にまだ勤めていると思い込んでいたり、配偶者を亡くし抑うつ気分で全てに無気力になったりする。過去の時間の濃さが、今の自分を揺さぶっているようにも見える。

そんな“老い”に対する不安を鋭くテーマにした

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2024年ベストソング トップ10

2024年ベストソング トップ10

今年からは10曲に。エモーショナルか否か、という判断基準。

また今年はポッドキャストにお邪魔して語ったものもあります。ぜひ、お聴きください!

10位 ano & 幾田りら「SHINSEKAIより」

浅野いにおが「デデデデ」アニメのために自ら作詞作曲したこれ以上なくこのセカイのための曲。正確に真摯に自分の作品を扱う姿勢の究極形。

9位 羊文学「Burning」

嘘みたいな轟音を放ち、メジャ

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2024年ベストドラマ トップ10

2024年ベストドラマ トップ10

良作の多い年だったと思います。私は明確なメッセージにひた走るタイプの作品を苦手としていて(良質かつ誠実なのは分かるが好きになれない)、ゆえに近年のドラマのトレンドは刺さりづらかったのですが、配信限定も含めると今年は久しぶりに連続ドラマであることの豊かさを堪能できました。大半は配信中。皆さま是非!(特に1位)

10位 3000万

ふとした結果で3000万円を手に入れてしまった家族が巻き込まれるブ

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2024→2025付近の雑感

2024→2025付近の雑感

年末年始はやたらと時間があって頭がどうも回ってしまう。B’zがダサいだの何だのといった種の話にまんまと乗ってしまいあれこれ盛り上がってしまうのは完全にこの“やたらとある時間”のせいだと思うのだが、色々考えても常にまとまることはなく流れがちである。しかし今年は書き残さないと気が済まない話が胸にあるため、つらつらと書いてみる。まだまだ考え続けたいことばかり。

星野源「ばらばら」の話年末、頭から離れな

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2024年ベスト映画 トップ10

2024年ベスト映画 トップ10

今年は邦画がかなり豊作だったように思います。ずっと邦画が好きでいたけどここ数年はやや物足りなさがあったところに、こんな年が来るなんて。何かが突き抜け、新たな面白さを追求する作品が世に出るになったように思います。濱口竜介以降の潮流なのでしょうか。理由は分かりませんが、まだまだこれから不可思議な映画体験が増えていくのではとワクワクします!

10位 ボーはおそれている

守られすぎた子供は現実の侵襲性

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2024年ベストアルバム トップ20

2024年ベストアルバム トップ20

ライフスタイルは変わりましたが音楽は変わらず傍にあってくれました。子どもを持っても趣味嗜好はそう変わらないことの証明かと。20作、どうぞ!

20位 おとぎ話『HELL』

13枚目のフルアルバム。念願の野音ライブを台風に吹き飛ばされたその先、こんなにも澄んだ音楽が雲間から現れるとは。“中年の悲哀”とは全く無関係に、ここまで真っ直ぐにキュンとなる曲を書いてしまえるのは有馬和樹の天性のフェアリーらし

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超幻想の果て、令和ロマン/『M-1グランプリ2024』

超幻想の果て、令和ロマン/『M-1グランプリ2024』

お笑いに取り憑かれた悪魔がお笑いの力で天使へと舞い還っていく。そんな神話のような物語すら見えた夜。M-1グランプリ2024の話がしたい。

トップバッターで令和ロマンが登場することが決まった時に芽生えた運命的畏怖とも呼ぶべき感情は今まで見てきたM-1の何とも異なるものだった。そしてあの大立ち振る舞い。生まれてしまった荒地の上で巻き起こったのは、昨年のどこか停滞したムードとは程遠い、何としてでもあの

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アジカンとBUMPを同じ週に観て思うこと

アジカンとBUMPを同じ週に観て思うこと

10月の終わり、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとBUMP OF CHICKENのワンマンライブを立て続けに観た週があった。この2組は間違いなく、中学校時代の私にとってのツートップと言えるバンドだ。というより、ゼロ年代の邦楽ロックに親しんだ多くの音楽リスナーにとってアジカンとBUMPは後世への影響やシーンでの存在感の点で双璧を成すバンドであることは自明の事実だろう。

1996年に

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声を想う十五年/クリープハイプ『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』

声を想う十五年/クリープハイプ『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』

8月にリリースされたクリープハイプのトリビュートアルバム、そのタイトルは『もしも生まれ変わったならそっとこんな声になって』だった。現メンバーでの15周年を記念した企画盤とは思えないほどに卑屈で、それでいて切実さが込められた題である。自分の”声“に対して何も思っていないアーティストからは決して出てこないだろう。

尾崎世界観(Vo/Gt)の歌声は紛れもなくクリープハイプの強い構成要素である。ゆえにそ

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筋肉は裏切らないどころか/石田夏穂『ミスター・チームリーダー』【読書感想文】

筋肉は裏切らないどころか/石田夏穂『ミスター・チームリーダー』【読書感想文】

石田夏穂の新刊『ミスター・チームリーダー』が破格の面白さだった。当人のみが見えている世界や思考を1人称に限りなく近い3人称の視点で綴り、その過剰さをシニカルに見せる作風が強みの作家だが本作はまさしくその魅力を全方向に炸裂させた作品だった。

石田夏穂と言えばデビュー作でも肉体改造を扱い、話題となった冷え性をテーマにした『ケチる貴方』とそれに収蔵された、脂肪吸引をテーマにした「その周囲、五十八センチ

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