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シリアルキラーが女を愛するわけ

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シリアルキラーが女を愛するわけ 20

 全ての殺人が終わったならば、華々しく死ぬことを望んでいた。
 ただ、あの女だけは予定通り行かなかった。
 あの女を選んだのが計画の最初の躓きだったんだろう。
 あの女は「誰でも良いから」とか「おしゃべりでもしましょ」などと、人恋しがるところがあった。十代全般を渋谷、原宿でギャルとして過ごしたと言っていた。別に友達(男の子、女の子)に騙された訳でも、距離を置かれているわけではないと言った。自分たち

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シリアルキラーが女を愛するわけ 19

 品川区役所の住宅課空き家対策担当の人間に来て貰って話しを聞いたところ、「空き家ホットライン」を設け、電話やメールで住民からの空き家に関する相談や心配事などを受け付けているそうだ。そして、東○株式会社と品川区住宅課が連携して、「住まいと暮らしのコンシェルジュ」というものを利用して空き家の売買にかんする相談、相続に関する相談なども受けているそうだ。
 荏原署に来た住宅課空き家対策担当の者は筥崎といっ

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シリアルキラーが女を殺すわけ 18

 次の朝、白木が早めに荏原署に向かうと、玄関から会議室まで所轄の巡査が走って行ったり来たりしていた。何かあったのだ、白木は緊張した。
会議室に入り、直ぐに殿山と吉岡の姿を探した。吉岡は荏原署の署長と真剣な顔で話し合っていた。殿山は手にある書類を険しい顔で見ていた。
「何かあったんですか?」
「……」
「第一被害者の女性の身元が分かったんですか」白木は、頭を働かせた。
「うーん…。第一被害者の女性の

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シリアルキラーが女を愛するわけ 17

 男は翔馬を殺し、彼の性器を切り取った後にすることがあった。それは、学生の頃にバイトしてた工場の敷地に飼われている犬に、茹でた翔馬の性器を食べさせて消すこと。杏紗、翔馬の殺害に使った覚醒剤のパケ袋、注射器、性器切り取りに使った小刀、レジャーシート、洗面器、風呂敷、雑巾、トリクロロエチレンと灯油が入っていたガラスの容器、杏紗殺害の時に着ていた服一式、翔馬殺害の時に着ていた服一式、靴など全てを燃やし何

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シリアルキラーが女を愛するわけ 16

 男性の検死が終わった後、大学病院で被害者男性の遺体と待たせていた両親を立ち会わせた。被害者は佐野翔馬十五才と確認された。
 殺される前から度々家出を繰り返してようで、翔馬は通っていた中学も不登校だったそうだ。川崎市立實幸中学校のPTAなどと協力して何度も中学に通わせようとしたが言うことを聞かず、両親、担任教師、学年主任も半分匙を投げていたようだ。そこまでを霊安室に居合わせた捜査員に、翔馬の父親が

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シリアルキラーが女を愛するわけ  15

 次の日の朝から「鑑とり」班が二子玉川に投入された。
 殿山、白木も二子玉川に入った。昨日までと引き続きアパートを捜索する旨を吉岡係長に言って許可をもらった。ただし、男のモンタージュと一緒に被害女性のモンタージュも持って、聞き込みをするように注文が付いた。
「二子玉川にアパート借りている可能性があると考えていますか?」不動産や目指しながら歩いている途中、白木が話しかけてきた。
「被害女性の場合はあ

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シリアルキラーが女を愛するわけ  14

 次の日、朝の会議の時に吉岡係長から発表があった。
「昨日の夜に鑑識から報告があった。女性は複数回性交渉していた形跡があるそうだ」
「吉岡係長。犯人とは直前に性行為をした形跡はないと先日ありましたが…」
「そうだ。犯人とはSEXはしていない。だがSEXは頻繁にしていた可能性は見つかった。考えるに性風俗店で働いていたか、性意識が低く不特定多数の男たちと一夜だけの関係を被害女性は持っていたかもしれない

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シリアルキラーが女を愛するわけ  13

 警察犬が被害女性の物と思われる靴を都営浅草線中延駅から第二京浜を戸越に向かった道路沿いで発見した。女性はあるアニメとファストファッションブランドのコラボ商品の靴を履いていたことが分かった。彼女が着ていたTシャツもそのアニメキャラクターの物と分かっているので、そのアニメの関連を調べることになった。それは「物」班の担当になる。
 警視庁の事務職員の中にアニメ全般に詳しい者が二人いて、一人は二十代でい

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シリアルキラーが女を愛するわけ  12

 朝の会議が終わり、白木は殿山より早く立ち上がった。
「今日から一緒に行動することになりました」と言った。白木はもう新人ではないので、特別頭を下げるような行為はしなかった。
「新木場周辺の焼却炉がある工場を回ろうと思う。特に毎日燃やしている所を回ろう」殿山が言うと白木は黙って頷いた。 

 地下鉄東西線の新木場駅に着いた。捜査本部が東京湾岸警察署に依頼して手に入れた地図を広げた。地図には近隣の工場

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シリアルキラーが女を愛するわけ  11

 殿山が警部補から警部に上がらないのは、主任捜査官から係長への出世を拒否しているのは責任ある立場に成りたくないのではなく、会議室で捜査員が持ってくる情報をただ待っているのが性に合わないからだ。いずれは捜査一課の係長のポストに上がろうとは考えている。
 会議室の後ろに座っていた荏原署の捜査員から早々に退散して行き、逆に八係の捜査員は直ぐには立ち上がって帰ろうとしていないでいた。八係の捜査員は毎日の書

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シリアルキラーが女を愛するわけ  10

 見つかったレインコートと小刀から人の血液の反応は出たが、そのDNAまでは解析は困難と鑑識に言われた。わざと置いたと見る意見と焼却に失敗してレインコートと小刀の形だけかろうじて残ったと見る意見が捜査員の中から出た。当然、警視庁は中延三丁目の殺人事件の物的証拠と考えた。
 殿山はレインコートと小刀が発見された工場の敷地内を、深川署から直行して歩いた。工場の敷地は広く、工場も大きい。二十四時間体制で木

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シリアルキラーが女を愛するわけ  9

 次の日、荏原署での捜査会議は朝八時から始まった。昨日と同じ捜査員の顔が見える。一睡したので、昨日の解散前に見えた疲れはどの顔にもない。解き放たれるのを待つ狩猟犬のようなやる気が漲った顔をみんながしている。それを確認して吉岡係長が話し始めた。
「おはようございます。捜査二日目です。みなの顔を見渡せばやる気に満ちた顔をしていて頼もしい。期待してるぞ。昨夜は不明確だった検死報告がより正確に分かった。コ

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シリアルキラーが女を愛するわけ  8

 会議のあと、白木と服部は各々コンビを組んでいた荏原署の刑事に、一杯飲みながら一緒に今後のことを話しませんかと誘われた。特に白木は法本から酒を誘われたが、いつもそうしているように「警視庁に帰って終わらせる書類仕事が残っていますので」と言って断った。二人は並ぶように荏原署を出ると、真っ直ぐ警視庁捜査一課の自分たちのデスクに向かった。自分たちのデスクで書類仕事をしていると三十分遅れて殿山も捜査一課に現

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シリアルキラーが女を愛するわけ  7

  

 被害者の身元が分からないこともあり、犯人の痕跡がげそ痕しかないこともあり、二人が歩いてきた想定で警察犬が投入された。当然犯人が空き家まで自分の車やオートバイに被害者を乗せて移動してきたことは想定された。しかしなにより手がかりが少ない、初動捜査を充実させるために、空き家にめぼしい証拠がないと判断した鑑識班はすぐに警察犬を出動させた。中延の空き家から警察犬は犯人の足の臭いを追って、地下鉄浅草

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