シリアルキラーが女を殺すわけ 18
次の朝、白木が早めに荏原署に向かうと、玄関から会議室まで所轄の巡査が走って行ったり来たりしていた。何かあったのだ、白木は緊張した。
会議室に入り、直ぐに殿山と吉岡の姿を探した。吉岡は荏原署の署長と真剣な顔で話し合っていた。殿山は手にある書類を険しい顔で見ていた。
「何かあったんですか?」
「……」
「第一被害者の女性の身元が分かったんですか」白木は、頭を働かせた。
「うーん…。第一被害者の女性の身元はまだ分からない。しかし、第三、第四の被害者がでてきた」
「えっ!?」息を飲んだ。第一被害者の身元も分からないうちに、十四歳の男の子、そして第三、第四の殺人があったと分かって、頭の血の気が引くのを感じた。連続殺人といっても、アメリカのように短い期間に多くの被害者を出す、事件は起こらないとどこか安心していた。日本でシリアルキラーと名指しされるような連続殺人事件が起こったことが信じられなかった。
「女性ですか、少年ですか?」
「いずれも女性だ」と言ってすぐに、書類のコピーを殿山は白木に渡した。
林試の森公園そばの小山台一丁目の空き家。旧木村信喜宅。三階木造一戸建て。信喜が亡くなって二十年以上経過。住まう親族はなし。屋根がすでに落ち、棟木、梁が露出して状態。火災、放火を心配する近隣住民の声があり。親族代表と話し合いの結果、明日○月○日に解体予定だった。
十八歳~二十代前半と思われる女性。着衣は黄色み掛かったクリーム色のシースドレス。下着はブラジャーのみ残されている。ショーツは持ち去られた模様。履き物はなし。腕時計を含めアクセサリーの部類もなし。今度もドレスをたくし上げ、下半身を露出した状況で放置。女性器は切り取られてる。女性器は現場になし。血痕はなし。腕に注射痕多数あり。所持金なし。ケータイ、スマホなし。
文庫の森そばの戸越四丁目の空き家。旧田辺倭子宅。一階木造一戸建て。○年の春頃から近隣住民から異臭があると苦情があり、倭子の生前より家庭から出た廃棄物が多数敷地内にあり、地区の役員とトラブルになっていた。倭子の死後、別地域に住まう親族に、数度の品川区役所より指導を持ってしても改善が見込まれず、親族の承認を得て○月○日に行政代執行し清掃する予定だった。
二十歳~二十代半ばまでの女性。衣類はオフホワイトの胸元にギャザーの入ったスモックブラウス。モスグリーンのプリーツスカート。下着はブラジャーのみ。ショーツは持ち去れた模様。踝までの靴下はある。胸元に細いチェーンのネックレスと、同じデザインのブレスレットあり。腕時計はなし。
今度もスカートをたくし上げ、下半身を露出した状況。女性器は切り取られている。女性器は現場になし。血痕はなし。所持金なし。ケータイ、スマホなし。
白木は書類をざーっと目を通した。そして、殿山が感じている違和感に直ぐに気付いた。今度も二十代前半と思われる二人の若い女性が被害者に成っている。殺されたあと女性器を採られている。そして、遺体の放置された現場は今度も空き家で、遺体の周辺は被害者の血の跡がきれいに拭われていた。
「一人の被害者は薬物事件で刑務所に入っていた……。再犯を繰り返していた女性と言うことですかね?」
「覚醒剤を注射痕を残すほど接収していたのならば、一度や二度刑務所に入って可能性はある。調べれば身元は直ぐに出てくだろうな」
「知って近づき、殺したのですか? それにしても被害者が、注射痕を隠すために長袖を着ていないのは疑問がありますね」
「上に何にか羽織っていた可能性があるな。そして何らかの理由で上着を持ち去った」
「しかし、違和感がありますね。二人も赤羽に共通点があるんですかね」白木にも殿山の違和感が分かった気がする。彼女を最初に殺して実験をした、度胸を付けたとしても、第一被害者の女性、十四歳の少年、生前は薬物中毒と思われる女性、もう一人の女性とターゲットを変えるは不自然に思う。女性三人の中に、最初から犯人の本当のターゲットが居て、他の二人はいわゆるカモフラージュで殺したか。
「この女性もヘロインによるショック死の疑いがあるんですか」
「いや、ヘロインの薬物犯のは被害者の身体から出たが、耐性があったのだろう中毒死ではない。鈍器のような物で複数回殴られて殺されている」
殿山が思っていることは。十四歳の少年の身元は直ぐに分かった。今度の被害者も、一人は直ぐに分かるだろう。もう一人も捜索願が出ていて直ぐに分かるかもしれない。なのに第一被害者の女性の身元だけが一ヶ月経つのに分からない。このままでは公開捜査に切り替えなくてはならない。この第一被害者の女性の身元が分かれば犯人にぐっと近づくのか。それとも第一被害者の身元に固執することはミスリードにつながる、危険なことなのか。それが分からなかった。
吉岡が荏原署の署長との話し合いを終え、殿山、白木の座る前まできた。
「直ぐに、荏原署管内の交番の巡査に新しく見つかった被害女性二人の顔と外見の情報を送って、照会している。何しろ今度も、林試の森公園そばの小山台一丁目の空き家、文庫の森そばの戸越四丁目の空き家と荏原署管内で全て起きているんだからな」
「遺体の放置現場が荏原署管内だとしても、被害者が全て品川区に住んで居いるとは限らないじゃないですか」
「分かっている。第二の被害者のように川崎戸手という事だってある。しかし、こう遺体が置かれた場所が荏原署管内に集中しているとなれば、どうしても地域を巡回して交番勤務も警邏たちは何をしていたんだとなるだろう。署長も恐縮しつつ、内の者たちは何をしていたんだと憤慨していた」
「それにしても、よくも空き家ばかり犯人は都合良く見つけられますね」
白木は、四度も空き家で遺体が見つかったことに関心が向いた。この犯人は営業で回っているだけではなく、空き家の情報にも通じて居るんじゃないかと思える。
「品川署の空き家対策の課の人間に、不審な人間からの電話なかったか、もしくは空き家に関連した不動産、司法書士、弁護士に、この四件の空き家に共通して関心を持っていた者が居なかったかと問い合わせてみてはどうでしょう?」
「気になるか?」
殿山も最初の被害者があった空き家の状況の時から引っかかっていた。空き家は東京都内でも八十万戸あるが、全てがすべて今日明日壊して更地に出来る物ばかりではない。なのに、都合良く遺体が置かれた次の日には解体される、ゴミを清掃処分される物件に遺体を置いた。早期発見させようかとう感じに。まさか中を調べもせずに解体業者が家を重機で揺すって壊してしまうので、遺体発見が遅れるとも考えた訳でもないだろうに。十四歳の少年の発見の経緯とその空き家の状況を詳しく調べないとならない。第三、第四の被害者が発見された空き家も近いうちに壊される予定があった物件だったとうことはありえる。
「品川区役所の(住宅課)空き家対策担当に問い合わせてみましょう」
殿山は吉岡に言った。
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