シリアルキラーが女を愛するわけ 19

 品川区役所の住宅課空き家対策担当の人間に来て貰って話しを聞いたところ、「空き家ホットライン」を設け、電話やメールで住民からの空き家に関する相談や心配事などを受け付けているそうだ。そして、東○株式会社と品川区住宅課が連携して、「住まいと暮らしのコンシェルジュ」というものを利用して空き家の売買にかんする相談、相続に関する相談なども受けているそうだ。
 荏原署に来た住宅課空き家対策担当の者は筥崎はこざきといった。筥崎の話では住宅課空き家対策担当の者は五人居て、住宅課課長以外は毎日外に出て空き家を見て回っているそうだ。一日に見られる数は多くないがそれでも一日八件~十件は見て回る。そして品川区内では空き家対策担当が見て回る物件は約二万五千~二万七千という数になる。毎日五人で十軒ずつ見て回っても五百日以上かかる。二年に一回空き家対策担当の者が見て回れれば良いという状況だとか。巡回が彼らの仕事ではなく、空き家対策担当全般に関わる。役所内での事務業務、物件が解体される時の立ち会い、ゴミ・不法投棄物の強制的回収時の立ち会い、「住まいと暮らしのコンシェルジュ」の者に任せきりということではなく空き家対策担当の自分たちも同じ内容の相談も品川区民から広く受け付けている。ようするに毎日空き家を見回る仕事は、役所での事務仕事を免除されてして居るのではない。出来ない日も相当あると筥崎は言った。
  「空き家」はまず所有者を確認。立ち入り調査をする。「特定空き家」の認定をする。助言・勧告・命令をだして改善を求める。聞き入れられなかった場合い行政代執行を行う。ゴミ収集、違法占拠物除去、家屋解体などの費用を徴収する。という仕事を住宅課空き家対策担当の筥崎たちはするとも言っていた。疑われるならば疑われてもしょうがいないが、自分たちは真面目にやっているので、連続殺人犯に疑われるのは悲しいと言っていた。
 弱音や愚痴を吐くつもりはないが、自分たちが見回れない物件に入り込んで、犯罪が行われているとすれば悲しいと思うが、しかし自分たちの見回りの隙をみて下見したみされていたとしても驚かないという。
「そうなんだ…それは、残念です」という感想しか出ないとも言った。

 第三の被害者の身元が、朝の合同会議までに分かった。名前は柊木ひいらぎ真弓。年齢は二十六歳。そして彼女もMAMDを使っていたことが分かった。柊木真弓の歯にMAMDのシートの細かい破片が付いていた。
 第四の被害者の身元は、名前は本田あやみ。年齢は二十二歳。意外に若くなかった。二人とも覚醒剤を常用していた可能性が出来てきた。詳しくは司法解剖のあと、科学捜査部に血液サンプルを送ったのでわかる。殺しにヘロインを使ったショック死だけではない、覚醒剤をつかった犯人との関係もみえてくる可能性がある。犯人は売人かもしれないし、反社会的組織の人間かもしいれないし、取引場所"周辺"に隠れて居る人間かもしれない。

 殿山と白木は、朝の合同会議のあとに第三の遺体遺棄現場と林試の森公園、第四の遺体遺棄現場と文庫の森を見て回ることにした。
 というのも被害者の二人のスマホが林試の森公園、文庫の森の池に投げ捨てられている可能性が浮上し、荏原署の鑑識係が捜索することが合同会議で決まった。なので白木の意見で、公園も見てインスピレーションを得ようとなった。

 林試りんしの森公園そばの小山台一丁目。旧木村信喜宅は三階木造一戸建てで、一階は普通自動車が入るガレージとお風呂場、お風呂場を隠すように二畳くらいの大きさのイ○バ物置があり、玄関には車庫側と正面側に扉が二つ付いていた。玄関は靴脱ぎと三和土、すぐに階段という作りだった。一階から三階までの床面積は、一階はガレージと玄関。二階は六畳二部屋と台所、トイレ。三階は六畳二部屋と四畳半、物干し場という大きさ。柊木真弓の遺体があったのは、二階の、家の正面から見て左側の六畳にあった。以前はどの部屋も畳が敷かれていたらいく、解体のときに邪魔だからと片付けられ一階のガレージに積まれていた。つまり柊木真弓の遺体は板の間にあった。

 文庫の森そばの戸越四丁目。旧田辺倭子宅は、スレート屋根、ダークブラウンのメッキ鋼板外壁のモダンな平屋建てで。親族の誰も要らないと言うことならばと「住まいと暮らしのコンシェルジュ」の東○株式会社は、家の中や敷地に放置されてゴミを片付け綺麗にし、直ぐ売ることを決めた。屋内は八畳が二部屋、六畳が二部屋、リビング、台所、トイレ、洗面所、ランドリースペース、お風呂場と十分な造りだった。本田あやみの遺体は、玄関正面から見て左の八畳の部屋にあった。八畳が二部屋は両方とも床はフローリングだったそうだ。六畳二部屋は畳の部屋だったが、畳はゴミが載っていた関係で二部屋の畳共に腐っていたそうだ。

 犯人は毎回被害者の血を拭いやすいように、板材の床か、フローリングの空き家を見つけているようだ。

 林試の森公園は、近所の幼稚園の子供たちも校外学習か散歩にくるような、静かで多くの目が常に届くような公園で。公園の真ん中に、ラジオ体操をするのに良さそうなタイル敷きの広場があり、軽くジョギングをするのによさそうな周回コースありと住民の憩いの場所として良さそうだった。公園の池には、滝まで付属していた。かといって大きい池ではなくヒョロッと細長い造りで、深さもそれほど深いという印象はなかった。
「ここなら被害者の所持品を捨てるのに、深夜ならば良さそうですね」と白木は感想をいった。殿山も頷いて同意した。わざわざ公深夜に園内を歩く住民は少なそうだ。昼間も日陰の場所が多く暗く感じるし、夜ならばなおさら暗くなるだろう。知っている住民なら来ないと思える。暗い方が良いと感じる、少年たちやお忍びのカップルなら分からないが。
「深夜に、池に何かを投げる音を聞いた人間が居ないか聞き込みをしても、情報が上がるでしょうか」
「深夜、電気が無くても構わない人間はどこにでも居るもんだ。大概、彼らは毎日来る。そして、暗い闇の中を自分の縄張りと考えて、神経を研ぎ澄まし張ってるから、普段と違った気配や音は聞き逃さないから期待出来るんじゃないかな」
「聞き込みに協力してくれますかね」
「小学校に近い場所は必ず、夕方から深夜に掛けて、痴漢や変質者が出ると噂があるものなんだ。だから疑われたく無かったら、協力するのが常識ある市民の義務ですよと最初に言えば、いろいろ思い出してくれる」
「本人が痴漢加害者かもしれないですよ」
「まー、わたしたちは連続殺人犯に手掛かりを見つけるのが先決だから。痴漢や変質者の実態をどうするかは所轄の人間に預ければいい。問題は問題なんだから、見過ごせば泣く人が増えるばかりだから、直ぐに対処するでしょうよ」
 白木は小さく肩を上げる仕草をして、溜め息を一つした。
 池の中で捜索していた鑑識班が何かを見つけた声を上げた。
 池から上がった物は、柊木真弓の蛍光色のカバンだった。カバンの中には、財布と免許証とクレジットカード、化粧ポーチ、被害者の部屋の鍵、被害者がどこかに借りたロッカーの鍵、貴金属のブレスレットが入っていた。

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