シリアルキラーが女を愛するわけ  8

 会議のあと、白木と服部は各々コンビを組んでいた荏原署の刑事に、一杯飲みながら一緒に今後のことを話しませんかと誘われた。特に白木は法本から酒を誘われたが、いつもそうしているように「警視庁に帰って終わらせる書類仕事が残っていますので」と言って断った。二人は並ぶように荏原署を出ると、真っ直ぐ警視庁捜査一課の自分たちのデスクに向かった。自分たちのデスクで書類仕事をしていると三十分遅れて殿山も捜査一課に現れた。
「おかえりなさい。あれから何か情報がありました?」と白木は殿山のデスクに側に行って聞いた。すぐに服部も白木の横に並んだ。
「被害女性に捜索願があるか調べたようだが、女性の身内からの捜索願はまだ出ていない様子だ。もしかした本籍が東京ではないのかもしれない」
「地方から、大学なり就職で東京に出てきた可能性が考えられますね」
「うん、そう思う。それでなければ若い頃から夜遊び慣れしていて、家族が二、三日の外泊では気にしない可能性もあるだろう。でも殺害された被害女性の姿をみて服部はどう感じた?」
「髪の色が少し渋皮色ですが、ストレートのさらさらした髪でしたね。化粧も少し濃い気がしましたが、普段化粧し慣れていない女の人と考えられました。覚醒剤の注射痕があり、これが犯人との接点のようですが、一カ所しか注射痕がありませんから、これも普段から常用していたとは考えにくいと思います。生まれて初めて覚醒剤で、過剰接収によるショック死が堅いと思いますが、どうですか?」うむ、と殿山が同意して先を即した。
「着ている物も、死語ですがヲタク趣味に見えます。彼女は東京のカルチャーとキャリアに、憧れて地方から出てきた女性とみえます。だから身内の捜索願も、女性が毎日のように連絡をするタイプではなければ一週間から十日、最悪半年、一年なくっても不審に思われないかもしれません。所持品がないのは、犯人が被害者の身元を分かるのを遅らせるために持って行ったと思います」と服部は答えを出した。
「でも、地方から出てきたとしても、仕事なり学校に行っていたと思うから、狭いながらも人間関係はあったでしょ。同僚または友達は一日でも姿を見ないと不審に感じるんじゃない」白木は現在の被害女性周辺の関係者が捜索願を出すだろうと言った。
「そうですかね。昔から東京砂漠というように、遭難しても都内では誰も気づかないんじゃないんですか。正社員ではなくパートやアルバイト従業員なら、雇い主も同僚も、またばっくれたと思うだけで、消えても疑問に思わないんじゃないかな」と服部が揚げ足取った。
「バイト先に親しくしている同性の人とか、付き合っている異性の友人、恋人がいるとことも考えられるけど」白木は反撃した。
「私が夕方の会議を聞いて頭に残ったのは、警察犬の捜査員が最初警察犬は東急大井町線の向かったように感じたという話だ」面白いことを発見したと言う風に殿山は言った。
「あれは大井町線の中延駅、線路を越えた先に地下鉄浅草線の中延駅があるからじゃないですか」服部が言った。
「真っ直ぐに警察犬は浅草線の中延駅に捜査員を引っ張って行かなかったと考えられないか。大井町線の中延駅まで引っ張って行った。しかし大井町線の中延駅の改札に向かわず、気が変わったように先に進んだ。そして浅草線中延駅の改札に捜査員を真っ直ぐに引っ張って行ったと」服部にサゼッションした。
「こじつけに聞こえますけど。じゃあ二人は大井町線で来たということですか? そして犯人は浅草線に乗って移動した?」
「少なくとも大井町線中延駅のホームと改札のビデオカメラも調べた方が良いだろう。あと解体業者に灯油とトリクロロエチレンが入っていた容器を見なかったか聞いた方が良い。それに被害女性の来ていたTシャツのキャラは何なのか。あのキャラを応援している、愛好している人間のコミニュティーがあるのか。それに被害女性も顔を出していたのか、実名、匿名に限らず。そのコミニュティーから犯人が近づいた経路が分かるかもしれない」
 白木と服部は、殿山が言った捜査ポイントを手帳にメモをして、明日さっそくコンビを組む所轄の刑事と捜索しようと決めた。
「殿山さんは明日は何をなさるんですか?」と白木が聞いた。
「わたしは、被害者女性の性器を切り取ったこの猟奇的な犯行に過去に類似した事件が無かった調べてみようと思う。あと気になるのは、この犯人の身元を隠す注意深さだ。なぜ犯人自身だけではなく被害女性の身元も分からないように消したのか。被害女性の身元を隠し、女性の体拭いて体と服以外の証拠を残さないように慎重にした行為は、逆に被害女性の身元が分かれば犯人も分かるような気がするが、果たしてそうなのか」と殿山が言った。
「少なくとも計画的な犯行ですね。普段から怨恨を持っていて、その場でカッとなって殺した訳ではなさそうです。被害女性に言葉巧みにお酒を飲ませ、酩酊させた跡に空き家に誘い込み、覚醒剤か何かで殺し、SEXはせず性器だけを切り取り、そして服をまた着せ直し、そのまま放置した。身内に対する計画殺人か、シリアルキラーの犯行かと疑われます」白木はシリアルキラーという言葉に恐ろしさを感じ、身が震えた。
「わたしもそれを心配している。犯人が今までも連続的殺人を犯していて、まだ私たち警察が発見できてないのかもしれない。または、この犯人がシリアルキラーになる最初の事件になるのかもしれないと考えられる。だとしたら、この最初の殺人事件で止めなければならない」と殿山は言葉にしたが、心配していると言う言葉と逆に、殺人現場を見たときから興奮していた。自分が刑事になった理由は、このようにアメリカで起きるような連続殺人や凶悪な殺人事件を自分の手で解決したいと中学生の頃に思ったからだ。殿山の両親は彼の父と同じ裁判官か、母の父と同じ自衛隊の幹部自衛官になって欲しいと思っていた。殿山も裁判官や弁護士になろうと思えばストレートで国家試験に合格して成れたと大学三年生の頃には思っていた。そこで大学中退して防衛大学校に入ってもまだ両親の期待に応えられただろう。しかし、殺人事件を書類で見て、良い悪いを判断するだけではワクワクせずつまらないと感じ。また、いつ攻めてくる分からない中国や北朝鮮、ロシアを警戒して一生を終わるのもつまらないと思っていた。だいたい被害が全く出ない戦争など誰が考えてもありえない。例えば中国が日本に攻め込んだとして、一瞬で中国に日本は制圧されるかもしれない。ただ国連加盟国のほとんどが、中国の一方的な進行、蛮行を見て見ぬ振りをするはずもない。国連で非難され、日本の同盟国、友好国が中国軍を日本の領土から下がらせるために国連軍を派遣するだろう。つまり中国の戦争は終わらない。そして中国軍の兵士、また中国の軍事基地周辺も攻撃され被害が出るだろう。戦争は思いつくのは簡単だが、すると成れば自国の兵士、国民、領土に全くの被害を出さずに終わる、勝ちきるなんてことは夢にもないのだ。だからどの国も戦争をしないのが一番だ。戦争をしない為に、防衛のために自衛隊に入り、一生を送るのは殿山には退屈以外にない。人が実際に死んでいる現場に居られて、その被害者の名誉回復の為に頭と身体を使う、時には犯人から反撃され殿山自身も命の危険がある警察、刑事の仕事は殿山を退屈させないと仕事だと予想した。だからこの道を選んだ。
 しかし、これまで解決した捜査一課での事件は殺人でも強盗でも放火でも銀行強盗でも、頭を使う事の少ない単純なモノばかりだった。

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