シリアルキラーが女を愛するわけ 20

 全ての殺人が終わったならば、華々しく死ぬことを望んでいた。
 ただ、あの女だけは予定通り行かなかった。
 あの女を選んだのが計画の最初の躓きだったんだろう。
 あの女は「誰でも良いから」とか「おしゃべりでもしましょ」などと、人恋しがるところがあった。十代全般を渋谷、原宿でギャルとして過ごしたと言っていた。別に友達(男の子、女の子)に騙された訳でも、距離を置かれているわけではないと言った。自分たちの世界が広がって、社会の人と、普通に会話して見たかっただけと言っていた。会話だけではな気安くキスまでしようとした。バカ女が。ポリアモリー(複数恋愛趣向)なのか、フリーセックス性向を隠して近づいて来たキツネだったか。

 いつの通り、ヘロインの量を安全を超えて入れた缶ジュースを、酔った女に飲ませた。最初からヘロインの効きが悪かった。上手く缶の中でヘロインは混ざらなかったのかもしれない。
 あの女は服を着たまま、ホコリが浮いて見える部屋の床に足を崩して座った。そして「なんだか眠い…」と言って横になった。
 馬乗りになって首を絞めるわけにもいかず、咄嗟の判断で女の頬を往復で叩いた。死ぬこともなく、意識だけを失い。気持ちよさそうに鼻からいイビキをかいていた。安らか寝顔を見てイラついた。仰向けにして、心臓をめがけて叩いた。胸を押したという感じではなく、頭まで振りかぶった両拳で叩いた。三度、四度と叩いた。胸を叩かれた時だけ、女は両目を苦しげに見開き、口から舌をだらしなく出した。ピンク色の濡れた舌が、暗闇でも見える気がした。最期は、肺の中の空気を一気に吐き出すように死んだ。

 あとはいつも通りに、女の女性器を切り取り、女の周りの血を拭き取り、きれいに廊下を拭き、トリクレンで丁寧に再度拭いて終わった。

 今日、警察に呼ばれた。全てが上手くいっていた。警察が自分のあとを追ってくることは想定どおりだった。生きて捕まるはずがないと思っていた。

 きっと分岐点になるだろう。

 あの背の高いファッションモデルのような女刑事を殺してみたくなった。
 連続殺人犯を血眼になって捜しているときに、モデルのように目立つ女性刑事が、自分たちが追っている連続殺人犯に殺される。そして連続殺人犯は姿を消す。消息は一切分からない。というストーリーが頭に浮かび、興奮した。
 警察への挑戦? 日本社会へのアピール? 好きなだけ考えるがいい。
理由はわからない。意味が分からない。それでいい。
 興奮して今日も寝られそうにない。
 いや、死ぬまで寝られなくても構わない。死ぬときに笑顔だったらそれで良い。

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