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【小説】地球の上であなたと
(約13,000字)
バンのスライドドアが開くと同時に、金木犀の匂いを載せた空気が車内に流れ込んできた。後部座席にいた僕は顔を上げ、こんな都会の街にも咲いているんだなと思った。
「ここで降りてください」
運転席から、コバヤシが人の良さそうな顔で振り返って言う。
「ここで、ですか?」
聞き返しながらも僕はシートベルトを外してカバンを肩にかける。
「はい。あなたが面会を希望した方は、今日この場
【小説】始まりの兆し、終わりのキッカケ
(約9,800字) 2023/12/26追記
「月が出てる」
半歩先を歩くダイスケさんが白い息を吐きながらそう言った。12月26日の月曜日だった。
道路に積もって凍った雪を踏む、わたしたちふたりの足音が、静かな住宅街に響いていた。綿をちぎってばらまいたような雪がふわふわと舞っている。
ダイスケさんの視線を追いかけて東の空を見上げると、山吹色のほそい月が浮かんでいた。下弦の月だ。
夜空が瞬
【小説】その苦しみの欠片ひとつ
(約3700字)
「どうしてさあ、」
太陽の方向から声が落ちてきたから、わたしは反射的に顔を上げ、眩しさに目を細めた。
声の主は、わたしの身長と同じくらいの高さの防波堤の上を、太陽を背負って歩いていた。
高校の授業が終わって、幼馴染のハルと、海沿いの道を一緒に帰っているときのことだった。
「ーーーーのかな?」
海のほうを向いたまま続きを喋ったハルの声が、風に連れ去られる。
「なに??」
【小説】少女と風(1/1話)
ある少女がひとり、海を眺めていた。
レモン色の陽射しが、水平線を照らしている。
ふいに、少女の耳に声が届いた。
「知ってる?あの海の中にはね、全部があるんだよ」
はっとして辺りを見渡すものの、生き物の気配はない。
「全部?」
少女は思わず聞き返し、じっと耳を澄まして答えを待つ。
すると再び、声が聞こえた。
「そう。もう二度と戻らない命も、いま生きている命も、これから生まれる