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創作ものがたり

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2021年11月の記事一覧

平行に見える垂直

平行に見える垂直

交差するその模様を見ながら
僕の横にいる彼は
「全てが直線だったらいいのに」と呟いた

「どうして」と僕が聞くと
彼は「そうすれば交わることを知らないから」
そう言った。

前々から彼には不思議なところがある。
僕と彼は幼なじみなのだが、たまにボーッとしながら何も無いところを眺め、その後考え事をしていることがある。

「何を見てるの」、と尋ねても
「何にも見てないよ」という答えが返ってくる

その

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認めたくないあいつ

認めたくないあいつ

下の顎にあいつが出来た。
私は慌ててビタミン剤を飲む。
困る!週末には大好きな阿部くんとデートなのに!

そういう時に限って出来るんだよね。
本当困る。

私は顎のあいつを触りながら鏡を見た。

え?なんでちゃんと名称で言わないかって?
絶対嫌。なんかこいつを認めた気がするから。

治っても治ってもすぐ出来て、挙句の果てに肥大化して増えたりする。
なんなの。水もいっぱい飲んでるし、基礎化粧品だって

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夜爪を切る

夜爪を切る

夕方。私は爪を切っている。

夜に爪を切ると親の死に目に会えなくなると
そう聞いて私は育ってきた。

周りに言うとそれは迷信だといわれる。

子どもが夜爪を切ると危ないからと
そこから来た迷信だと。

でも私は絶対に夜、爪を切らないようにする。

よく考えてみてほしい。
この迷信とほかの迷信との差を。

「午後に新しい靴を降ろすと怪我をする」
もちろんこれは子どもへの注意喚起であると思う。

「食

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その親子の目線の先

その親子の目線の先

昼休憩。会社の外にあるベンチで私の隣に座っている男の子が、上を見ながら叫んだ。

「東京タワーだ!!!」

ここは池袋。到底東京タワーなんて見えるはずがない。

母親が息子に向かって
「東京タワーなんてある訳ないでしょ」
と冷たく言い放った。

「あるってば!あそこに!」
子どもは見ている方向を指さした。

私が見ても、その方向にあるのはビルだけ。

「だから無い!」
「あるってば、見てよぉ」

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その声に従うの

その声に従うの

いっぱい食べる君が好き

その歌声がとても好きで

いっぱい食べようと思った

確かに我慢をする方が太るって言うし、
私的にも変なストレスを溜めたくない。

だからいっぱい食べようと思った

今日もまた聞こえてくる

「いっぱい食べる君がすき~」

私の愛する歌声がそういうんだもの。

いっぱい食べなきゃダメ、よね。

私は目の前にあるハンバーグをナイフで切りフォークでさす。

そしてそのまま口内

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それは大事なキーワード

それは大事なキーワード

1人、社内で残業していて、ふと思い出したことがある。
脳内で再生された声に、私はパソコンのキーボードを打つ手を止める。

「このF1のFって、なんの略だと思う?」

ちょっと低いようなそれでいて高いような
特徴のある声で、隣の席の君は言った。

「いや、Functionでしょ。機能」

いたって普通な私の声がそう返した。

「あー、なるほど」
「え、なんだと思ったの?」
「いや、特に何、とも。あ、

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画面が割れる理由

画面が割れる理由

携帯のケースを買った。
ずっと前から狙っていた、落としても画面が割れにくいというケース。

何故か分からないが、俺の携帯は落ちやすい。
俺の持ち方が原因かもしれないが、
それにしてもよく落ちて画面が割れてしまうのだ。

いい加減不便で困るし、それを防ぐという意味でもしっかりしたのが欲しかった。

元々俺はスマホケース否定派で、無しの方が持ちやすいし、何よりスマホリングが付けやすいので好きだった。

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12.25に彼らがするゲーム

12.25に彼らがするゲーム

待ち合わせ場所の時計台の下でAが待っている。
そこにBが来る。

A「よぉ」
B「よぉ」

歩き始める2人。
周りはクリスマスではしゃぐカップル達。

A「あ、って言ったら負けゲーム、しようぜ」
B「なんだよそれ」
A「言葉の通りさ。あって言ったら負け」
B「あ、つまりこういうこと?みたいなこと?」
A「そうそう。人間がよく使いがちやつ」
B「なんだよその言い方(笑)」
A「よくいるじゃん、言葉の

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