アウトソーシング利活用とIT部門の位置づけ考察(10)~自社を企画機能中心にする場合の留意事項 ~
前回(第43回)は、「9.アウトソーシング先を選択する際の委託詳細項目と10.選択重視(評価)観点」、そして、「11.アウトソーシング先への期待とその役割機能と契約方式」について考察しました。
今回(第44回)は、アウトソーシングの究極型となる、自社機能を「ビジネス企画中心型」にする場合の留意事項について考察します。
12.「ビジネス企画機能」だけ残した場合の留意事項
ここで提示する「究極型のアウトソーシング」とは、IT構築機能を全て自社から出してしまうということではありますが、「IT人材」をアウトソーシング化するということではありません。そこでは、如何にIT機能を自社の生業の中で使いこなしていくのか、如何に経営者目線で取り組めるように注力するための環境(組織役割、人材)を造り上げるということ。つまり、「ITの開発(設計~プログラミング、テスト、運用、保守など)」という従来型の「IT部門業務」中心から、ITを駆使した「ビジネス開拓や企画立案業務」中心に特化するために、アウトソーシング先や委託機能を選択するということです。
自社の「IT部門」を、経営に求められる「役割、機能(DXの推進)」に変革し、実践しえるように(特化)するために、強化、拡充するべきポイントについて、以下に示します。
(1)自社プロパーの役割、スキルの変革
システム構築/運用機能のほとんど全てを外部委託することになることから、自社要員のスキル内容や求められる役割が、大きく変わることになります。
特に、経営層に対する「理論武装」を強化するための能力向上が必須になると考えます。
■アウトソーシング企業に対する管理、指導能力。
(実施内容の検証能力の向上)
■検証ポイント、内容の取り決め能力。(契約内容)
■企画、立案ノウハウと、推進能力。(指導力、ネゴシエーション力)
■見積り基準の策定ノウハウ。
(契約内容)従量制、一括性、固定性等々の基準作り。
■技術検証能力と適用見定め能力。
■決断力。(ゴーサインの決定と、オーソライズ力(説得力))
■計画、スケジューリング力。
(2)アウトソーシング先企業との連携性強化
アウトソーシング化(外部委託)するにあたっては、そのデメリットである「小回り性」「意思疎通性」などの懸念事項を、最小限にするための取り組みが必須となります。特に、「隣にいて即対応可能だった環境」や「阿吽の呼吸感(同じカルチャー理解)」などで済んでいた事項に対し、必ずしも毛様にはならなくなることへの対応が重要であると考えます。
■アウトソーシング先要員との「意思疎通環境」の整備。
(自社理解への取り組み、人脈と信頼感の醸成)
■戦略の共有化や情報の共有化のための環境整備。
(自社社員なみの取り組み、『守秘義務契約』の厳格化)
■ネットワークインフラの整備。
(24時間の情報共有化を図る、セキュリティー強化インフラ確立)
(3)要員育成プログラムの策定(プロパー資質変革)
アウトソーシング化することでのメリットを最大限にするための取り組みとして、プロパー要員の「資質や動き方」についての変革が必須となります。
特に、技術そのもののノウハウ獲得という観点から、技術を「利活用」するためのノウハウに転換することが必要と考えられます。
■要員育成プログラムの具現化とともに、『資質の見定め』が必須。
■企画、立案ノウハウと推進能力。(指導力、ネゴシエーション力)
■決断力。(ゴーサインの決定と、オーソライズ力(説得力))
※ここで言う「コンサルタント」とは、第三者的なサジェッション者という立場ではなく、「当事者」として実践していく立場であるということ。経営的観点から、「IT利活用技術を有し、提言できる人材」と言う意味。
(4)アウトソーシング先企業の組織体制、運用体制の整備
アウトソーシング化するということは、自社の「殺生与奪権」をアウトソーシング先に与えかねない可能性が生まれてしまうと言っても過言ではないかもしれません。「そういう可能性がある」という危機感を持って、委託先を選択することが重要になると考えます。
■自社に代わって対応してもらということから、その規模、要件にあった 『常勤 』体制の確保が可能な企業の選択が望ましい。
■常勤体制を取ることから、仕事の量に関係ない『最低コスト 保証』方式の選択が望ましい。
・企画、計画立案要員は、固定費用制とする。
・開発、メンテナンス(保守)関連は、従量制とする。
■アウトソーシング先として、確保されていることが望ましい要件。
・24時間体制がとられていること。(自社の運営体制による)
・セキュリティーが守られていること。
・災害対策がとられていること。
・最大限の「安全安心」対策が確保されていること。
(5)アウトソーシング委託内容による、契約方式考察
アウトソーシング先への委託範囲と契約方式について、その考え方について以下に示します。
委託範囲について、以下の3パターンがあると考えます。
①上流工程までの委託
コンサルティング能力が高い企業への委託が望ましい。
■究極のアウトソーシング形態を選択した場合は、プロパーによる上流コンサル機能の強化を含め、委託先に対し「専任体制」をとることを要請、確立することが望ましい。
■この場合のコスト算定は、「固定費用(専任人件費)」とすることが望ましい。(確保要員数×月額料金)
②開発を含めた委託
SE能力(開発、マネジメント力)がある企業への委託が望ましい。
■開発案件の発生頻度によるが、SE維持のための「最低月額費用」を意識することが重要と考えます。
■開発、メンテが発生した場合は、個別(プロジェクト)毎の従量制とするのが一般的と考えます。
③運用だけの委託
一般のアウトソーシングセンター企業への委託でも良いと考えます。
■オペレーション関連の体制作りを中心に要請することが望ましい。
(出来れば、サポート窓口の設定も考慮)
■この場合のコスト算定は、「基本量+従量料金」が一般的と考えます。
*1:OJT (On the Job Training)
・ここでは、上流工程(コンサルティング領域)委託先への一定期間の出向などを含めた育成方式を意味する。
*2:常勤
・ここでは、常駐体制とすることを含め、常に「同じ人物(コンサルタント)」が対応するということを意味する。これにより、情報の齟齬を最小減にすることを担保する。
*3:最低コスト
・基本的には、「固定費」ということ。「基本料」的な意味合い。月額一定額を担保すること。
以上、自社の機能を「ビジネス企画中心型」に特化するために求められる必要最低限の検証観点について考察しました。当然のことながら、アウトソーシング先の選定を行うには、十分、慎重に行う必要があることは言うまでもありません。
アウトソーシングの範囲、採用先を考えられる際の参考にして頂ければと思います。
さて、次回第45回は、「最終回」として、「アウトソーシング先企業との取り組みにおいて意識しておくべき観点と、自社自身が意識しておくべき観点」について、「まとめ」ておきたいと思います。
【前9回までの掲載記事】
第35回
第36回
第37回
第38回
第39回
第40回
第41回
第42回
第43回