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記事一覧
創作SS『秋色カレーライス』#シロクマ文芸部
木の実と葉があちこちに落ちている散歩道。さく、さく、マロンミルフィーユをナイフで切断してゆくように、秋だまりに足を踏み入れてゆく。風がアスファルトを掃除してくれている。
残暑が厳しかった今年の秋。雨上がり。急に温度が下がって、肌寒くなった。秋風らしいかぜが吹いて、肌の表面をさささっと舐めてゆく。そろそろ長袖の季節。帰り道を急ぐ。
郊外のベッドタウン。家々の晩ごはんの匂いがあちらこちらから
創作SS『七月へと架ける橋』#シロクマ文芸部
紫陽花を撫でるように、しとしと降る雨音。六月三十日、誰もいない昼下がり、そっと瞳を閉じる。同じ空の下から、あの懐かしい家へ届けて頂戴。
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いつまでたっても、どんなに背伸びしても、完璧なお母さんには敵わない。でも競争はしなくていい、真似もしなくていい。私はわたし、の町で、ちょうどいい歩幅を見つけた。
春や夏には庭で栽培したハーブを摘んで、美味しい手料理をつくる。育ち盛りのこどもたち
創作SS『雨上がりの空のしたへ』#シロクマ文芸部
本を書く。のは、止めた徹夜明け。本を読む。のも、ちょっと休憩したい週末。日曜日の鮮やかな雨上がりの朝。暖冬の陽射しが雲の隙間から、天使の梯子を下ろしている。絶好の散歩日和。足がお出かけしたくて、疼いている。愛犬がリードを咥えて、足元にすり寄ってくる。散歩の催促だ。生きのいい魚みたいな尻尾のリズム。きらきらした上目遣いの瞳。愛犬の頭をゆっくり撫でる。時計が逆回転してゆくーーー、ダックスフンドのクリー
もっとみる創作SS『グレーパステルの夕暮れ』#シロクマ文芸部
冬の色はグレーパステル。灰色がかった淡い夕暮れ。吐いた息が長く残留するから、滲んでゆく橙色が泣いていた。心臓が内側で熱く鳴り響いて、寒い気温と競争しているようだった。駆け上がってゆく呼吸。たった、たった、たった、たんっ。頬が赤らんでくる。早くなってくる足取り。雪で滑って、つるり。尻もちをつく。どこまで行っても届かない、うちの明かりを捕まえたかった。
『ねえ、A、どうやったら、うちの明かりを捕獲で
創作SS『卒業写真』#シロクマ文芸部
十二月。今年最後の月。
あなたのことばの群れが
わたしから離陸してゆく
*
出勤前、iPhoneに着信があった。視線をMac book から、iPhoneへとスライドさせる。いつもの番号が点滅している。かけ直そうとして、手を制止する。深呼吸して、スタバのトールのカップと相談する。もうソイラテは冬の傾斜の角度に負けて、冷めてしまっている。昨夜の出来事をひとり検証していた。
最近、同棲中の彼
創作SS『幸福の青い鳥2023』#シロクマ文芸部
逃げる夢。
*
雨の帰り道。水たまりのなかで、青い鳥は羽根を怪我して、ぐったりとしていた。人々は足早に通り過ぎていって、誰も気づいてはいない。ぼくは見過ごすことができず、コートをびしょ濡れにして、鳥を抱きかかえて連れ帰った。羽根はすす汚れていて、ちょうど今日の曇天みたいだった。
帰宅してすぐに暖房を入れて、怪我の手当てをしてやった。そしてあたたかいお湯で、汚れた身体を洗ってやった。汚れが
創作SS『トイ・ストーリー』#シロクマ文芸部
りんご箱に眠っているのは、壊れた玩具たちだった。チクタク、チクタク、ボーン、ボーン、
(I was re-born!)
縫い物をしていたお婆さんがふと時計を見上げた。
『おや、もうこんな時間、夕飯の支度をしないとね』
時計の針は、時間と時間を縫い合わせる。時は既に午後五時を告げていた。
お婆さんが台所に移動すると、りんご箱の玩具たちは、ひそひそ話しを始めるのだった。かすかに残留するりんごの香
ショートショート『Dialog』
(客:あらゆる美味しいものを味わってきたけど、一度でいいから青空を囓ってみたいなぁ……)
(店主:たまに空の機嫌がいい時、世界の欠片が降ってきますよ)
(客:どんな味がするんだろう)
(店主:ひとびとの悲しみや憎しみを消化して昇華した優しい味ですね)
(客:神様からのお釣りみたいだ)
(店主:正に珍味です)
(客:100gあたりおいくらですか?)
(店主:非売品ですよ。神のみぞ知る)
(客:どうす