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ごはんエッセイ、おいしい毎日

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日々食べたおいしいものをエッセイとしてまとめてます。 たかいものからやすいものまで美味けりゃなんでも食べる。
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この穴子、掛け布団にしてくれませんか? きたろう柳橋店で最高のすし納め。

この穴子、掛け布団にしてくれませんか? きたろう柳橋店で最高のすし納め。

 もう年末か、なんか今年は年末って感じがしないなあ。それは毎年こぼしている言葉だった。忙しさのせいか、歳のせいか、何にせよ一年の終わりを認めたくない防衛本能がそう言わせているのだろう。ガラガラに空いている名古屋高速を走らせ、ひとりごちる。

 今日はすしを食べる日、と決めていた。冬季休暇など関係のない職業のせいで、正月だろうがなんだろうが仕事に追われているのだが、せめて少しだけでも年末気分を味わい

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でっか何これ嘘だろ……やっぱ現実だったわ。銀座天龍のデカつよ餃子

でっか何これ嘘だろ……やっぱ現実だったわ。銀座天龍のデカつよ餃子

 でっかい餃子が食べられる。これほど幸せなことはない。いつも僕は感じていた。餃子、ちいさいと。特に僕が愛するラーメン屋の餃子はなぜかどれもちいさい。

 どこにあるかわからないサイズのものを箸先でちょちょっとつまんではい終わり、といった様子なのだ。王将の餃子はなかなかのサイズで満足はしているが、それでもまだ足りない。笑っちゃうくらいに大きいものを食べたいのだ。

「餃子 でかい 愛知」

 馬鹿み

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ソウルフル(店主が)ラーメン、燕参上探訪記

ソウルフル(店主が)ラーメン、燕参上探訪記

「いくわよ♡」
 確かに髭面の大将はそう言った。僕は目の前のカウンターで確かに聞いた。その口ぶりからハートが付いていることも確かだった。

 以前から名古屋の伏見に不思議なラーメン屋があることは、僕の耳にもよく入っていた。カレーがうまい、看板がガムテープ、やたらノリのいい大将、などとラーメンと関係のない評判が多くを占めていて、おおよそそういう店は肝心なラーメンがまずいってのが相場だった。

 しか

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どすこい!なんでもうまい四文屋は楽園でした。

どすこい!なんでもうまい四文屋は楽園でした。

 夜、デモ行進などで騒がしい大都会新宿。その喫煙所に風変わりな三人組が集結した。ひとりは知的な美女、ひとりはセクシーな美女、そしておじさんの僕だ。

 はたから見たらなんの集まりか皆目見当がつかない。家族には見えないし、パパ活ってのも何やら変だ。実際僕らもツイッターで出会った三人とはいえ共通の趣味があるかといえばそうでもない。本当に不思議な巡り合わせなのだ。ちなみに知的美女はいつの日か新橋で一緒に

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夜の納屋橋と味噌フォンデュ

夜の納屋橋と味噌フォンデュ

 前回のあらすじ。下戸なのに飲みすぎて、天井が回る。まさかの続きものである。僕は荒っぽく吹き荒ぶエアコンの冷風を全身に浴びて熱を覚ましていた。浴衣の隙間へと流れ込む冷たい風が気持ちいい。

 午後七時、外はようやく夕闇が訪れ始めたところか。窓のない部屋ではそれがわからない。都会のど真ん中で温泉を掘ってみたら掘り当てたという、本当かどうか疑ってしまうエピソードを持つこのホテル。名古屋クラウンホテル。

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納屋橋酔いどれふらふら日記。昼飲みデビュー編

納屋橋酔いどれふらふら日記。昼飲みデビュー編

天井がぐるぐると回る。ごうごう、無機質な空調からの冷風が酔いに酔って熱った体を逆撫でていく。僕は完全に酔っていた。

日々の目まぐるしい仕事を達成したご褒美に県内のビジホにわけもなく泊まる、という癖がある僕はこの日、名古屋クラウンホテルにチェックインしていた。

兼ねてから昼飲みに憧れがあった。休日に名古屋を歩いていると傍目に見えるサラリーマンをリタイアした老兵たち。そして何の仕事をしているのか分

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古きを知り、新しきを知ったごちゃごちゃうまラーメン

古きを知り、新しきを知ったごちゃごちゃうまラーメン

では、こちら特急料金のお返しです。このたびはご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ありませんでした。

二人の職員から深々と礼を受ける。名古屋駅のみどりの窓口。本来支払いをする場所で僕は逆にお金をもらっていた。先日の東京旅行での帰りに起きた新幹線の停電に伴う返金だ。

こちらとしては冷房の効いた東京駅の車内でただ二時間寝てただけなのだが、それだけで四千円ほどもらえるのはありがたくて仕方がない。思わぬ臨

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焼酎、蒸し暑さ、カニクリームコロッケ、そして揚げ出し豆腐

焼酎、蒸し暑さ、カニクリームコロッケ、そして揚げ出し豆腐

愛知よりはまだマシだろう、その根拠のない自信は駅に着いた途端に儚くも打ち砕かれた。東京、新橋。ここはサラリーマン、そして飲んだくれの街。

金曜日の新橋は蒸し暑さは人混みによってもう限界。無意識に駆け込んだ冷房の効いたコンビニ。

その入り口でウコンの力を勢いよく飲み干すワイシャツのおじさんに、この街の本気度が伝わってくる。

そして店内の栄養補給系ドリンクコーナーにもウコンの力は山積みで、思わず

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想像と違った、ドクターペッパー

想像と違った、ドクターペッパー

 地下の空間で汗だくの中年男性がひとり、自動販売機の前で立ち止まっていた。ここは大須のとあるゲームセンター。いつものように音楽ゲームを何度もプレイした僕は頭から湯気を立ち上らせ、その息は軽く上がっていた。

 現代の音ゲーはリズムに乗ってたのしくミュージック!みたいなノリではない。複雑怪奇な譜面を見切り、二分間に二千近い打鍵と共に皿状のデバイスを回したりする行為を強いられるのだ。音楽を楽しむ余裕な

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運ちゃんの隣で、朝からのラーチャーセット

運ちゃんの隣で、朝からのラーチャーセット

 夜通し働き仕事仲間に別れを告げたあと、疲れた体もなんのそのという気概でもって僕は高速道路をひた走る。目的地の温泉街を目指して。

 連勤が続いていた。澱んだ空気の事務所に降り注ぐ朝日に瞼をしょぼしょぼと震わせ、ボケ切った頭を叩いて気合を入れ直す。隣を見たら同じ顔。そんな仕事仲間との他愛もない会話の中

「緑川さん疲れてますね〜。温泉とかどうっすか」

 と言われたので疲れた僕はそれを真に受け、仕

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卵とトマトと中国と

卵とトマトと中国と

 なんか行きたくなる店、ってのがある。特別近くもなく、大絶品というわけでもない。なんなら世間様の評価も別にそんな高くもない。それでも気付くと足を運んでしまう店、というのが自分の中にいくつもあって今日もそこへ自然に体が吸い込まれていった。

「明和酒家 大須301店」

 大須のとあるビルの三階にある中国料理店だ。同じフロアにはサイゼリヤと、本格カレー屋と、そして大量のコンカフェが混在するカオスなも

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勝利の町中華と夜鳴きそば

勝利の町中華と夜鳴きそば

 秋葉原という街はいつでも誘惑に満ちている。とりわけ最近では二郎系のラーメンとコンカフェ。そのふたつで構成されていると言っても過言では無い。

 おたくたちは二郎系を食べた後にコンカフェに行くのだろうか。にんにくの匂いが充満する店内というのは大丈夫なのだろうか。そんなことを思いながら僕は夕闇に包まれた秋葉原を歩いていた。空腹だった。

 東京旅行に来ると毎度のようにここに来てしまうため、いっそのこ

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百円のかってえほっせえ焼き芋、いいよね。

百円のかってえほっせえ焼き芋、いいよね。

 焼き芋。子供の頃はとてつもないご馳走に感じた。何せ作る手間がとんでもない。というか焚き火自体がめんどくさい。

 僕の少年時代、焼き芋を食べるためにはまず近所の農家による焚き火に遭遇する必要があった。遠目に橙の輝きを発見すると、大急ぎでさつまいもとアルミホイルを両手いっぱいに抱えて走り

「おじさん、これ焼いてよ!」

 とおねだりせねばならなかったのだ。燻るわらを見つめてようやく辿り着いた焼き

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凍てつく夜にはかまたまうどんを

凍てつく夜にはかまたまうどんを

 氷雨が降り注ぐ午前一時。暖房を切った凍てつく部屋で、ひとり中年男性が腕を組んで白い息を吐きながら立ち尽くしていた。僕だ。明日は休みだから夜更かしでもしようと思っていたが、どうにも仕事の疲れからか早々に寝入ってしまった。

 寒さと空腹が身を絞っていくが、今から外出するのも億劫だし、この時間にカップ麺というのはたるんだ体を見るに我慢したいところではある。

 そうだ、かまたまうどんだ。昔イシヤマア

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