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ノンフィクションのブックレビュー

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ダンスや舞踊以外がテーマのノンフィクションの本のレビューです。
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#おすすめ本

『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』古賀史健著:ライター&編集者必読の「泣ける」実用書

『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』古賀史健著:ライター&編集者必読の「泣ける」実用書

すごい。内容がよすぎて、重要と思ったところに紙を挟んでいったら、ほぼ全ページになってしまったので、特によい箇所をここに書き出すこともできない(笑)。

と思ったら、本のAmazonページに版元が、「一読者として読み返したら、ほぼ全ページ付箋まみれになってしまいました(担当編集者)」と書いていて、同じだと思った(!)。これは宣伝文句だろうが、私の本書の読書体験によると真実だ。

タイトルもいいし(「

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『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』先崎学著:当事者がつづった、回復へのポイントがわかる本

『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』先崎学著:当事者がつづった、回復へのポイントがわかる本

プロ将棋棋士で、漫画『3月のライオン』監修も務め、忙しくしていた著者が、50歳を目前にうつ病にかかり、1年間の闘病を経て現役復帰した。その療養の日々をつづった手記。

兄が精神科医で、妻はプロ囲碁棋士という、身近に理解者がいる環境ではあったと言えるかもしれないが、病状は深刻だったようだ。

性欲の減退や、文章が読めなくなること、テレビで言っている内容も頭に入らなくなること、落語などの複雑な筋が追え

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『パリでメシを食う。』川内有緒著:追い求めるのをやめずに動き続けること

『パリでメシを食う。』川内有緒著:追い求めるのをやめずに動き続けること

『パリでメシを食う。』というタイトルから、「フランスでグルメ巡りをするエッセイかな?」と思ったら、全然違う。

本書は、パリにある国際機関で働きながら、パリにいる日本人を訪ね歩き、話をし、その人生を紡いだ、著者初の本だ。

アーティスト、職人、経営者、国連職員、料理人など、していることはさまざまで、どれも憧れるような職業かもしれない。しかし著者が語っているように、「参考にならない」話ばかりだ。

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「人権」とは何か?『THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本』ブレイディみかこ著

「人権」とは何か?『THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本』ブレイディみかこ著

イギリスで保育士として働き、日本で多くの著作がある著者が、2016年に4カ月、日本に滞在して、キャバクラの労働争議、デモ、保育園、貧困の現場などを取材したルポ。

人間に最後まで残るものが「人権」最も印象深かったのは、財力、言語能力、体力、コミュニケーション力、友人などがあるならそれらに頼って生きていけばいいが、それらがすべてなくなったときに、それでもまだ頼れるものとして残るのが人権なのだ、人権は

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『インディオの村通い40年 <いのち>みつめて』清水 透 著

『インディオの村通い40年 <いのち>みつめて』清水 透 著

歴史・人類学研究者の著者が、数十年にわたり、メキシコにあるインディオの村を訪ねて調査した記録。

詳しい学術研究についてではなく、親しくなった人との交流や、現地調査をする学者として、人間としての心構えや、自身や娘の病気を通して学んだことなどを、エッセイとしてつづっている。

もともとは「東京新聞」に連載されていたコラム。

人間を学問の「対象」としてカテゴリーに閉じ込めることには問題がある。いかに

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『ヨーロッパ・コーリング
地べたからのポリティカル・レポート』	ブレイディみかこ著:ブレグジット前夜のイギリスを活写したノンフィクション

『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』 ブレイディみかこ著:ブレグジット前夜のイギリスを活写したノンフィクション

インターネット記事として発表された文章をまとめた本。

少しだけ前のヨーロッパの政治・社会情勢を、イギリスのメディアで報道された内容や、イギリスで家族と共に暮らす著者の実体験に基づいて、伝える。

読んでいるうちに当時のことがよみがえってきて、現在の状況について少し考えた。

首相になる前のボリス・ジョンソン氏も登場する。本で書かれている当時も今も変わらないのは、スコットランドのニコラ・スタージョ

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『聖なるズー』濱野ちひろ著:ドイツの動物性愛者団体に迫った開高健ノンフィクション賞受賞作

『聖なるズー』濱野ちひろ著:ドイツの動物性愛者団体に迫った開高健ノンフィクション賞受賞作

動物性愛(zoophilia)は、「精神疾患」とされることも「性的指向」とされることもある。小児性愛と同じように捉えられ、忌み嫌われることの方がおそらく多い。ヨーロッパ諸国を含む国々で、人間が動物と性的関係を持つことは、動物保護の観点から動物虐待と見なされ、違法だという。

しかし、ドイツでは、世界唯一の動物性愛者団体「ZETA(ゼータ)」が活動している。メンバーたちは、実名と顔をカミングアウトし

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『吃音 伝えられないもどかしさ』近藤雄生著

『吃音 伝えられないもどかしさ』近藤雄生著

「どもり」とも言われる「吃音」について、当事者だった著者のフリーライターが、多くの当事者のインタビューを基に、直面する問題や向き合い方を書いた本。

周囲にいるはずなのに、見えない存在にしているのはよくないと思いつつ、何もできてはいないのだが、まずせめて本で知ることから始めたい。

著者も書いているように、「吃音」が「障害」になるのは、社会、人々の受け止め方によるのだと思う。「素早くはっきり滑らか

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伊藤亜紗『記憶する体』:障害や病気のある人が編み出した知恵とは

伊藤亜紗『記憶する体』:障害や病気のある人が編み出した知恵とは

伊藤亜紗著『記憶する体』は、それぞれ異なる障害や病気のある人たちが試行錯誤や創意工夫を経て身に付けた、身体の「ローカル・ルール」を、インタビューから浮かび上がらせた本。

■p. 46
「ものを作るという作業をしていくと、自分が何を求めているのか、何を知りたいのか、ということの基盤が、・・・具体化していくんです」

全盲になってからも、メモを取る人の言葉。書くことで、思考が整理される。絵も描く。手

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イギリスの中学生の視点から見る厄介で愉快な多様性社会『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ著

イギリスの中学生の視点から見る厄介で愉快な多様性社会『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ著

イギリス・ブライトン在住の著者が、芸術活動などを推進することで「底辺」を抜け出しつつある中学校(secondary school)に入学した息子やその同級生などに対する観察や、彼らとの付き合いを通して、時にハードだが興味深いイギリス社会の、ある側面の縮図を書いた本。

息子は、小学校はカトリック系で、お上品でそれなりにお金のある家庭の子どもたちがいる学校に通っていた。非白人もそれなりにいる学校だっ

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