マガジンのカバー画像

閑文字

207
詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
運営しているクリエイター

#眠れない夜に

終末の日

幽窓から見える低気圧色の灰世界。
輝きのない光で草木が浮かび上がる。
葉擦れの動きが顕微鏡の世界みたいに蠢いている。
ふとんがあったかいだけで、空から火の渦が降ってきて、明日この世が終わってしまえばいいと思う。まくらの匂いって落ち着く。きっと自分の汗とか脂で、洗濯しないと、怒られちゃうようなものなんだけど、背徳感のある匂いは、人を虜にする。起き上がらないと、後で頭痛が酷くなるって、血行が悪くなった

もっとみる

おべんとばこのうた

これッくらいのぼくのおべんとばこには、食べ物がぎゅうぎゅうに詰まっていた。アイジョウを込めて作ってくれたので残さずに食べましょう、って言われても、食べものが詰まってるとしか思えなかった。彩りがキレイだね、って言われても、プチトマトと御飯の食べ合わせが悪いんだよなって思ってた。それでも仕事に行く前に作ってくれたし、嫌いなものもなかったから不満は言わなかった。きっとこれが一番最初の忖度だと思う。
料理

もっとみる

夏がくる

今年はじめてクーラーをいれる。新しいのに換えてから黴臭い匂いはしなくなった。
誕生日の苺のショートケーキの色褪せた写真。姉が生クリーム嫌いだからホールケーキに憧れてた。僕の写真はアルバムに綴じられてなくて、輪ゴムで束ねられてた。
クーラーが騒々しい。冷却用に合理的に作られているから、きっと扇風機みたいな夏の風物詩にはなれない。
白いコンクリートの上で受けていた炎天は、差すより刺すって感じだった。さ

もっとみる

桑海感

二〇キロの舗装路を歩いた先で河畔に座る。イヤフォンの充電が切れて、アイシテル変換大喜利は聞けなくなった。僕たちは言葉を授けてもらえなかったから、アイシテルしか見つけられなくなったのかな。
風が顔と首に触れて、汗をかいていたと知る。汗はさらさらと流れているのではなく、膜みたいにべったりと覆っていた。今更日焼け止めを塗っていないことを後悔する。ジリジリする肌も風が吹けば快を感じる。生物にとって体温調節

もっとみる

心を真ん中に受け入れる

何でも受け入れるよ、って言わないでほしい。能動的な目の輝きが怖い。やさしい意味のキャッチフレーズを使えば、やさしい人間になれると思ってるらしい。キャッチフレーズには、本棚の専門書みたいに、在るだけで他者を圧倒する力があるから、それで飾り立てれば空っぽの武器を手にできる。
知識が議論の材料じゃなくて、討論の武器になっている。繕うべき破れを指摘していた営みが、相手をビリビリに破壊する行動になった。知識

もっとみる

変異型恋愛

新型コロナウイルスみたいにド派手な登場をしなくても、人間に感染しているものはいっぱいある。
 
はじめて買ってもらったニャーちゃんで人形遊びをしていた。ふわふわだけどほっぺに当たると少し痒くなる毛をしていた。そのあとにみみぃを買ってもらった。やさしく撫でてくれるみたいな耳のふわふわが好きだった。次にぴょん吉とナガゾウを買ってもらって、しし丸を買ってもらった時に、人形遊びをしているのは自分だけになっ

もっとみる

名付けという願い、名前という呪い

子供の名付けに親は願いを込めると聞きます。“和樹”という名は、“和”を父親から、“樹”は家の裏にたくさん木が生えていたから名付けたそうです。ここにどんな願いを込めているのか私はもはや知ることはできませんが、小学校の先生に「平“和”を“樹”立するじゃない?」と言われたときに、そんなに大きなものを背負わされなくて良かったと思いました。
名前の願いとは、意味が文字から出られないように、強く影響を与えるこ

もっとみる

居場所

こどもっぽく居られる場所が、わたしの居場所。はじめて十九時まで学校に残った時、校舎が居場所になった。教室の三十六分の一の領域は、狭くて安心できるけど、隣国が多いから常に外交仕様にしている。机の上には教科書とノートと蛍光ペンを広げて、机の下では校則違反のスマホをいじる。委員会をやらされてめんどくさい、ってともだちに合わせて言ってたら、肌の上は綺麗になって内臓に毒素が溜まっていった。おともだちとは仲良

もっとみる

fasutohuudo

ウチの旦那は感想がないから料理のし甲斐がない。食事はエネルギー補給。料理はエネルギー源。プロじゃない料理人はエネルギー変換装置。どうせ味わってないから早くて安ければいい。食後には情報濃縮サプリメント。一回二錠。最新技術で一錠減ったよ。言葉の味なんてとことん無くそう。漢字の歯堪えも、カタカナのサクサクも、ひらがなのねっとりも。良薬は口に苦しって言っとけば似非知識人は納得してくれるから。日本語の美しさ

もっとみる

鋭徹な清潔感

現実に疲れた日は、生理的激動の少ない日常系の情報に身を晒す。下半身が溶け出るような表現は、きっと人間をよく表していて、顔しか知らない隣人の寝室を盗み見ているみたいな快楽があるんだろうけど、圧力が強くて全身が溶け出している社会では、マーブル状にしかならないから、我鳴り声に耳を傾ける。鋭利な名説に酔いしれる。液晶のショーウィンドウに並んだ清潔感を眺めてから、隣の席の汗かいて脂ぎった仕事一筋のアイツを馬

もっとみる