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閑文字

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詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
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#midjourney

【詩】黒曜石

【詩】黒曜石

新発見。ことばとは黒曜石の石刃。
圧倒的な熱から剥がされ落ちたブラックが何
かを隠して、白光の照り返しでミニチュアの
山脈が浮かび上がる肌。刃と宝剣と包丁を象
徴している力を、水平線のように光らせてい
る。
おうち焼肉をするから、血液が肉体の熱源だ
ってことを忘れてしまう、と皮膚を這う血に
教えられる。
ぼくの心臓の脇には黒曜石が入ったまま。刺
さるというより肉を押し分けながら入ってき
た。
痛み

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【詩】星母子

【詩】星母子

母は一人で私を育ててくれた、
その感謝はあるのです。
しかしそれゆえの孤独もあったのです。
「感謝しかない」と生きるべきなのかもしれ
ませんが
そうしてしまうと幼い自分を見捨ててしまう
ようで
まだできそうにありません。
 
自然の中から手繰り出した彫刻刀によって
惑星の表面には大規模共同住宅だけが残る。
黄ばんだ橙色のライトがつくりだす
規則的な星空の下に二人だけがいる。
他人とも、寄り添いあっ

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【詩】血と飴玉と男と女

【詩】血と飴玉と男と女

血液が沸騰して外へ向かおうとする機構が作
動すると、人間は男になる。
チュッパチャプスみたいなことばで顔が溶け
ると、人間は女になる。
「蓋を開けて」と頼まれると、人間は男にな
る。
flying tigerに入るとき、人間は男になる。
flying tigerのペンケースを見ているとき、人間は
女になる。
誰かの手が置かれた肩がチリチリと発火しは
じめて、ビリビリと痺れに変わっていくと、
人間は

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【詩】ひまわり先生

【詩】ひまわり先生

多様性とは、風が吹いてひまわりが揺れてい
ることだ。
枯れ葉を巻き上げているだけでたのしんでい
る、おもちゃの竜巻から生まれていった風が
誰かの庭先に植わったひまわりとたまたま出
くわして、お見合いをしながらすれ違った、
ということ。
台風みたいに森を波立たせることでも、満員
電車みたいに全部消してしまうことでもない。
「多様性とは、風が吹いてひまわりが揺れて
いることだ」
この言葉が風になって、

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型抜きの痕

型抜きの痕

半袖から伸びた、日焼けした腕の先、きみは
ミディアムレアの指で、手折った桜を差し出
す。代わりに渡した五百円玉が歪みそうなく
らい熱を持った夏の日。
好きも契約関係なんだからさ。
ビニール傘のみたいな中手骨を感じる。簡単
に折れてしまいそうになるのに、恋人つなぎ
なんて名前をつけたのは誰なんだろう。きっ
とぼくらみたいな、桜が咲くときの爆発で一
部分が欠けた人たちだったんだろう。
暗い部屋で、白い

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夢祭(ムーサイ)

夢祭(ムーサイ)

ベッドの祭壇に躰を捧げる。
夜はこの供え物を受け取ってくれなかった。
ブルーライトが良くないとか、
いろいろ言うけど、朱い季節の青白い月は
きれいだ。とてもちいさくて。
アブ・パルナッソスを唱える。
二階から見える花火みたいな音を立てながら、
時計の針は時を刻む。
朧月夜、提灯色のりんご飴。
りんごが落ちた時のような、シナプスの発火を待っている。
アブ・パルナッソスを唱える。
女神のウーアーに合わ

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waters

waters

人間を不可算名詞化すると、霧中の蓮になる。
折り鶴の内臓みたいに
花弁を織り込んだ、ふっくらとしたつぼみが、
湯分量の多い空気の中にいる。
お湯の中に残っている炎が蒼く反応して、
空の散乱みたいな
生き死にを繰り返しながら、
気管に熱を押し付ける。
陰湿な抵抗を受けながら、折り皺を
伸ばしていって、ひっかかりのある
ツルツル表面を晒す。
縫い付けられた花弁が落ちると、
蜂の巣しか残らない。
キープ

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グレーのポロシャツが汗で地層

グレーのポロシャツが汗で地層

この街の横断歩道の脇には
螺旋状の地層がある。
雑巾絞りされたチョコレートケーキ
みたいな、石と骨と
あったかかった部分たちが溜まった土塊が、
肉体から出ていかざるを得なくなった
魂が天に昇るみたいに立っている。
青空には届かなかったけど、テニスラケット
に打ち上げられた光を浴びている。
 
LEDライトのレジンに固められたレンガが、
黒いコンクリートをモルタルにして
積み上がる。
航空障害灯が、

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今日生

今日生

はれると花冠を開いて、
くもると閉じる。光に呼応して生きるのが共生だ。
松明に星たちが殺されていって、満天が
六十天の星空になったから、
焼け野原から生還した者たちで星座の物語をつくった。
松明のあかりに照らし出された石舞台は、長野県みたいに
大地に填め込まれた重厚感があって、
虚飾を纏ってもキケロに見える。
彼の息が炎と
オーディエンスの心を揺らし、石壁に移る影のように
肥大した言葉を放つ。

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