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徒然日記

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#コンテンツ会議

池井戸潤『ロスジェネの逆襲』読了

 『ロスジェネの逆襲』を読了。

 前2作と同じく、スカッとした読後感。

 舞台は、左遷先の証券会社で、仕事を横取りした親会社たる銀行に喧嘩を売る、というなかなか無い展開だが、熱くなれた。

 銀行、というだけでややこしいイメージを抱いていたが、このシリーズは読みやすい。

 キャラクターも、ロスジェネ世代代表の森山も、バブル世代の半沢と対照的な存在として、書きたかった一人なんだろうな、と考えつ

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徒然読書日記~ロスジェネの逆襲

 異動1日目。
 これからのことも考え、確実に混む、1、2本は見送らざるを得ないであろうバスを避けて、徒歩で新しい職場へ。(新しい、と言っても、実際は「出戻り」だが)
 覚悟はしていたが、ユニフォーム一式も抱えて10分以上歩くのは楽ではない。そうでなくとも自分がもっとサクサクと歩けないのがもどかしい。

 ・・・しかし、このような時間があったからこそか。
 昼休みに、本を開いた時の喜びは大きかった

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徒然日記~朝井まかて『残り者』読書中

昨日22時代に、布団に潜り込んでそのまま朝を迎えてしまった。

 そして、カーテンをめくれば、外は雪。満開の桜の上に雪。

 めったにない取り合わせだというのに、あまり心は浮き立たない。

 「外出禁止令」に従い、気を取り直して本を、と思い、手に取ったのは朝井まかてさんの『残り者』。

https://www.amazon.co.jp/%E6%AE%8B%E3%82%8A%E8%80%85-%E6

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映画「ハルカの陶」覚え書き

映画「ハルカの陶」覚え書き

 ユーロスペースで、映画「ハルカの陶」を見て来たので、覚え書きをば。

 内容は、最近流行りの「女性が自分らしい生き方を求めて、新しい世界へと飛び込んでいく」話。

 ストーリーは、その王道といえば王道。

 まず、特に好きなこともなく、会社に務めながら代わり映えのしないヒロイン登場。

 ある日、何気ないきっかけから、「未知の世界」へと触れ、興味を持つ。

 勇気を出して飛び込んでいくも、決して

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映画「トールキン

旅のはじまり」覚え書き

映画「トールキン 旅のはじまり」覚え書き

「今日見たいっ!延ばしたくない」

 そんな思いに取りつかれて、映画館へ。

 目当ては『トールキン 旅のはじまり』。作品の存在を知ったのも今朝のことだ。

 タイトルからお察しの通り、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の作者トールキンの若いころを描いた伝記映画である。

 彼の生涯については、戦争に従軍したこと、言語学の教授だったことなど、断片的に知ってはいた。

 が、「こういうことがあった」

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原田マハさん「群青 The Color of Life」(『常設展示室』)覚え書き

原田マハさん「群青 The Color of Life」(『常設展示室』)覚え書き

「朝、目覚めると、世界が窮屈になっていた」

 原田マハさんの短編集『常設展示室』の冒頭におかれた『群青』は、このようなカフカの『変身』を思わせる文章で始まる。

 主人公は、メトロポリタン美術館(メット)で働く日本人キュレーター美青(みさお)。

 子供時代からの夢の場所だったメットで働く彼女を、突如襲った異変―――その正体は、緑内障だった。

 

 そんな美青が、病院で出会う少女パメラ。彼女

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木下昌輝さん『絵金、闇を塗る』を読みながら

木下昌輝さん『絵金、闇を塗る』を読みながら

 木下昌輝さんの『絵金、闇を塗る』を土曜日から読み始めた。

 江戸時代末期、土佐の「剃」と呼ばれる髪結いの子供として生まれた少年絵金が、才能を見出されて狩野派に弟子入り、天才絵師としてもてはやされるも、独自の美を追求し続ける……

 絵金という人については、名前と血なまぐさい絵を描く人、ということしか知らない。(どうして、美術史を見渡していると、このようなグロテスクで血なまぐさい絵を描く人が、時

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『沈黙の王』~宮城谷昌光さんの小説のこと

『沈黙の王』~宮城谷昌光さんの小説のこと

 短編を一日に一話は読みたい。

 そう思い、実行に移して一週間が過ぎた。

 目安としては3冊はコンプリートしたい。そう思っていたが、池井戸潤さんの『七つの会議』でとりあえず、それも達成できた。

 さて、次はどうしようか。

 なるべくなら、幅広く色々な人の作品を読みたい。

 一冊をガツガツと読み続けない、とルールを設けている以上、手元にはできれば複数冊用意しておきたいところ。

 そんな折

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はぎとられた名前~映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』

はぎとられた名前~映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』

 遅まきながら、映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』を見た。

 クリムトの傑作<アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像I>を巡る実話を題材にしたもので、気になっていながら、結局映画館には行き損ねてしまった。

クリムト、<アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像I>、1907年

 映画は、ポーズを取るアデーレを前に、クリムトがこの絵を描いていく場面から始まる。

 金箔が救い上げられ、キャンヴァスの上に一

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パンドラの箱~池井戸潤『七つの会議』

パンドラの箱~池井戸潤『七つの会議』

 始まりは、パワハラの告発だった。

 誰もが認める会社の稼ぎ頭であるエリート課長・坂戸を、「居眠り八角」と呼ばれる万年係長・八角が訴えて出た。

 役員会が、どちらの肩を持つか、は自明とも言えた。

 しかし、役員会が下した決定は、その予想を大きく裏切るものだった。

 一体なぜそんなことになった?

 坂戸の後任となった、原島が八角に問う。

 その答えは、大掛かりな会社の「闇」とも言うべき内

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就活中に読みたかった本

就活中に読みたかった本

 就活中に、あるいは、就活をすると決めた時に、この本に出会えていたならなあ。

 そう思えるのは、それが既に過ぎ去った事だからだ。

 蛙の腹を切り開いて、内臓の位置を確かめるように、「過去」についてなら、心構えさえちゃんと整っていれば、冷静に向き合って、分析することは不可能ではない。

 社会に出て「働く」、ということの意味は何だろう。

 お金のためもあるかもしれない。

 生きていれば、楽し

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甘い毒~米沢穂信さん、『儚い羊たちの祝宴』読了(ネタバレなし)

甘い毒~米沢穂信さん、『儚い羊たちの祝宴』読了(ネタバレなし)

 果物を盛り付けた籠か。

 それとも、美しい石を連ねたネックレスかブレスレットか。

 米澤穂信さんの『儚い羊たちの祝宴』を、例えるならば後者の方が良いかもしれない。

 連作短編という形式を持つのが一つ。

 個々の話は独立して読むこともできるが、「バベルの会」という読書会が透明な糸(テグス)となって、緩やかに繋がっている。

 「バベルの会」とは、夢想家のお嬢様たちが集まる読書サークルだ。

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一日に一つ、短編小説を読もう

一日に一つ、短編小説を読もう

 連作短編を書きたい、と思うなら、やはり「短編小説」というものについて、今一度見直したい。

 そう思い立って、本棚を見渡したが、見事なまでに分厚い文庫本ばかりが並んでいる。上下からなる二巻本はざら。四巻からなる深緑の背表紙の本は、宮城谷昌光さんの『楽毅』と『妟子』。

 そして、最近話題になった本、ベストセラーというものが見当たらない。

 単行本は高いから、あまり買いたくない。みんなが買うから

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澤田瞳子さん『龍華記』読了

澤田瞳子さん『龍華記』読了

 いやあ、すごいものを読んだな…

 昨日の夜から読み始めて一息に半分、そして今朝はその残りを、あっという間に駆け抜けてしまった。

 書かれているのは、平家による南都焼き討ちと、そこからの興福寺の復興、関わった人々の懺悔と苦悩、そして救いを求めて生きる姿だ。

 その中に、メインの主人公である悪僧範長と、その従弟で別当として高い身分にいる信円とが配置され、対比される。

 範長は、摂関家という貴

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