壷中天

You are what you ate...人はその摂取したものの総体であるなら、同時に、見たもの、読んだもの、聴いたもの、感じたこと、考えたこと、さらには為したことの総体でもあるだろう

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最近の記事

三つ残されたレフト・アローン:マル・ウォルドロン、エリック・ドルフィー、山本剛

何かのスタンダード曲をEverythingを使って、二台の8TBドライヴから抽出しては、FB2Kにすべてドラッグし、楽曲で輪切りにした「音楽相」、サウンドスケープを眺めるのを、ここ数年、楽しんでいる。 たとえば、Round MidnightとStraight, No Chaserという、セロニアス・モンク作のタイプの異なるふたつの代表作。あるいは、Take the "A" Train、Satin Doll、Caravan、Mood Indigoといったデューク・エリントンの

    • 続々・キャロル・ケイとフィル・スペクター

      (「続・キャロル・ケイとフィル・スペクター 」よりつづく) 今回は、アメリカ三大音楽都市の中で唯一、ハリウッドだけで録音されていた、映画スコアのことを書くが、本題に入る前に、ちょっと、いや、おおいに手続きが要る。 ◎映画スコアと映画音楽 「映画音楽」=film musicという言葉があるが、これはここでは使えない。かつてよくあった、オリジナル・サウンドトラックではない、なんとかオーケストラの有名な映画主題曲を集めたアルバム、一種のカヴァー・アルバムがここに入ってしまうか

      • 続・キャロル・ケイとフィル・スペクター

        前回の「キャロル・ケイとフィル・スペクター」でも、重箱の隅をつつくような話になる恐れがあると冒頭で申し上げたが、今回はさらに、キャロル・ケイとハリウッド・ビート・ミュージック史の、細かい話へとダイヴする。 しかし、その前に、全体の絵図を描くのに必要な、大前提のことを書いておくべきだろう。 ◎建前と本音 キャロル・ケイに関するTV番組では、彼女のようなプレイヤーたちが、スターのかわりにスタジオでプレイした理由は、表向きのバンドが(ツアーなどで)忙しくて、録音にまでは手がま

        • キャロル・ケイとフィル・スペクター

          某局でキャロル・ケイに関する番組が放送されると、友人に教えられた。 2012年の震災のちょっと前ぐらいから、テレビなしの生活をしているので、キャロル・ケイが好きな友人たちにこれを知らせたところ、録画を送ってくれた。 番組内容がどうであろうと、彼女のようなアメリカ音楽史の黒子だった人が、ハリウッドから遠く離れた、地の果ての国のメディアでも称揚されるのは、じつにすばらしい。 いや、内容も、限られた時間と予算の中でやっつけたのだろうが、一応の調査をした形跡は見られ、「まあ、と

          日本特殊論、ついに否定できず:三浦環とアート・テイタム、それぞれのユーモレスクの当惑と久生十蘭

          アート・テイタムの未聴の盤を聴いていたら、またしてもHumoresqueが出てきて、いったい、テイタムは何度この曲をやったんだと、Everythingで検索してしまった。 5ヴァージョンがリストアップされ、すべてFB2Kにドラッグしてたしかめたところ、ダブりがひとつあり、結局、4ヴァージョン持っていることがわかった。 ◎久生十蘭の「ユモレスク」と「野萩」 テイタムのHumoresqueを聴いていて、久生十蘭の「ユモレスク」を思いだし、再読した(フランス語としては長音なし

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          ゆるくてぬるい、お気楽極楽サウンド:「バーミューダはパラダイス」と「ゾンビー・ジャンボリー」

          近所のミニ・スーパーが改装された。そうなるだろうと思っていたが、旧式だったレジが新しくなり、現金は人間に渡すのではなく、機械に投入するタイプになった。 棚もレイアウトも旧式、レジも昔ながら、アット・ホームで、ひどく混雑することもなく、お年寄りが支払いに手間取っても、まあ、ゆっくりやってください、と鷹揚に構えることができて気に入っていたのだが、これでよその店と同じになってしまった。いずれ、レジからも人がいなくなるのだろう。 その新装開店の翌日、水道管が割れたのか、水があふれ

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          続・ボブ・ディランのBelle Isle:コードの不思議、歌詞の奇妙、出自の奇々怪々

          (「ボブ・ディランのBelle Isle:コードの不思議、歌詞の奇妙、出自の奇々怪々」よりのつづき) 前回、Belle Isleのコードの検討をしたので、今回は歌詞のほうを検討する。その前に、Belle Isleに関するおっそろしくメンドーくさい研究論文を(途中まで、斜めに)読んで、同感し、自戒したことを。 以前、Dust My Broomだの、Stormy Mondayだのの各ヴァージョンを比較したことがあるが、ブルーズというのはしばしば伝承曲だから、歌詞はみな微妙に、

          続・ボブ・ディランのBelle Isle:コードの不思議、歌詞の奇妙、出自の奇々怪々

          ボブ・ディランのBelle Isle:コードの不思議、歌詞の奇妙、出自の奇々怪々

          旧友に、ディランのMr. Tambourine Manのある行についてどう思うかと聞かれ、はたと考え込んでしまった。唄わないと歌詞というのは覚えないもので、覚えていない歌詞は、いいと思ったり、駄目だと思ったりはしないものだ。 ディランはほとんど唄えない。Mr. Tambourine Manは、バーズのカヴァーはよく聴いたが、ディランのオリジナルは長ったらしくて好まず、買ったときにちょっと聴いた程度なので、歌詞のことはほとんど何も知らない。だから、うーん、と考え込んで、言葉が

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          熱風吹きやまず:ビーチボーイズSanta Ana Windsのヴァージョン比較

          ◎危険な風 これを書いているいまは九月十九日で、わが家の寒暖計は36度。ついこのあいだ、38度を経験したので、これは最悪ではないのだが、しかし、九月後半なのにこの気温というのは、やはり呆れる。 38度にも魂消たが、もっと驚いたことがある。八月初めだったか、正午前、気温は高いけれど、風がすごく強いので、これなら少しマシだなと思い、買物に行こうと外に出た途端、ヘアドライアの熱風のようなものが吹きつけてきたのだ。 いやはや、気温が体温より高いと、強風は体感温度を下げてくれない

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          嘘つきのソウル&インスピレーション:半村良「泪稲荷界隈」と「私のネタ本、秘蔵本」

          はるか昔、「植草甚一編集」と銘打って「ワンダーランド」という雑誌が創刊された。植草甚一が「ウラ」でちょっとしたブームになったころだった。 子供のころに古本屋で月遅れの「スイング・ジャーナル」誌を買っては、広告と植草甚一のコラムだけ読んでいた。その流れで『ワンダー植草甚一ランド』という子供にはキツい高価な晶文社の本も買った。 たぶん、そこから命名されたのであろう、この大判のグラフ誌サイズの「ワンダーランド」も創刊号から買った。 その創刊二号の特集は「大型特別企画 街とファ

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          ジャンゴ・ラインハルトのダブル・エラーと人間の音楽 Django Reinhardt - The Classic Early Recordings 1934-37

          技術的に見て、人間の域を超えていると感じるギター・プレイヤーは、ジャンゴ・ラインハルト、ジョニー・スミス、ウェス・モンゴメリーの三人。 ウェスはときどき未発表のライヴ音源がリリースされることもあるが、それをのぞけば、当然、三人ともほとんどの録音を聴いた。それなのに未所持の盤に手を出す理由の第一は、古い音源、とりわけ第二次大戦前、大戦直後のものなどは、エディションによってマスタリングがぜんぜん異なることがあるからだ。 もうひとつの理由はさて措き、そういう音質面の動機から、も

          ジャンゴ・ラインハルトのダブル・エラーと人間の音楽 Django Reinhardt - The Classic Early Recordings 1934-37

          半村良『戦士の岬』:真夏の宝隠しと「青春」の終わり

          ◎「青春とはなんだ」とはなんだ? 思いだしても気恥ずかしくなるのだが、大昔、『青春とはなんだ!』というドラマがあった。先に石原裕次郎主演の映画があったが、とりたててヒットはしなかったようで、評判をとったのは夏木陽介主演のドラマのほうだった。熱血教師の学園もの、という、その後、むやみに繁茂することになったタイプの濫觴だった。 どうにも気恥ずかしくて口にしにくい言葉というのがあるものだが、「青春」なる二文字は、書いたり云ったりするときにプレッシャーを感じる。嘘発見器をかけてし

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          カミング・アウトしないブルーズ:オスカー・ペティフォードのBlues in the Closet

          タイニー・グライムズのことを書こうと準備していたのだが、第二次大戦前から活躍していたこともあり、その未分化の混沌状態を体現するような、ジャンル横断ないしはジャンル未然のスタイルでもあり、うちにある盤もスタイルは多様で、なんとも書きにくく、駄目だ、先送りだ、と断念した。 ◎記憶はいつも嘘つき コールマン・ホーキンズのThe Complete Essen 1960 Jazz Festivalを流していたら、よく知っているリフ/テーマが出てきたものの、タイトルは思いだせず、しょ

          カミング・アウトしないブルーズ:オスカー・ペティフォードのBlues in the Closet

          他人の戦争:Black Hawk Downとグレイトフル・デッドのイコノロジー

          恋は二度目からが本物、本は再読してはじめて意味がわかり、映画も二度目からが本当の映画経験だ。Black Hawk Downを再見していて、初見の時は見逃していた、ささやかなディテールに気づいた。 ◎AoxomoxoA リドリー・スコットのBlack Hawk Downは、ソマリア内戦に材をとっている。いや、「ソマリア内戦」と云ってしまうと、応仁の乱から関ケ原の合戦までをひとからげに「戦国時代」と云うようなもので、むやみに長期にわたるが、この映画は国連平和維持軍の1993年

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          (ヤング)ラスカルズと三つの箱

          ラスカルズの三つ目の箱を聴いた。今年五月のリリースだそうで、今回は英国のレーベル、New Soundsのもの。今までの箱の中でもっともボーナス・トラックが充実していて、何も見ずにいきなり聴いたので、おっと、なんだこれは、と何度か驚かされることになった。 ◎三者比較 ラスカルズには、以下のような三種のコンプリート・レコーディング箱がある(アトランティック時代のみが対象で、CBS時代まで網羅したものはいまだつくられていない)。 1 The Rascals - Atlanti

          (ヤング)ラスカルズと三つの箱

          デイヴ・フィッシャーとハイウェイメン:まったく新しい「漕げよマイケル」の創造

          ◎ロング・ウォーク・コンパニオン 旧友と「年を取ってもう高いところが唄えない、音域が狭くなった、声量がなくなった」という、よくある現象のことを話していて、老いてからの鼻歌のレパートリーを数え上げた。 十数年前、なんだか物忘れがひどくなったような気がして、何か歌をフル・ヴァースで覚え、ロング・ウォークの際に、ひと気のない山道で唄おうと考えた。 あのころはよく三浦半島横断をやったので、野生動物横断注意の交通標識が立っている、まったく人けのない道をしばしば歩いたのだ。震災にも

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