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私に似合う服

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11話完結
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私に似合う服①

2年間のいじめに耐えて、私の心はボロボロになっていた。
とにかく耐えるのに必死で、とにかく心が潰れてしまわないようにするのに必死で、自分の心を大切にする余裕なんてこれっぽっちもなかった。
いじめから解放された今も、自分の心を大切にする方法がわからない。

何からいじめが始まったかは覚えていない。
もう思い出したくもない。

ただ私はおしゃれが嫌いになった。

お母さんに可愛い服を買ってもらっても悪

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私に似合う服②

私に似合うのは、可愛い服でも、お兄ちゃんのお下がりのかっこいい服でもなくて、濡れ衣だった。

いじめっ子たちは、私が可愛い服を着ると悪口を言ったし、流行りの服を着れば真似するなと怒った。だけど、彼女たちはいつだって、濡れ衣なら着せてくれた。

きっと私には濡れ衣がよく似合うから、彼女たちは私に濡れ衣を着せてくれるのだと思う。人間ってそんなにひどいはずもないし、彼女たちは今まで私の友達だったんだから

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私に似合う服③

濡れ衣はもう着せられなくなった。だけど、わたしに1番似合うのは濡れ衣であることを知っている。

本当は可愛い服を着たかったけれど、私は諦めてしまった。「女の子の服は着たくない」と宣言してしまった手前、お母さんに「やっぱり可愛い服を買ってほしい」なんて言えなかった。我が家は先祖をたどっても百姓の家系なのに、お母さんはいつだって「武士に二言はない」と言っていたから、私はその家訓に従うしかなかった。もし

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私に似合う服④

濡れ衣を着せられなくなっても、それでも濡れ衣が似合っていると思っていた。

必死に虚勢を張っていた。

本当の私はいじめられっ子のまま何まで変わっていなくて、ただ弱く見られたくないから、虚勢を張っていただけだった。

制服を脱げば、また弱い自分に戻るだけだった。

制服ならみんなと被っても怒られなかったけれど、流行りの服を着て、誰かと被ったらまた怒られる気がしていた。

もうおしゃれはしないと決め

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私に似合う服⑤

あんなに着たかった可愛い服だったけれど、もう興味はなくなってしまった。

お母さんも、もう私に可愛い服を着せようなんて気はさっぱりないと思う。お兄ちゃんはメキメキとかっこよくなっていった。

もう可愛い服に興味を持てなかった私は、嫉妬心すら湧かなかった。

だって濡れ衣が似合うんだから。濡れ衣がよく似合う私に、可愛い服が似合うはずなんてないんだから。

ダサいくらいが心地よかったとは言ったけれど、

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私に似合う服⑥

事件が起きた。

濡れ衣を脱いだ私に、事件が起きた。

ダサいことに安心を覚えていた私に事件が起きた。

ダサいままではいられなくなったのだ。

高校生になって、周りにいる女の子たちが化粧をし始めた。それでも私は別に化粧をするつもりもなかった。おしゃれにもいっそう気を遣い始めたけれど、私はおしゃれをすることもなかった。制服を着ていれば安全だから、制服に守られていた。可愛い服を着るのはやっぱり怖かっ

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私に似合う服⑦

ダサい服を着られなくなった私には、何が似合うのだろう。

ダサい服が着れなくなったけれど、可愛い服を着るのはまだ少し怖かった。

それなら濡れ衣が似合うままの私でいたかった。

素敵な彼の隣を歩けることはこんなに嬉しいのに、ダサい服のままでは歩けなくて、だけど可愛い服を着るのも怖くて。だって私には濡れ衣が似合っていたのだから。可愛い服を着たら、流行りの服を着たら、怒られるから。

濡れ衣を着せられ

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私に似合う服⑧

私はもう一度、可愛い服を着たいと思った。

もう濡れ衣が似合う女の子にはなりたくない。

彼のために。彼の隣を歩くために。

だけど私は可愛い服を着られなかった。

彼のためなら、可愛くなれる。彼なら私を変えてくれる。そう思ったはずなのに、私は可愛い服を着るのがやっぱり怖かった。

あんなに楽しみにしていたデートも、私は誰にも怒られない、ダサい服を着て行った。隣を歩く彼には少し申し訳ないような気が

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私に似合う服⑨

『私に似合う服』①から全てマガジンにまとめてあります。プロフィールからぜひご覧ください。

【前回のはなし】

大好きな彼のためでさえも変わらない私は、やっぱり濡れ衣が似合うあの時のままなのかもしれない。

いじめられてひん曲がった心だったけれど、彼は好きでいてくれた。私もそんな彼が好きだった。包むように、撫でるように、私の心に触る彼が好きだった。

彼は私のダサい服に何も言わなかったから、それで

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私に似合う服⑩

「ダサい服着んといてほしい」

ああ、次はダサい服を着ても怒られるようになってしまったと、悲しくなった。愛せたと思ったのにな。愛されたと思ったのにな。

ザクッと裁ちばさみで心が切り裂かれた。

彼は一体どんな顔をしているのだろうか。
あの時のいじめっ子と同じ目をしていたらどうしよう。
いじめっ子と同じ目で私を睨んでいたら、私に冷たい視線を送っていたら、私を嘲笑っていたら、馬鹿にしていたら、どうし

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私に似合う服【完】

ゆらゆら揺れる心の中で私は潤む彼の瞳を見つめていた。

「ダサい服を着てほしくない」と言う彼の目と、私の靴をびしょびしょに濡らして可愛い服を着た日には私を呼び出した彼女たちの目。

どう考えても前者の方が美しかった。

あの汚い目と比べることが憚られるくらい、彼の目は美しかった。

彼の目は、この世のものにしては美しすぎた。

このまま閉じ込めてペンダントにしたいと思うくらい、彼の目は美しかった。

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