私に似合う服【完】



ゆらゆら揺れる心の中で私は潤む彼の瞳を見つめていた。


「ダサい服を着てほしくない」と言う彼の目と、私の靴をびしょびしょに濡らして可愛い服を着た日には私を呼び出した彼女たちの目。

どう考えても前者の方が美しかった。

あの汚い目と比べることが憚られるくらい、彼の目は美しかった。

彼の目は、この世のものにしては美しすぎた。

このまま閉じ込めてペンダントにしたいと思うくらい、彼の目は美しかった。


なのに、私はまだ揺れている。


今度こそ本物の恋をしたと思ったのに、これこそが愛だと思ったのに、私は彼のお願いを叶えられないかもしれない。


「僕よりもいじめっ子の方が大事なん?」


潤んだ目からついに涙が溢れ落ちた。

そんなこと聞かないで欲しい。

あまりにも残酷すぎる。


彼の方が大事に決まっている。
彼のことを大切にしたい。

彼の愛をいっぱい受けとったから。
彼にたくさんの愛をあげたから。
それを全部受け取ってくれたから。

私たちなりにたくさんの時間をかけて。


だけど、それ以上の時間をかけて私の心は傷つけられていた。


時間は残酷だ。


彼の愛の方が素敵に決まっている。大切に決まっている。好きに決まっている。選びたいのはそっちに決まっている。



だけど、それでも大事にされなかった過去の方が私の心を占めている。人間として扱われなかった過去が、私の心の中で仁王立ちしている。



真っ直ぐに私を見つめる彼の目を、私はもう見つめ返すことはできない。



彼とデートをするときくらい、可愛くいたい。
もっともっと私のことを好きでいて欲しい。
彼の隣を気兼ねなく歩きたい。

だけど、私は可愛い服を着るのが怖い。もう誰にも濡れ衣を着せられなくなったけれど、私にはまだ濡れ衣が似合っている。ダサくて笑われる方がいい。ダサいくらいがちょうどいい。

彼のためなら変われると思った。そこに嘘はなかった。変わろうと思った。そこにも嘘はなかった。だけどそれ以上に臆病な私が、私の心にブレーキをかけてしまった。


ありのままを愛してくれない彼にはさよならを言おう。


このまま私はいじめられっ子のまま、そのままで大人になろう。


いじめられっ子の私を愛してくれない彼には、さよならを言おう。



さようなら。


目の淵で震えることもなく、彼の目からは涙がボロボロと溢れている。だけど、ごめんね。


まだ、可愛い服は着られない。




やっぱり私には濡れ衣がよく似合う。

【完】

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