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ストーリィドロップス

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不定期マガジン「ストーリィドロップス」 ちょっと何か読みたい時に、小粒な短編小説集。
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#小説

【短編小説】終点、サザンクロスにて。

【短編小説】終点、サザンクロスにて。

 その電車は銀河を走っていた。具体的には地球から、終点である南十字座まで。

 通常の電車は観光地や市役所等、意味のある場所に駅を設けるものであるが、何せ宇宙はとても広く「意味」のある場所などそうそうないので、天のレールは地球から南十字座までほぼまっすぐに引かれていた。
 天の川の星々をバラストに、彗星の冷ややかな尾をレールにしている以外、何の変哲もないその電車は、客を遠い別世界へと連れていくこと

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【小説】配管ノ森

【小説】配管ノ森

前書き 今回の小説は藻洲転石(@moss_ymmt413)さんのこちら、『思念構造体・彼我境界(Thinking Structure: the Border within)』という作品、
 及び同氏の「小説の表紙とかに使って頂けたら」という一言に触発され、生まれてきた小説になります。

 転石さん本人にも小説を読んで頂き、画像加工の許可を得た上で、ヘッダー及び表紙画像として使用させて頂いております

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造花の花園

造花の花園

 いつか夢で見た造花の花園が、私の記憶にあまりにも美しく痣を残したので、記憶に彫り込まれた痣をそのまま現実にする事にした。タトゥーを入れるのと同じ理屈だ。アレは言葉や景色の痣を体に刻み込むということ。それと同じ事を私は自宅の庭で行う事にした。

 色とりどりの薔薇の造花、レンガと白い柵を大量に買った。仕事をしながらだったので、花壇が完成するまでに数年も掛かってしまった。
 花園、と呼ぶにはあまりに

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海月記

海月記

 私の友達の悠樹は、頭が良かったのです。
 彼は全てを単調に感じていました。
 彼は多くの事をシンプルに説明する事に長けており、また彼は多くを知っていました。私も彼に多くの事を教わったものです。
 他方、悠樹は無限を求めていました。魔法という言葉をしきりに口にし、「無限の魔法の正体を突き詰める為に学んでいるのだ」と言っていました。

 私にはその言葉の本意は分かりませんでしたが、彼が何かを強く求め

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びぃ玉のりゅう星

びぃ玉のりゅう星

 ガラス玉とかびぃ玉ってさ、子供の頃の自分にとってはそれ以上無い宝物だったのよね。

 子供の頃は気まぐれなタイミングでびぃ玉が欲しくなって、それで「びぃ玉ほしー」ってお母さんに頼むと、夜には持ってきてくれるんだけど、ソレ、毎回綺麗にラッピングされてるの。

 私が「そのびぃ玉どうしたの?」って聞くと、「近所の河原から取ってきたのよ」なんてお母さんが返すから、高校生になるまで「びぃ玉」って何か分か

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見ていたもの と 見えたもの

見ていたもの と 見えたもの

 私は現実ではない物を見ていた。私が見ていた物は魔法で、嘘だった。存在しない物だった。

 私が見ていた物を再現する為に、私は学んだ。何でも食った。勉強が嫌いなどと言ってられなかった。自分で自分を洗脳して「勉強が好き」と思い込ませる事で、身体を勉強に向かわせた。
 哲学、建築学、数学、文学、物理学、言語学。雑に食って「これも違う」と捨てて、学問を無礼にも食い荒らした。必要な所だけを、文脈を殆ど無視

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DIVE.

DIVE.

 海の澄んだ青に身を浸す度に、自分が何処までも広がって拡散される。そんな心地よさを感じていた。

 空も蒼い。海も青い。自分の血さえもその時だけは碧くなって、世界中に広がる水という水のその全てに自分が少しずつ混じるような感覚。

 その瞬間だけ、間違いなく自分は人間ではない。そして人間という狭量な世界の、その全てから解け出して逃げられる。

 そうやってただ海に横たわっていると、周りの空気が肌を撫

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雀さんぽ。

雀さんぽ。

 久しぶりに時間が出来た。そんな時、私はお菓子のポッキーと共に近所の公園を散歩する。
 ポッキーをチマチマと食べながら、舗装された道、木漏れ日が揺らめく樹の下を心地よくふらめいていると、一羽の雀が声を掛けてきた。

 「お散歩ですかい。」
 「えぇ。久しぶりに暇ができた物で。」
 顔馴染みの雀だった。最近離婚したばかりだそうだ。
 「よければタバコを一本。」
 「もちろん。」
 タバコとはポッキー

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透き通った海。

透き通った海。

フィクションですので、お気になさらず。

 昔私は、リストカットをした。

 その時、私は自身の血が透き通っていた事を初めて知った。

 私の血は赤色ではなく透明だった。

 金剛石みたいなヘンな虹色の輝きなんて無くて、ただただ透き通っていた。清水が太陽を含んだ時の純粋さにも似ていた。

 それまで私は、私自身の血の色を知らなかった。

 他の子の前で膝を擦りむいた時、誰か解りたくない人間に殴られ

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ストーリィドロップス#1 『染み入る木陰』

ストーリィドロップス#1 『染み入る木陰』

 私が住んでいる場所の近くには公園があって、その公園の中心に大きな樹が生えている。
 彼はいわば公園の主。彼は大きく葉っぱを広げて、「此処は私のものだぞー」って毎日飽きる事なくアピールしているので、偶に私が彼の話を聞きに行ってあげている。

 だって樹の根本の草達はまるで聞く耳を持たず、風に靡いてサワサワしてるだけだし、鳥だって放浪人の名に恥じない適当ぶりで、まるで誰にも相手にされないのは寂しいか

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