雀さんぽ。
久しぶりに時間が出来た。そんな時、私はお菓子のポッキーと共に近所の公園を散歩する。
ポッキーをチマチマと食べながら、舗装された道、木漏れ日が揺らめく樹の下を心地よくふらめいていると、一羽の雀が声を掛けてきた。
「お散歩ですかい。」
「えぇ。久しぶりに暇ができた物で。」
顔馴染みの雀だった。最近離婚したばかりだそうだ。
「よければタバコを一本。」
「もちろん。」
タバコとはポッキーの事だ。彼はポッキーの事をそう呼んでいる。その言い換えが気に入っているらしい。
ポッキーを一本、雀の足元に置く。散歩にポッキーを持ち歩くのはこの時の為だった。
「最近どうです?」
雀はポッキーを啄みながら聞いて来た。
「悪くはないですね。日々が心地よくはある。」
私は正直に返した。
雀はポッキーを食べ終わり、小さな足でトントンとステップを踏むと、満足気に言葉を連ねて来た。
「そりゃいい。最高の状態だ。背伸びもせず、目がギラついた化け物でもない。それが人間として一番丁度いい。」
雀に人間の何たるかを説かれるのは如何なものかと思ったが、彼は公園に居て常に人を観察する、謂わば人間観察のプロなのだ。加えて人間ではない目線からの忌憚ない意見は貴重な物なので、「成る程なぁ。」くらいには彼の言葉に耳を傾ける事にしていた。
「ホレ、金言料。タバコをもう一本。」
ニヤつきながら雀はもう一本ポッキーをせびってくる。
「はいはい。御身体を壊さない程度にね。」
動物にとってチョコレートは毒だという話があるが、彼はそれを全く気にしない。妻と離婚したのも彼がタバコ(チョコ)を良く食べるからだそうだ。
「そう簡単に死なんよ。『雀の魂百まで』と言うじゃないか。100歳まで生きるさ」
またポッキーを啄みながら、自慢気に呟くが、色々混じっている。意味も違う。
まぁ、そんな適当さ加減が、彼の魅力だったりする。人間だと中々こうはいかない。陽光揺らめく緑の中で、こうして適当にふらつく会話ができる時間はやはり貴重だ。
わざわざ150円のポッキーを買ってでも、彼との会話には価値がある物だと、私はそう思っている。
…まぁ、それだと、ポッキー2本で済む彼の価値は、1円以下という事になってしまうのだが。