DIVE.
海の澄んだ青に身を浸す度に、自分が何処までも広がって拡散される。そんな心地よさを感じていた。
空も蒼い。海も青い。自分の血さえもその時だけは碧くなって、世界中に広がる水という水のその全てに自分が少しずつ混じるような感覚。
その瞬間だけ、間違いなく自分は人間ではない。そして人間という狭量な世界の、その全てから解け出して逃げられる。
そうやってただ海に横たわっていると、周りの空気が肌を撫でた。その時ばかりは空気に社会の匂いが混じっている気がして、あまり心地良くなかった。
だから、潜った。
どぷん。
自分が空気に触れないように、深く。
自分の事を誰も覚えていない場所まで、深く。
周りには魚しかいない。それが良かった。
酸素ボンベは持ち込んでいないから、潜り続ける事は出来ない。
でも、出来るだけ深く、深く。
一瞬でも良いから、孤独が良かった。
やはり、息が続かなかった。
急浮上する。
ざぱん。
海面から飛び出た自分は、キラキラと飛沫を上げた。足りない酸素を補う為に、ちょっと不快だったはずの空気を目一杯に吸い込んだ。
久しぶりの社会の空気は眩しい太陽に照らされ、塩と翠の匂いもした。
空気の味を噛みしめながら、人工と自然の混合物にしては、この空気はそれほど悪い物ではないなと思い直した。
だから自分は、陸に上がる事にした。世界中に散らばった私を集めて、また一人の人間として生き直す事を決めた。それが良い頃合いだったのだ。
その決断は正しかった。だからまたこうして、自分は海に来れている。