透き通った海。
フィクションですので、お気になさらず。
昔私は、リストカットをした。
その時、私は自身の血が透き通っていた事を初めて知った。
私の血は赤色ではなく透明だった。
金剛石みたいなヘンな虹色の輝きなんて無くて、ただただ透き通っていた。清水が太陽を含んだ時の純粋さにも似ていた。
それまで私は、私自身の血の色を知らなかった。
他の子の前で膝を擦りむいた時、誰か解りたくない人間に殴られた時、私の血は確かに赤かったのに、今こうして私だけが私の血の観察者になった時、本当の血の色を知った。
その時私は、私自身が人間じゃない事を知った。
その事実に対してどう思ったのかは、はっきりとは覚えていない。
寂しかったんだっけ。仲間が居ないんだから、そう思っても不思議じゃない。
嬉しかったんだっけ。私はあんな人間じゃないんだ。あんな人間とは一緒だと思いたくない。
ただ、これだけは覚えてる。
『ごちゃ混ぜの感情を心に纏わせて、私はまた深海に潜った』。それだけは覚えてる。
トクトクと流れる透き通った血を入り口にして、そこから何処までも透明な深海に潜った。
それだけは、覚えてる。
解けるように、押し潰されるように、深く、深く。