びぃ玉のりゅう星
ガラス玉とかびぃ玉ってさ、子供の頃の自分にとってはそれ以上無い宝物だったのよね。
子供の頃は気まぐれなタイミングでびぃ玉が欲しくなって、それで「びぃ玉ほしー」ってお母さんに頼むと、夜には持ってきてくれるんだけど、ソレ、毎回綺麗にラッピングされてるの。
私が「そのびぃ玉どうしたの?」って聞くと、「近所の河原から取ってきたのよ」なんてお母さんが返すから、高校生になるまで「びぃ玉」って何か分からないけど河原に落ちてるんだなぁ、って思ってた。私にもそんな純粋な時代があったのよ。
……まぁ、今も大概、ロマンチストなのかもしれないけどね。
それで、今からするのは私が中学生の時、放課後の帰り際で起こった出来事の話。
その時、学校で『色々』あって、何もかも嫌になって、それで河原でいじけながら遊んでて、寝ちゃって、気づいたら夜遅くになってて。
気付いたら星の灯以外に何も見えないってくらいに真っ暗で
門限とかは無かったんだけどお母さん心配してるだろうなって思って、携帯で連絡しようとして気付いたの。
あれ、鞄が無いって。
うわ、不味い、スられたかなぁとか思って、まずったなぁ、どうしようかなぁって天を仰いでると、キラキラって空から何か落ちてきた。
幾つも幾つも、何で光ってるのか分からないけど、虹色に光りながら小さい何かがふわっと落ちてくる。すっごい綺麗で、15歳の私にはこの世界の物じゃない魔法が掛かってる物みたいに思えて。
その小さい何かのうち、1つが私の近くに落っこちてきた。それが落ちた場所に行くとね。びぃ玉なのよ、それ。ガラス玉の中に絵の具みたいな模様がうねってて。
それで当時の私は思ったの。あぁ、そっか。お母さんはこれを拾ってたんだなって。
それで、今度は私がお母さんへのお土産に持って帰ろうって事で、びぃ玉をぎゅっ、と握ったらさ、びぃ玉からお母さんの声がして。
わっ、ってびっくりしたんだけど、声がなんか必死そうだったから、耳を凝らしたの。するとなんて言ってるか段々と理解出来てきた。
「アンタ、アンタ、戻ってきなぁ。」って。
戻ってきな?何処に?
気付けば少しずつ私がびぃ玉に吸われてるの。段々と吸われる速さを増していって、私の魂が全部、びぃ玉に。きゅぅ、って。
ぽんって。
そしてその世界に私は居なくなっちゃった。
夢の世界から、現実へ。
目を覚ますと病室。どうやら私は河原に足を滑らせて落ちたらしくって。何にも覚えてないし、今でも何も思い出せないんだけどね。
私は普通に登下校したと思ってたんだけど、落ちたショックで記憶が飛んでるんだとかお医者さんはそう説明してくれて。
それにさ、私が落ちたところってば人目につきにくい所らしくて、しかも夜遅くて真っ暗だし、制服は黒いし髪も黒いしで、私が河に落ちてるって分かりづらかったんだって。
じゃあなんで私は助かったの?って話なんだけど、通りすがった人が河の中に「異常なキラキラ」を見つけたんだって。
それで、なんだろうなーって近づいてたら私が居た。そりゃぁ、見つけた人はびっくりして、即座に119を押して、引き上げて…みたいな。
それでね。そのキラキラしてたの、びぃ玉だったんだ。私が握ってたの。不思議よね。びぃ玉なんていつも持ち歩いてるわけじゃないもの。お母さんから貰ったびぃ玉は全部家に置いてあったし、つまりその子は突然出て来たの。
「そっか、この子は空から落っこちて来たんだな」って。
今はこの子はガラス玉の中で大人しくしてるけど、いつかこの子の中の模様が、また命みたいにうねり始めて、空に帰る日が来るんじゃないかなって。
だから私は、そのガラスの卵を大事に大事に仕舞ってあるの。いつかその子が生まれる、そのお別れの日の為に。