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珠玉集

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心の琴線が震えた記事
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#シロクマ文芸部

働く 働ける 働かない 働けない

働いているから分かること 働けるから分かること 働いていないから分かること 働けないから分かること 働いているからできること 働けるからできること 働いていないからできること  働けないからできること 働いているから悲しいこと 働けるから悲しいこと 働いていないないから悲しいこと 働けないから悲しいこと 働いているから幸せなこと 働けるから幸せなこと すべてを分かろうとするのは 無理がある  でも確かにどれも存在していて それぞれに思いがある #シロクマ文芸部

掌編: 霧にいた二十年

 霧の朝を車内で迎えた。 二十年記念日は雲海を見ながら過ごしたい、 そんな夫の要望で日付が変わる頃には家を出て、車内で眠っていた。  目覚めると辺りは霧の中。ほんの数メートル先が幕を張ったように不透明。対向車のヘッドライトも白味がかってマイルドな光を射す。 めくる風景は山林で、枝がない真っ直ぐな杉が整然と緑を成していた。 「もうすぐ着きますよ」  夫は正面を見たまま、私の起きた気配で声をかける。 「山ってもっと鬱蒼としているかと思いました」 ドリンクホルダーから取るミルク

小説|紅葉姫

 紅葉から生まれた彼女は紅葉姫と名づけられます。紅葉は鬼の肌の色を思わせるために村では忌み嫌われており、おじいさんが村はずれの紅葉の木を切り倒したところから、紅葉姫は生まれたのです。おじいさんは紅葉姫を大切に育てました。  紅葉姫は怒ったり、泣いたりすると、すぐに顔が真っ赤に染まりました。村の人々は、紅葉姫を避けます。紅く染まった肌が、鬼のようだと人々は陰口を叩きました。拾ってくれたおじいさんが病で亡くなると、紅葉姫は独りになりました。  紅葉姫は十歳になる頃、楓という村娘と

ワラシ様とお茶しましょ(#シロクマ文芸部)

「紅葉からお茶の新年が始まりますんえ」  お稽古用どしたら、こちらあたりが、と海老茶の作務衣姿の女性が碾きたての抹茶をグラムで計って小さな茶筒に詰めてくれた。  店先は一間ほどの土間で、土間に面して畳敷きの店間のある古い商家の造りだった。畳の間の隅に茶箱が整然と並んでいて、作務衣姿の店員が客の注文を聞いてはせわしなく畳の間を往来する。常連さんが多く「いつものでよろしいか」と尋ねる声が店内を行き交い、馥郁とした茶の薫りがただよっていた。  十一月の三連休の最終日に同僚の島ちゃん

私の本棚より #シロクマ文芸部

 秋と本、これはもう秋とさんま、marmaladeとおっちょこちょい、くらいフィットしています。私は夜寝る前のひと時、読書を楽しんでおりますが、最近読んだ本をご紹介します。本棚より、ですが、Kindleよりとなります。 「銀山町 妖精綺譚」福島太郎さん  福島さんの作品を最近いくつか読ませていただいております。どれもあっという間に引き込まれてしまうのですが、この作品のタイトルを拝見して、「あら、福島さんも妖精を信じる方?ファンタジーかしら」と興味津々で読み始めました。

SS 赤胴 【#爽やかな】#シロクマ文芸部参加作品

 爽やかな月代が青々としている。藩内では美少年剣士として名をはせているが、本人は無頓着で気にもしていない。 (秘剣をさずかりたい……)  剣の修行をいくらしても上達したと感じない、強くなるために秘剣が必要だ。道主の一刀斎から伝授するためには、目録を得なくてはいけない。兄弟子達よりは強いつもりだが難しい。 「試合をして勝てばいいだけ」 「遺恨でもあるのか!」  そうつぶやいた時に、さや当たる。見ると大柄な侍が怒りの表情でにらみつけていた。 「これは粗相をいたしました」

アルキオーネ星人の憂鬱(#シロクマ文芸部)

 木の実と葉をいくつか採取した。  とても興味深い植物だ。  私はこの地球に送り込またばかりだが、徐々にミッションをこなし続けている。  その中に地球の植物を採取すること、特に被子植物の採取だ。  我が母星のアルキオーネ星には被子植物は存在しない。  被子植物とは、地球に存在するどんぐりや穀類など殻や皮で胚珠がくるまれている植物のことだ。  特にどんぐりや栗など、堅い殻にくるむことで乾燥や病原菌から防ぎ、発芽の速度を適切な環境や季節になるまで意図的に遅らせている。  植物であ

閏年の帰還(#シロクマ文芸部)

 閏年の2月29日は、仲間たちが約束の地で集結することになっている。我々は太古の昔から、ここ地球に送り込まれ、地球上の生物の頂点に君臨する人間を観察する為に、人間社会に溶け込んでいる。  私は日本のK大学に通う学の体を共有することで、日本の若者を研究対象とすることにした。人間の体を共有するといっても、研究対象となる学の活動を邪魔するものではなく、主に学が睡眠中にある状態で、彼の潜在意識の中で実験や研究を進めている。学にとっては、朝目覚めた時に「変な夢を見たな」とか「怖い夢だっ

森の秋 シロクマ文芸部

木の実と葉が森の辺り一面に広がり、まるで宝石箱の中を歩いているようです。可愛らしい木の実と紅葉した葉がおばあちゃんを迎えてくれました。 おばあちゃんとおじいちゃんはこの季節がやって来るのを楽しみにしていたのです。でも今年は一人で森にやって来たおばあちゃん。 持ってきたカゴの中にはおばあちゃんが拾った木の実と美しい葉が。もう少しと思いながら歩いて行きます。いつもは行かない森の奥に足を踏み入れた時、目を見張るほどのイガグリがたくさん落ちていました。栗はおじいちゃんの大好物でし

短編: 理想と生きる体感

 木の実と葉っぱをお土産にし、食べずに飾っておくことにした。    飼い主のタツジュンとハムスターの僕は、秋の暖かな日差しの中、田舎へ向かった。  都会の喧騒を離れ、自然の息吹を感じる瞬間、心が解き放たれるようだった。  車窓から見える緑は絵画のように美しい。  田んぼに到着し、畦道で遊んでいると、 僕はリスたちに出会った。  最初は警戒していた彼らは、僕が持っていたドライマンゴーに興味を示し、徐々に近づいてきた。  リスの目は好奇心に満ち、僕は彼らにそれを差し出す。

アオハルは金色

 金色に輝く派手な髪の女性に、突然、声をかけられた。  「あんた、誰、待ってるの?」    私はそのとき、駅前広場の柵にもたれて、駅から出てくる人々を見つめていた。 「高校生だよね? 彼氏、待ってるの?」  私が黙っていても、金髪さんはお構いなしに話し続ける。 「今日、寒いのにさ、あんた、かれこれ二時間くらい、ここで銅像みたいに動かないよね。彼氏なのか友達なのか知らないけどさ、もう来ないよ、あきらめな」  修斗くんはもう来ないかも……私だって、そう思っていた。でも、それを知ら

短編: 僕が田んぼに来て思うこと

 金色に錘が付いているような、 僕は初めてお米の実を見た。 野原と同じ匂いがして、風は吹いても音がない。 「これがご飯になるの?」  ハムスターの僕は、穂の中へ白い粒があるぐらいにしか考えてなかった。 「そうそう、脱穀して玄米から更に白米にして」  飼い主のタツジュンは人間だから普通のことでも、僕には意味が分からない。  ダッコク、ゲンマイ、ハクマイ。金色の粒には過程があるのだけは承知した。 「ねぇ。田んぼってどうなってるか、見ていい?」  畦道に下ろしてもらった僕は、

緑の閃光(#シロクマ文芸部)

 夕焼けはあの男を思い出すから嫌い、と桟橋の向こうの外海で朱色に身を焦がす夕日にナギは背を向ける。  あの男って誰、と訊くと、名前は忘れた、と手をひらひらさせる。そのくせ帰り際にわざと、あはは、と笑いながら砂浜でくるりと一回転して目を細め夕日を盗み見るのを、あたしは知っている。  幻を追っているのだという。  あの男と幻を追い駆けたのだという。    ――緑の幻よ。  水平線に沈む夕日が最後に放つ翡翠の輝き「緑閃光」を探して、彼と世界中を巡ったわ。目撃すると、自分と他人の心

愛や哀しみ、つながりを示すもの

風の色合いを思い浮かべると、 毎年花粉の時期に訪れる黄色の濃淡が目に浮かぶ。 2月になると森を囲むようにその色が帯となり、 自然がわたし達に警告を発しているかのようだ。 天気予報を見れば、眼球は刺すような痛みが募り、 「ゴールデンウィークまで続くのか」 不安がよぎる。 今では一年中、花粉症に取り憑かれ、 風が吹くたびに気管支へ色合いを感じる。 強風が吹く日、 雨が同じ方向へ流れる様子を眺めるのは、 子どもの頃から好きだった。 戸籍上、2歳だった。 叔母が膵臓がんで亡く