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アルキオーネ星人の憂鬱(#シロクマ文芸部)

 木の実と葉をいくつか採取した。
 とても興味深い植物だ。
 私はこの地球に送り込またばかりだが、徐々にミッションをこなし続けている。
 その中に地球の植物を採取すること、特に被子植物の採取だ。
 我が母星のアルキオーネ星には被子植物は存在しない。
 被子植物とは、地球に存在するどんぐりや穀類など殻や皮で胚珠がくるまれている植物のことだ。
 特にどんぐりや栗など、堅い殻にくるむことで乾燥や病原菌から防ぎ、発芽の速度を適切な環境や季節になるまで意図的に遅らせている。
 植物であるにも関わらず、巧妙に種の存続をコントロールしている。
 アルキオーネ星と地球とは環境が異なるが、こうした植物の進化は興味深い。
 また、地球の植物は気温が下がると葉の色を紅葉させ、冬には落葉するものがある。
 これもエネルギーの節約や、水分不足の時期に葉からの蒸発を防ぐ為、大気が乾燥する冬になると自ら葉を落葉させ温存を図るのだ。

 私は地球の動植物と人間の研究の為、地球から443光年離れたプレアデス星団の中にあるアルキオーネ星から派遣された学者の一人だ。
 派遣されたといっても体はアルキーネ星の生体維持装置にあり、エーテル体となってサンプルとなる人間の潜在意識に潜入することで研究を実施することを可能にしている。
 今私が潜入している人間は、日本の小学3年生の男子だ。名前を小森祐樹といってごく標準的な子どもだ。
 動植物に興味を抱き、昆虫採集や飼育を趣味にしている。
 また保護者同伴が条件となるが、川や海での釣りにも興味を持っている。
 地球上の動植物、特に日本の動植物を研究対象にしている私にとっては非常に都合がいい。研究の進捗はまだ始まったばかりで、今現在は祐樹が採集した動植物の記録にとどまっているが、今後は採集の幅を広げていきたいと考えている。
 
 さて、人間の研究対象である祐樹は、採集したどんぐりや紅葉した落ち葉を使ってクリスマスの飾りを作る作業に取り掛かった。
「ちゃんと作らないとダメでしょ、宿題なんだから」
 母親の百合子は教育熱心だ。そのおかげで祐樹の動植物への興味関心が維持されているのだが、完璧を目指す傾向がある。
「宿題って訳じゃないよ、今度の学習発表会で飾りに使うんだよ」
「同じことでしょ、この前もカブト虫をちゃんとお世話しないで、結局ママがお世話するはめになったんじゃない。最後までちゃんとやりなさい」
 カブト虫の飼育に関しては同感だ。 
 人間の成長途上にある祐樹は興味関心の長期維持が苦手な傾向がある。
 祐樹のような小学生はジェネレーション・アルファ世代と呼ばれている。
 この世代は、2010年代初頭から2025年頃までに生まれた子どもたちで、特にデジタル技術が生活の中心となっていることが特徴だ。テクノロジーに非常に親しんでいる為、ジェネレーション・グラスというニックネームで呼ばれることもある。スマートフォンやタブレットなどのデバイスを使いこなすことが普通になっている為、疑問に感じた事柄に対して、安直に答えを求める傾向がある。自分で考え解決を図ることが苦手なのだ。
 その為、マニュアル通りに運ばない事柄に関しては、幼さもあり簡単に放棄してしまう。
 カブト虫の件は、祐樹にとって捕獲が目的であって、その後の飼育は予定になかったことで、そこには微塵の悪意はないのだが、生命の尊厳を教えたい百合子にとってはもどかしい課題になっている。

 果たして、クリスマスの飾り作りは百合子の助けもあり無事に完成した。
 私の地球での潜入期限は地球時間で2028年、次の閏年までだ。
 地球の子どもの成長は早い。
 それまでになるべく多くのデータを採集し、アルキオーネ星のさらなる発展と繁栄に帰依できればと思っている。


以前、シロクマ文芸部の『閏年』というお題で『閏年の帰還』をUPしました。今回はそのスピンオフを書いてみました。
私的には気に入っている設定です😊
よろしいければ👇こちらも合わせて読んでいただくと嬉しいです🎵


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