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「キャッチ1本、家事のもと!」をキャッチコピーに、主婦兼コピーライターを続けています。趣味で、オリジナル技法の3D刺繍のバッグも製作。とにかく、ゼロから何かを創りあげることが好き。エッセーや小説など、仕事を離れた作品作りを楽しみます。

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    「#創作大賞2024」の応募作品、『北風のリュート』をまとめました。

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【連載小説】「北風のリュート」第1話(#創作大賞2024/#ファンタジー小説部門)

第1話:遠いうねり    そこは世界の蝶番のような場所だった。  東と西の大地の深くえぐれた裂け目は、太古の昔に一頭の巨大な龍がつけた爪痕だと伝えられている。底なしの谷から唸り声をあげて天へと疾風が舞い上がるのを風の龍と呼んでいた。竜巻と呼ぶものもいる。  七の新月の夜になると羽毛のような雪が降り始める。  北風がその大いなる翼で大地と地に棲む人々を翻弄するころ、北風に乗ってやってくるものがいた。彼らを龍人と呼んだ。  遠い昔の忘れられた地球の子守唄のような記憶だ。 【2

    • 【ミステリー小説】腐心(21)

      ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。  西陽が刑事部屋を鋭く対角線で照射していた。  珍しく島田課長がデスクにいた。両手を後頭部で結んで足を組み、椅子の背もたれに上半身をだらしなく預けている。仕事もせずに寛いでいるふうにみえるが、そうではないことを香山は心得ている。腹の内は決して見せない百戦錬磨の叩き上げ、それが島田だ。外見はくたびれたおやじだが、鋭い眼と声のドスを隠し持っている。 「よお、桜台のヤマは片がついたか」 「いえ、また謎が追加されました」  報告しよ

      • 二千年の恋(#シロクマ文芸部)

         霧の朝靄が白くあたりを鎮める。吐く息まで白い。  夜は明けそめてはいるが、日はまだ山の端を滲ませているにすぎない。夜と朝とのあわいの時。儚くうつろう刻限が朝子は好きだ。  巫女姿の朝子は神饌の米をのせた三宝をかかげ、なだらかに南に下る瓦葺の長い廻廊をそそと歩む。朝のお勤めはたいせつな日課だ。  玲瓏とした霧がただよい、視界が蒙昧とする。今朝はことのほかよく霧が立ちこめ、参道を絹の紗のごとく覆っている。  こんな朝は、おそらく――と微かに胸の鼓動が高まる。  参道は産道に通ず

        • 【ミステリー小説】腐心(20)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。 「浅田、いるか?」  三階のどん詰まりにある鑑識課の扉を開けると、機械音がうなっていた。排気設備を稼働させているのだろう。香山は奥の部屋の扉を開け、大声で浅田を呼んだ。 「ああ、カヤさん」と奥から顔を出し壁のスイッチを切る。轟音が止んだ。 「今朝のゴミか?」と顎をしゃくる。 「そっすわ。印をつけてくれてた袋でビンゴだったんで、作業はもう済みました」  室内には饐えた生ゴミの臭気がまだ微かに残っていた。それが仕事とはいえ、自分

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        【連載小説】「北風のリュート」第1話(#創作大賞2024/#ファンタジー小説部門)

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          【ミステリー小説】腐心(19)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。 「とりあえず飯だ」  午後二時前。とうに昼の時間は過ぎている。  香山は朝の一本を台無しにした悔しさから、食後の一服の時間を優先させた。出前の冷麺を胃に流し込むと、澱んだ脳に風を入れようと、炎天下の屋上に出た。クーラーの効いた喫煙室よりも、真夏の容赦ない光に射られるほうが生き返る心地がする。  ハイライトの紫煙で肺を満たすと、二階に下りた。  小田嶋が三号相談室を押さえていた。いちいち指示を出さなくともよい気配りは助かる。だ

          【ミステリー小説】腐心(19)

          ワラシ様とお茶しましょ(#シロクマ文芸部)

          「紅葉からお茶の新年が始まりますんえ」  お稽古用どしたら、こちらあたりが、と海老茶の作務衣姿の女性が碾きたての抹茶をグラムで計って小さな茶筒に詰めてくれた。  店先は一間ほどの土間で、土間に面して畳敷きの店間のある古い商家の造りだった。畳の間の隅に茶箱が整然と並んでいて、作務衣姿の店員が客の注文を聞いてはせわしなく畳の間を往来する。常連さんが多く「いつものでよろしいか」と尋ねる声が店内を行き交い、馥郁とした茶の薫りがただよっていた。  十一月の三連休の最終日に同僚の島ちゃん

          ワラシ様とお茶しましょ(#シロクマ文芸部)

          【ミステリー小説】腐心(18)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。 「や、もう昼だな」  香山は腕時計に目をやる。無機質な調室では時間感覚が狂う。太陽は中天にあるのだろう。入室時には伸びていたぎらつく陽射しは窓辺からすっかり後退し、四角い箱の室内は昼というのに光度が足りない。今日も酷暑だが、閉ざされた取調室では均一な空気だけがよどむ。 「昼休憩取りますか、それとも、このまま続けますか?」  佳代子はだるそうに香山を見あげる。 「食欲なんてないわよ。これ、いつまで続くのかしら。夕方までかかるん

          【ミステリー小説】腐心(18)

          【ミステリー小説】腐心(17)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。  香山は佳代子の運転する白のフィットの後部座席に乗って署に戻った。  車内の指紋を採取することも脳裡を掠めたが、すぐに無駄だと気づいた。ふだんから柳一郎は佳代子の送迎で囲碁クラブにも通っていたのだ。指紋などそこら中に残されている。30日の午後4時台の指紋とそれ以前のものとを区別することなど不可能だ。 「桜台にはよく行かれるんですか?」  後部席から佳代子に話しかける。 「なんですって?」  よく聞こえなかったのか、佳代子がオ

          【ミステリー小説】腐心(17)

          新米編集者深川真理はもてあそばれている(#シロクマ文芸部)

           <秋と本>とだけ書かれた原稿用紙を残し、人気推理作家の立田錦之介が姿を消した。 「また、やられた……」  二年目の駆け出し編集者深川真理は、午前七時に朝食の盆を手に立田の仕事部屋に入るなり床にくずおれた。本日、午後五時が連載小説の入稿締め切りだというのに、完成原稿とともに立田が行方をくらましたのだ。  入り口はひとつしかなく、その扉前には真理が一晩中、居座っていた。パイプベッドは寝乱れたままで、書斎机の窓辺ではオーガンジーのカーテンが風と戯れている。ここから脱出したのだと

          新米編集者深川真理はもてあそばれている(#シロクマ文芸部)

          【ミステリー小説】腐心(16)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。  じゃぶじゃぶと激しい水音がするので給湯室をのぞくと、盛り上がった岩のような背を丸めて流しで顔を洗っているやつがいた。 「樋口、こんなとこで顔を洗うんじゃねえよ」 「あ、カヤさん。すんません。トイレの洗面台だと小さくて水が飛び散るんすよ」  首にかけたタオルで顔を拭きながら振り返る。太い腕をしずくが滑り落ちていく。 「おまえ、明けだろ。家帰って寝ろ。て、言ってもきかねえんだろうけど」 「徹夜なんか捜査中は、当たり前じゃないっ

          【ミステリー小説】腐心(16)

          お江戸まで、ちょっとお宝探しに~日本民藝館×前田家洋館篇

          旅も、ようやく2日めに。 夏日だった前日とはうってかわって、少し肌寒いくらいの朝でした。 hinaさんとローローさんと会う約束に胸が高鳴り、少し早めにホテルをチェックアウト。東京駅に向かいました。 コインロッカーに荷物を預けて、優雅にカフェでモーニングでもいただくつもりでいたのですが。な、な、なんとまさかのデジタル難民に! 東京駅のコインロッカーが、どこもかしこも電子マネー決済だったのです。もちろんクレジットカードは常備していました。しか~しです。スライドや差し込みでのカ

          お江戸まで、ちょっとお宝探しに~日本民藝館×前田家洋館篇

          お江戸まで、ちょっとお宝探しに~落語篇

          いや、もう前座が長くてお待たせしました。 一年越しで待ちに待った、林家あんこ師匠の『北斎の娘』。 それを、吉穂みらいさんと一緒に楽しんできました。 10月19日、江戸深川資料館にて午後7時からの開演。 午後6時半過ぎに会場に向かうと、資料館エントランス前のベンチに、地元のファンの方々でしょうか、三々五々に集まって歓談されています。 10月とは思えない暑い日でしたから、夕涼みのような風情で、宵闇せまる下町の情緒に「いいなあ」と、気分はすでにお江戸です。 2階会場前で、ぼん

          お江戸まで、ちょっとお宝探しに~落語篇

          お江戸まで、ちょっとお宝探しに~吉穂堂×現代美術篇

          今回の旅には、重大なミッションが二つありました。 一つはもちろん、林家あんこ師匠の『北斎の娘』を堪能すること。 もう一つは、『吉穂堂』を再訪することでした。 『吉穂堂』は、吉穂みらいさんが神田神保町の共同書店PASSAGE で棚主として出されているお店です。 昨秋、はじめて『吉穂堂』を訪れました。 そこで憧れの吉穂みらいさんとお会いすることが叶い、ずっと気になっていたみらいさんのアルデバランシリーズの『ナユタ』をゲットしたのです。 この『ナユタ』が期待をはるかに超えて、

          お江戸まで、ちょっとお宝探しに~吉穂堂×現代美術篇

          お江戸まで、ちょっとお宝探しに~吉穂堂×落語×現代美術×民藝のぜいたくざんまい~(旅じたく篇)

          10月だというのに、夏日になるとの予報にくらくらした10月19日。 須磨からお江戸・東京までおのぼり行脚に旅立ちました。 そもそもは、林家あんこ師匠の創作落語『北斎の娘』の公演を拝聴したい!という一年越しの想い(もはや恋)からでした。 創作落語『北斎の娘』について知ったのは、昨秋のこと。 いぬいさんの記事のトップ画像に、まさに目が釘付けになりました。 (「釘付け」って、ある意味怖い表現だと思っていたのですが。こんなときのためにあったのですね) というのも、偶然にも朝井ま

          お江戸まで、ちょっとお宝探しに~吉穂堂×落語×現代美術×民藝のぜいたくざんまい~(旅じたく篇)

          【ミステリー小説】腐心(15)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。  樋口が防犯カメラの映像を画面に映し出す。  香山は自分のデスクの椅子を、小田嶋は空いている椅子に腰かける。それを待って、樋口が解説をはじめた。 「まず、午前の動きから。朝8時52分に柳一郎を乗せた車が出発。9時8分に佳代子だけが戻ります。ここまではカヤさんたちも確認済っすよね。こっからですが」と11時台のデータに切り替える。 「11時26分に再び佳代子が車で外出し、11時47分に柳一郎を乗せて帰宅してます」  門前に白い車

          【ミステリー小説】腐心(15)

          【ミステリー小説】腐心(14)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。  桜台の現場に着くと、先客がいた。  紺の作業着姿の浅田が、係員二人と床に這いつくばっているのが庭から見えた。鍵の確認は小田嶋にまかせ、香山は先にリビングにあがって浅田の背に近づく。 「どうした?」  声をかけると、ああ、カヤさんですか、と腰を叩きながら起き上がる。 「気になることがあったんで、も一度、採取し直しとるんですわ」 「なんか出たのか?」 「ご遺体の前歯に繊維片が挟まってました」 「繊維片?」  浅田はリビングの扉

          【ミステリー小説】腐心(14)