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 木の実と葉っぱをお土産にし、食べずに飾っておくことにした。


 
 飼い主のタツジュンとハムスターの僕は、秋の暖かな日差しの中、田舎へ向かった。

 都会の喧騒を離れ、自然の息吹を感じる瞬間、心が解き放たれるようだった。
 車窓から見える緑は絵画のように美しい。

 田んぼに到着し、畦道で遊んでいると、
僕はリスたちに出会った。
 最初は警戒していた彼らは、僕が持っていたドライマンゴーに興味を示し、徐々に近づいてきた。

 リスの目は好奇心に満ち、僕は彼らにそれを差し出す。タツジュンはスマホで僕らを撮影している。

 これをきっかけにリスたちと遊びながら、彼らの生活や習性を聞き、彼らは林の隠れ家や食べ物の秘密を教えてくれ、僕は彼らとの交流で一体感は満たされていった。
 リスたちの小さな世界に入り込み、マンションでは味わえない自然の大きな規模を実感した。

 しかしリスたちが不安そうにささやく。
リスたちは、タイワンリスといい、人間がペットとして飼ったリスを野へ放したことにより、彼らが繁殖し、生態系を壊すので住処が脅かされているという。

 リスの一匹が涙のように見える目で僕を見つめ、「助けて」と言わんばかりで、僕の心が打ちひしがれた。

「僕たちに何ができる?」

 タツジュンへ問いかける。
都会で得た知識を活かし、リスたちを助けるための計画を立て、リスたちの住処を守る行動を起こしたい。

 だが、タツジュンは
「キンクマには何もできないよ」

 もし僕たちが地域の人々に、リスたちの存在と自然の大切さを伝えるイベントを企画しても、ポスターを作り、SNSで情報を発信しても、生態系に害になるので人間から反感を招くだけ。

 リスたちの可愛らしい姿を見せても、人間は食糧を守る意識が高まり逆効果だと言う。

 僕はリスを見捨てられない気持ちでタツジュンに訴えるが、タツジュンは
「リスは可愛いし、キンクマの気持ちはわかる。
人間の身勝手さでリスが捕獲される残酷な現状に俺は怒りを感じるが、こればかりはどうにもできん」

 人間の言葉が理解できるリスたちは
「ハムスターくんの誠意だけを受け取るね」

 リスたちは僕の姿を見ながら、少しずつ後退りする。僕の足はリスたちへ向かう。

 でもリスたちは一点を凝視し、慌てて駆けり出した。僕は短い四肢で追いかけると、
タツジュンが僕の背後を地面ごと蹴飛ばし、僕を鷲掴みにすると
「ケガはないか。ヘビが真後ろにいたんだぜ」

 さっきまでいたリスたちは既に姿を消していた。


 
 安心して田舎で過ごす。そして彼らとの出会いは友情へ変わっていくはずだった。

 うたかたの、あっけなく消えた理想。

 タツジュンの胸元から鼓動が聞こえ、僕は守られながら生きている体感を得ていた。

#シロクマ文芸部
#小牧幸助さん