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TGV vs 新幹線! ヨーロッパと日本の鉄道バトル


TGVは地続きのヨーロッパでなぜ
「覇権を握れなかったのか?」

フランスのTGV(Train à Grande Vitesse)
と日本の新幹線
はどちらも世界最速クラスの高速鉄道です。
新幹線が日本全国に広まり
TGVはフランス国内を縦横に駆け巡る。
でも・・・ヨーロッパ全土には広がりませんでした。

なぜTGVはヨーロッパで普及しなかったのか?
それは技術の差ではなく「歴史・地理・文化・政治・経済」など
さまざまな要素が絡み合った結果です。
今回はそれらの要因を考えます!


1. そもそもTGVと新幹線とは?

① 特徴

  • TGV「在来線も一部活用」する動力集中電気機関車型

  • 新幹線「専用線しか走らない」動力分散電車型

TGVは一部の区間で普通の鉄道と同じ線路を走ることができます。

②駅の立地

パリには国鉄【SNCF】ターミナル駅のうち
TGVが発着する駅は
パリ北駅と東駅・リヨン駅・モンパルナス駅の4カ所
存在します。

シテ島というパリの中心部は約23ha
東京の中心に位置する皇居の広さは約115haであり
東京でいえば「銀座界隈」というような狭い地域です。
当然「中世都市」のパリには地上駅はありません。

§記事内コラム§
東京駅は
函館北斗と博多まで日本を縦貫する新幹線の始発駅であり
新大阪で乗り換えれば鹿児島中央まで新幹線はつながっています。

一方のフランスでは
「ターミナル駅の行先別分離」が現在も続いています。
東北新幹線開業時には、その始発駅大宮でした。
その後しばらくは上野が東北・上越新幹線の始発駅であり
その状態がパリでは現在進行形です。
パリは中心部だけでなく歴史的価値の高い景観や
建物が各地に分散しています。

江戸も
かつては歴史の深い中世都市でした。
しかし・・・関東大震災と太平洋戦争の結果
都心部の遺構はほぼ原形をとどめないほど変化しました。
石やレンガ造りが中心のヨーロッパ中世都市景観と
木材を中心に作られた江戸の景観は
その保存性や耐火性が・・・違ったのでしょう。

日本人は
「伝統を重んじる気質」と同時に
「新技術へのあこがれが強い」という二律背反を
を同時並立で保ってきた
「ヘンテコリンな国民性」です。

ヨーロッパ=ハイカラ・斬新的
そんなイメージに凝り固まると
フランスやドイツ・イギリスなど欧州民族の保守的思考
にがっかりする日本人も多いのです。
日本人のような
「一つの駅に中心性を持たせる」
といった発想は
パリ市民を説得できなかったというのが真相です。

東京も・・・パリも
中心市街地に巨大駅を新設する余地はほとんど
残っていません。
ただし東京23区はパリ20区と比べたら面積比は6倍
海に面していた「江戸」という中世都市は
浅海に面していた分「拡張性が高い」
という利点があったのでしょう。

2.TGVと新幹線の決定的な差

①既存駅・施設利用のメリット

リヨン駅やモンパルナス駅・パリ北駅・パリ東駅は
「TGVとTET※¹(都市間急行)TER※²(地域急行)が緩急接続して便利」
という側面は否定できません。

新しい路線や新駅を作るコストを抑えられるのが
TGV型のメリットです。


TET※¹(Trains d’équilibre du territoire:都市間急行)
TER※²(Transport express régional:地域急行)

日本の新幹線に相 当するTGVとTET・TERでは
運行に関する権限主体が違います。

TET:Trains d’équilibre du territoireとは
直訳すれば「国土均衡列車」
TER:Transport express régionalを直訳
すると「地域高速輸送」です。

TGVではSNCF Mobilités が
輸送サービス内容(運行本数や 運賃設定)の決定権を持っています。
TETに関してはフランス政府とSNCF Mobilités
TERに関しては地域圏政府SNCF Mobilités が
輸送協定を締結して輸送サービス内容を決定します。
運行にかかる費用の補助においても
フランス政府や地域圏政府が責任を担っているのです。
TETとTERでは SNCF Mobilitésが
輸送協定の目標・基準を達成できないとペナルティがあり
一定以上の成果を満たせばSNCF Mobilités へボーナスが
与えられます。
https://www.itej.or.jp/cp/wp-content/uploads/katsudou/2019-18.pdf

海外交通事情「過渡期を迎えたフランスの都市間鉄道輸送」参照

 ②既存駅・施設利用のデメリット

もしも日本で新幹線が在来線の線路を利用し
新宿駅や渋谷駅に乗り入れると何が起こるのか?
在来線の遅延や非常装置が発報した場合など
「高速鉄道以外の要素でダイヤが乱れる」
そういう影響をもろに受けるのです。
TGVやユーロスターはLGV※³という専用線を走行する
区間が大半です。

※³LGV【Ligne à Grande Vitesse】は
TGVなどの高速列車が走行する高速鉄道専用路線です。
LGVは高速運転を可能にするため
①曲線半径を緩やかにする
②立体交差
③車内信号
などが採用されています。

逆説的にいえば

都市部では既存の線路を走行し
市街地を出てからLGVに入って高速走行する
形態がほとんどをしめます。

従って
❶ターミナル駅やTGV停車駅の大半は在来線と共用です。
❷フランスは標準軌が採用されているためLGVはTGV専用線
ではなく、他国に直通運転する高速列車も利用します。

そのため
❸長距離列車などの遅延によって遅れが遅れを呼ぶ状態※⁴
になる場合があります。

※⁴
LGVは通常貨物列車が走行しませんが
全ての貨物線や在来路線と立体交差が完成してないので
結果として貨物列車や長距離列車などの遅延の
影響を排除できていません。
フランスでも【アヴィニョンTGV駅】などの
TGV専用駅の設置が進んでいますが
都市部に新駅を設置する計画は準備段階が大半です。

新幹線は在来線と完全に分離しているため
踏切もなくカーブもゆるやかな設計です。
駅の構造も「新幹線専用駅」構造を採用しているため
「停車駅以外での高速通過」が安全に実施可能であり
新幹線の高速運転は線路設備のみならず
「駅の構造」が重要な要素です。

③車体構造

  • TGV → 衝突対策のために車体を頑丈に設計

  • 新幹線 → 軌道が完全に独立しているため、衝突回避をシステムとして導入し、車両本体は軽量設計が進んでいる。

TGVはLGV専用線を走行する形態への移行が進んでいますが
一部の地方都市では
「秋田新幹線や山形新幹線」と同様に
普通路線を走る区間も存在します。
その結果として踏切りが完全に除去できていません。

踏切事故が発生する危険性があるTGVは
計画当初から万が一の事故に備えて
「乗客を保護する頑丈な設計」

を採用するのはやむを得ないでしょう。
その結果車体構造が車重の軽量化を阻害しています。

新幹線は動力性能や駆動装置の分散などの効果も高く
車両が軽量で車両ごとの重量差が少ないため
効果的な加速・減速性能を発揮しています。

3. なぜTGVはヨーロッパ全土に広がらなかったのか?

① そもそもヨーロッパは「鉄道の規格」がバラバラ

フランス・ドイツ・イタリア → 標準軌(1435mm)
スペイン・ポルトガル →超広軌(1668mm)
ロシア → 広軌(1520mm)

フランス人:「TGVでヨーロッパを席巻しよう!」
ロシア人:「ごめん線路の幅を変えているのでそのまま走れないよ」
スペイン人:「うちはもっと幅が広いからTGV走れないね」

上記会話のように鉄道の基本である「線路幅」が国ごとに違うため
TGVが直行できない地域が大半です。

さらには電気の規格も違います。

フランス → 交流25,000V
ドイツ → 交流15,000V
ベルギー → 直流3,000V

ユーロスターの初期型はTGVを参考にして「国境を越えてイギリス・ベルギ―へ直行するため」
4電源装置を装備していますが。
TGVがフランス国内仕様が大半である理由は
「電圧・交流・直流変換」に対応した多電源対応の特別な車両を
設計しなおす必要があるからです。

ユーロスターは「フランスアルストム社製の初期型」ならば
実質的には「国境を超える抵抗」は減りますが
ヨーロッパの多国間列車の大半は
「客車列車をその国の機関車がけん引する」
方式が多いのが現実です。

特徴的な鉄道文化がTGVのヨーロッパ各国乗入れ
を阻害している面も否定できません。

② フランス vs ドイツの「鉄道覇権争い」

ヨーロッパの高速鉄道車両をめぐって
フランスとドイツの戦いが長年続いています。

フランスのアルストム社(TGVを作る会社)と
ドイツのシーメンス社(ICEを作る会社)の競争が
ヨーロッパの高速鉄道の統一を阻害する一因だといえます。

どちらもヨーロッパのみならず
世界的な鉄道車両メーカーであり
「フランスとドイツの対立」が鉄道車両販売の世界でも
深刻な対立を生んでいます。

近年は日立製作所のイギリス子会社がその戦乱へ参入し
ヨーロッパのみならず世界各地でし烈な受注競争を
繰り広げています。

TGVの「動力集中方式」が世界の高速鉄道の
標準ではなくなっている現状がEU全域に
TGVが広がることを妨げた可能性も否定できません。

4. なぜ新幹線は成功したのか?

① 在来線が狭軌だったので、新線を作るしかなかった

  • 日本の在来線の軌間 → 1,067mm(狭軌)

  • 新幹線の軌間 → 1,435mm(標準軌)

日本の在来線は線路幅が狭く高速化や
高密度輸送が難しかったため
新しい規格で新線を作るしかありませんでした。
結果的に専用線を整備したことで
安全性・快適性の高い新幹線が誕生しました。

② 戦災復興と重なって新しい都市計画が可能だった

パリのようなヨーロッパの都市は
「中世の街並みを保護しなければならない」
という制約があります。
新しい鉄道路線の建設や新駅設置が都市部ほど難しかったのです。
しかし日本は戦災で大都市の被害が多大であったので、
新しい都市計画を立てやすく新幹線の導入の社会的意義が
経済復興の要素も加味した「政策パッケージ」として
浸透しやすかった側面も否定できません。

③ 日本人は「応用技術」が得意だった

日本はゼロから新技術を作るのは苦手でも
既存の技術を改良して最適化するのが得意な国です。
新幹線の技術は航空機の流線形デザインや
欧米の鉄道技術を取り入れながら
日本独自の改良を加えて完成
しました。

このスタンスが新幹線成功のカギです。

5. まとめ:TGVと新幹線はこれからも切磋琢磨するライバル!

新幹線の成功は「日本の技術力の成果」

などという単純な理由ではありません。
日本人特有の「新しいモノ好き」と
「地の利」「時期的優位性」
や「鉄道利用の環境」「人口密度」
などが複雑にからみあって
影響したのでしょう。

まったく同じことはフランスにも言える

フランスは
農業大国おしゃれなファッションブランド
のイメージが強い国です。

では
なぜフランス産のファッションブランドが
世界を席巻したのか?

それはフランス人の

「モノづくりに対する情熱」

その熱量に起因するからです。
もしも・・・シーメンスとアルストムが手を組んだら・・・

シーメンスとアルストムは 鉄道部門の統合で
2017年一度合意しているのです。
しかしEUが「強者連合の弊害」を理由に
統合を許可しなかったため2019年に破断になりました。

それは世界的な鉄道メーカーの再編が
これからも起こる可能性を示唆するものです。

今後高速鉄道地図は劇的に変化します!

なぜか?

中国は独自の高速鉄道を
アフリカや東南アジアに輸出していますが
「利益の上がらない事業が大半で中国中車などの
鉄道メーカーが青息吐息だという事実です」

中国メーカー主導の再編は考えずらいでしょうが
日本やアメリカ・フランス・ドイツ・イギリスなどに
インドを含めた鉄道メーカーの再編は
「必ず起こります!」

しかしその可能性は
「日本が主導する合併や統合」
を否定するものではありません。
未来の鉄道バトルはどうなるのか?
これからも目が離せません。

TGV式か!新幹線式か!
それが技術革新を昂進させるキーワードです! 🚄✨


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