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空想お散歩紀行 物語の道

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空想の世界の日常を自由に描いています。
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空想お散歩紀行 残りの人生は有意義に

空想お散歩紀行 残りの人生は有意義に

一人の男が招かれた部屋は机や椅子など、必要最低限の物が置かれた質素な部屋だった。
その質素さとは、裏腹に男の目の前に座っているのは、赤と緑の紋様が入ったローブを着た、いかにも魔術師といった感じの女だ。
「さて、魔術協会の審査官さん。今回はどんなご用件で?」
白々しいと、その男、魔術協会審査官のオルテは思った。
「ヴィオラさん。分かっていると思いますが、我々はあなたと敵対する意志はありません。あくま

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空想お散歩紀行 長命種の創作

空想お散歩紀行 長命種の創作

ヒューマ、エルフ、ドワーフ、ホビットに各種獣人たち。
様々な種族がいて、歴史も慣習もバラバラだが共通することも多い。
食事を楽しむことや芸術を愛でることなどである。
当然、そこにも種族による違いはあるが、好き嫌いはそれぞれ個人に依る所が大きい。
ドワーフの作った料理でも、それが嫌いなドワーフもいれば、それが好きなホビットもいる。
だが、エルフが作る芸術分野だけは他種族が一律に嫌う傾向が高い。
その

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空想お散歩紀行 味を追い求めるのは無限の道

空想お散歩紀行 味を追い求めるのは無限の道

どんな時代になっても案外人は変わらない。
その最たるものが食に対する渇望だ。
「おまたせしました」
レストランの一つのテーブルに料理が運ばれてくる。
周りには、親子連れや恋人同士がそれぞれの時間を過ごしていた。
だがその男だけは違った。テーブルについているのは彼一人。
彼は純粋に食事を楽しむためにここに来ていた。
会話も景色も彼にとっては食事を邪魔するノイズでしかない。ただ一人、料理の香りと味に全

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空想お散歩紀行 新しい風吹き荒れる世界

空想お散歩紀行 新しい風吹き荒れる世界

冒険者の間で最近よく話題に上がっていることがある。
クラウトの街から西に行ったところにある森に出現するモンスターの様子が最近おかしいと言うのだ。
「あそこの森は、それほど強いモンスターはいない。だから冒険初心者が腕ならしをする場所として有名だったんだ」
「それが、今は一目見ただけで恐ろしいと分かるモンスターばかりになってしまったと・・・」
暑い地域と寒い地域で、そこに住む動物の生態に違いがあるよう

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空想お散歩紀行 旅はその道そのもの

空想お散歩紀行 旅はその道そのもの

旅行とは、目的地に辿り着くことだと考えている人がいる。
目的地に着いて、そこで何をするか、何を見るか、何を食べるかばかりが注目されているが、私は違う。
それももちろん旅行の醍醐味だ。
だが私は、道中こそが旅だと思っている。
見知った町、見知った家、見知った部屋という日常から、写真や想像でしか見たことのない知らない場所という非日常に行く。
その途中、日常から非日常へと変わりゆく、その瞬間を味わうこと

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空想お散歩紀行 不老不死の先に見るもの

空想お散歩紀行 不老不死の先に見るもの

西暦2256年。人の命に関わる二つのことで新たな発見があった年だった。
そこから100年が経った2356年。発見は研究によってデータを重ね、開発によって人が手に取ることができる技術へと昇華した。
かつてない、人類の歴史を大きく変えた発見の一つ目。
それは不老不死の実現である。老いることなく、死ぬこともない。多くの人間が夢に見た、
夢すら超えた夢。それが現実のものとなったのだ。
これにより、世界中の

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空想お散歩紀行 妖怪宇宙大戦争

空想お散歩紀行 妖怪宇宙大戦争

その日、世界中に人々がテレビに、パソコンの画面に、釘付けになっていた。
その画面に映っているのは、それまで映画やアニメの中でしか見たことないような光景。しかしそれは紛れもない現実だった。
空一面に浮かんでいる物体。いわゆる未確認飛行物体、UFOである。
それが今、地球の各地に突如として出現したのだ。
地上から見上げることができるそれは、巨大な天井のようだ。
だがそれは来訪者の乗ってきた乗り物の底部

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空想お散歩紀行 スピード&メモリーレース

空想お散歩紀行 スピード&メモリーレース

夕日が沈んで行く。西の空が赤く染まり、徐々に暗い青になっていく。
東の方ではすでに星が瞬き始めていた。
「今日はここにするか」
男は、夕日に向けていたカメラを下すと振り返り、我が家に向かう。
我が家と言っても、それは家としては小さく、そしてタイヤが付いていた。
キャンピングカー、それも小型車を改造した一人用の物だった。
彼は今旅をしていた。
レースという名の旅を。
大陸横断レース。参加者はそれぞれ

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空想お散歩紀行 アーマーな彼女

空想お散歩紀行 アーマーな彼女

到着した列車から乗客が降りてくる。
様々な人生が交差する駅という場所において、その二人はさらに異彩を放っていた。
「やっと着いたか」
先に降りてきたのはまだ少年のあどけなさを少し残した顔つきの青年だった。
風にたなびく金糸のような髪を無造作にまとめているが、その端正な容姿は道を歩けば多くの人が振り向くかもしれない。
だが、そういうことはあまりない。
なぜなら、もう一人の方がずっと異質だからだ。

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空想お散歩紀行 世界で一番平和なお店

空想お散歩紀行 世界で一番平和なお店

いらっしゃい。よく来たわね。
ここは世界で一番平和なお店。ゆっくり見て行ってちょうだい。
え?そう、私はエルフ。歳はそうね、想像にお任せするわ。まあ、たぶんあなたが思っているよりも長生きしてると思うけど。
とにかく、私のお店の商品はどれも自慢の一品ばかりよ。
何せここは世界で一番平和お店。その名の通り、平和な時でないと開店しない。
1年前、魔王が倒されたでしょ?だからそろそろかなと思って。
今回の

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空想お散歩紀行 理想の見た目を手に入れるために

空想お散歩紀行 理想の見た目を手に入れるために

自分の見た目を気にするということは、少なくとも誰もが一度は通る道である。
そしてそれは大抵自分の容姿に対する不満が大半だ。
もっと目が大きかったら、もっと鼻が小さかったら、もっと胸が大きかったら・・・
見た目を変えることができれば全てが良い方向に動き出すはずだと信じて、今日も鏡の前でそこに映っていない自分を想像している人は大勢いる。
そして、その願望を叶える方法の一つが整形という手段である。
比較

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空想お散歩紀行 落ちこぼれの10年

空想お散歩紀行 落ちこぼれの10年

ようやくこの時が来た。
私が望んでいたこの瞬間が。
今私の目の前にはベッドに横たわる男が一人。
一応まだ息をしているが、それはひどく弱々しく、辛うじて空気が口を出入りしている程度だ。
視線は天井を見つめたまま、いや果たしてもう見えているのかどうかも分からない。
この人はもうすぐ死ぬ。
これが私の待っていたこと。10年掛かった。
やっぱり私は落ちこぼれだ。
一人の人間を殺すのに10年も掛かるなんて。

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空想お散歩紀行 闇のサイクル

空想お散歩紀行 闇のサイクル

雨が降り、川が作られ、草木を育み、川は海へと流れ、そしてまた雲を作り雨が降るように、世界は常に回っている。
それは自然界だけではなく、人間界でも同じである。
さらに言えば、そのサイクルに善悪や正邪はない。
闇を生きる者たちの間でもそれは必定である。
一人の暗殺者がいる。
彼は依頼通りに一人の人間を殺す。それは仕事だから当たり前だ。
時に彼は殺すだけが仕事でないときもある。
殺した後の死体処理まで込

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空想お散歩紀行 それはただそこにある試練

空想お散歩紀行 それはただそこにある試練

とあるダンジョン。そこは何人もの冒険者が挑戦し、そしてある者は大量の金を持ち帰り、ある者は満身創痍で帰ってきた。
このダンジョンにはゴーレムが出現する。
ゴーレムとは主に岩石の体を持つ魔法生物である。
だが、このダンジョンのゴーレムは特別だった。それがここに冒険者が集まる理由でもある。
このダンジョンはどこかに金の鉱脈があるらしく、その金を自身の体の材料にしたゴールデンゴーレムが出現するという非常

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