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空想お散歩紀行 スピード&メモリーレース

夕日が沈んで行く。西の空が赤く染まり、徐々に暗い青になっていく。
東の方ではすでに星が瞬き始めていた。
「今日はここにするか」
男は、夕日に向けていたカメラを下すと振り返り、我が家に向かう。
我が家と言っても、それは家としては小さく、そしてタイヤが付いていた。
キャンピングカー、それも小型車を改造した一人用の物だった。
彼は今旅をしていた。
レースという名の旅を。
大陸横断レース。参加者はそれぞれのキャンピングカーに乗り、全ての寝泊りをそこでしながらゴールを目指す。
ただゴールを目指すのなら、最短距離を真っすぐ進めばいいのだが、それだけではつまらない。
このレースの重要なところは、レースでありながら旅でもあるところだ。
スタートからゴールに向かうまでの間、どのコースを取るかは全て参加者の判断に委ねられる。
参加者は道中にある風景を写真に撮り、それをネットにアップすることができる。
そしてこのレースをネット中継などで見ている観覧者は、そのアップされた写真に点数を付けることができる。点数は参加者のポイントとなる。
つまり、このレースは単に一番早くゴールした者が優勝者ではない。
一番ポイントを稼いだ者が優勝できるというルールなのだ。
彼は車から食材を取り出すと、自分の車に備え付けてある外付けのテーブルの上で調理を始めた。
その行程もこまめに写真に収めていく。
少しでもポイントを稼ぐためだ。
もちろんレースでもあるので、ゴールはもちろんのこと、大陸各所にある必ず通らなければならないチェックポイントに早く到着した順でポイントがつく。
要は、いかに速く、それでいて道中でどれだけいい写真が撮れるかという戦略が重要になっていくわけだ。
単純に観光名所や話題のスポットみたいな所の写真もあれば、その土地特有の何気ない日常的な風景、地元の食材で作った料理、野良猫、等々参加者のセンスのセンスと計算が色濃く反映された写真も多々ある。
スピードポイントとバズりポイントどちらを優先させるか、それを常に判断しなくてはいけない。
風景写真でポイントを稼ごうとしても、その日の天候でポイントは大きく左右される。
誰もが知っていて確実なポイントを稼げるが、そこまで行くと大きな時間のロスになる。だから敢えてそこをスルーするか、そう皆が思うだろうから敢えて行くのか、心理の読み合いも重要な要素になってくる。
この大陸横断レースはまだ始まったばかり。
レーサーとキャンパー、二つの顔をいかに使い分けるかが勝負のこの競技は、年々人気が上がってきて火花を散らせている。
ちなみに、一日のうち最低6時間は睡眠に使わないといけないというルールが存在している。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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