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空想お散歩紀行 闇のサイクル

雨が降り、川が作られ、草木を育み、川は海へと流れ、そしてまた雲を作り雨が降るように、世界は常に回っている。
それは自然界だけではなく、人間界でも同じである。
さらに言えば、そのサイクルに善悪や正邪はない。
闇を生きる者たちの間でもそれは必定である。
一人の暗殺者がいる。
彼は依頼通りに一人の人間を殺す。それは仕事だから当たり前だ。
時に彼は殺すだけが仕事でないときもある。
殺した後の死体処理まで込みの仕事の場合だ。
そんな時、彼は喜ぶ。
なぜならその死体を、闇ルートで医者に売ることが出来て、暗殺の報酬にボーナスがついてくるから。
死体を手に入れた医者はそれを使って解剖を行う。
本物の人間の体を解剖することは、医者にとってこれ以上ない知識と技術を得るための
体験だ。事実これが積み重ねられてきたからこそ太古より医学が発達して今に至るのだから。
解剖が一通り済んだ後、医者はその死体をさらに売る。なぜなら放っておけば、その身体はただ腐っていくだけだからだ。
次に死体が行くところはネクロマンサーのところである。
死霊術の使い手にとっても、死体は自分の魔術の研究と実験に欠かせないものであり、同時に商売道具でもある。
家事など身の回りのことから、時には戦いまで、死霊術による死体の扱いは多岐に渡る。
さらに医者よりも効率的なのは長く使えることだ。
最初は人間の死体だったものが、肉が腐ってきたらゾンビとして使用し、その肉も落ちて骨だけになったらスケルトンとして使役する。
ネクロマンサーとは死体を最後まで有効活用する魔術師なのだ。
しかし、魔力を通された骨もやがては朽ちて粉となる。ここまで来るとネクロマンサーと言えども使役はできない。
ここで終わりかと言えばそうはならない。死霊術の影響で魂は悪霊となり、霊の形を持って夜の世界を漂い続けることになる。
そうなるとその先の道は三つしかない。
永遠に漂い続けるか。
運よく、僧侶などの聖職者と出会い浄化されるか。
もしくは、生きている人間に憑りついて体を乗っ取るかである。
悪霊に体を乗っ取られた人間は大抵の場合おかしくなる。闇に染まった魂が人の心の中の良くない部分を増幅するからだ。
だから、悪霊に憑りつかれた人間は見た目こそ変わらないが、中身は全くの別人となって世の中でいろいろな悪事を働くことになる。
そうなった人間はほぼ必ず人間世界の闇へと足を踏み入れる。
法の番人に捕まれば最高に運が良いが、ほとんどは同じ闇の住人とのいざこざなんかで命を落とす。そう、例えば暗殺者などに殺されるわけだ。
そして殺されたその体は、暗殺者の手によって闇のルートに流れ・・・
と、これが闇のサイクルと呼ばれるものだ。
だから、悪いことはしてはいけないよという、昔から語り継がれている、小さな子供に聞かせる躾けのためのお話。

その他の物語
https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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