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空想お散歩紀行 新しい風吹き荒れる世界

冒険者の間で最近よく話題に上がっていることがある。
クラウトの街から西に行ったところにある森に出現するモンスターの様子が最近おかしいと言うのだ。
「あそこの森は、それほど強いモンスターはいない。だから冒険初心者が腕ならしをする場所として有名だったんだ」
「それが、今は一目見ただけで恐ろしいと分かるモンスターばかりになってしまったと・・・」
暑い地域と寒い地域で、そこに住む動物の生態に違いがあるように、世界各地に出現するモンスターたちにも地域ごとに特色がある。
クラウト西の森に出現するモンスターはついこの間までレベルが低いものばかりだった。
基本、その地域のモンスターは個体差はあれど、大体同じくらいのレベルで構成されている。
クラウト西の森のモンスターは、どちらかというと見た目もそれほど恐いと思えるようなものはいなかった。それが初心者向けである理由の一つでもある。
だが、その可愛らしいとさえ言えた外見のモンスターたちが、恐ろしく狂暴そうな見た目に変わってしまったのだ。
「あれは、元々いたやつらが変異したというよりも、全く別の個体に入れ替わった感じだ」
「ということは、よその地域からやってきたモンスターがあの森を乗っ取ったのか?」
「だとしたら、元からいたやつらはどこに行った?調査隊の話では死体や食われたような残骸すらなかったそうだぞ」
「そう言えば、これは噂なんだが、新しいほうのモンスター、見た目だけで言えば前よりも一回りも二回りも強そうなんだが、実際戦ってみるとそれほど強さは変わらんらしい」
「どういうことだ?」
「分からんなあ」
ああなのではないか?こうなのではないか?と議論は終わりを見せる気配すらない。
「やはり、魔界で何かが起こっていると考えるのが妥当か」
モンスターは普通の動物たちとは違う。その正体は魔界で人工的に作られていると言われている魔導生物だ。
人間たちが自分たちの生活に使う道具を作るように、魔界でモンスターは作られている。
「もしかしたら、魔王軍が本格的にこちらに侵攻してくる兆しかもしれないな・・・」
各地で起こっている異変に対し、人間たちは言い知れぬ不安に怯えるばかりであった。

「どうだ進捗は?」
「今のところ順調ですね。締め切り二日ほど過ぎてる人もいますけど」
魔界にある、とある街の一角。そこに建つビルの中では大勢の魔族たちがせわしなく動き回っている。
「何とか山場を越えたって感じですかね」
「そうだな、一時はどうなることかと思ったが」
「魔王様ももう少し余裕を持って命令を出してほしいですよね」
「まあ、そう言うな」
彼らは今の仕事に対する愚痴と、それを乗り切った達成感とが混じった気持ちで話している。
今回のモンスターのデザインの大型仕様変更プロジェクトは近年稀にみる大仕事だった。
これからの魔界の未来を考え、その取り組みの第一弾として、旧態依然としてあまり変わり映えしなかったモンスターのデザインを大幅に変更する。
なるべく若い風を取り入れようと、まだそこまで実績があるわけではない若いデザイナーを大胆に大勢採用した。
「しかし、デザインを変えるのはいいんですけど、強さはそのままってのが違和感あるんですよねえ。例えばほら、このプランツラビットなんて、前はこんなに可愛い系だったのに、新しいのは何て言うか過激?な感じで明らかに強さ違うでしょこれ」
「でもなあ。強さまで変えるとなると、それこそ人間界中のモンスターバランスを調整する必要が出てくる。そうなると、政治的な問題や何より金の問題がでかくなりすぎるんだよ。当然俺たちの仕事も増えて、まともに帰れなくなるぞ」
「・・・それは嫌ですね」
長く続いてきたものを新しいものに変える。それは想像以上にパワーのいることだ。
だが、いつかは誰かがやらなくてはいけない。
魔界は今まさに、イノベーションが第一に掲げられる時代へと突入していた。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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