見出し画像

空想お散歩紀行 それはただそこにある試練

とあるダンジョン。そこは何人もの冒険者が挑戦し、そしてある者は大量の金を持ち帰り、ある者は満身創痍で帰ってきた。
このダンジョンにはゴーレムが出現する。
ゴーレムとは主に岩石の体を持つ魔法生物である。
だが、このダンジョンのゴーレムは特別だった。それがここに冒険者が集まる理由でもある。
このダンジョンはどこかに金の鉱脈があるらしく、その金を自身の体の材料にしたゴールデンゴーレムが出現するという非常に珍しい場所である。
そのゴールデンゴーレムを倒し、金を手に入れようというのが冒険者の目的なわけだが、そこはモンスターランクでも昔から上位にいる魔法生物ゴーレムである。こいつを難なく倒せるような冒険者パーティはそうそういない。たとえゴーレムを倒して金を手に入れても、大怪我を負ってその後まともに体が動かせないでは話にならない。
だからほとんどの冒険者は直接ゴーレムとは戦わない。
ではどうするのかと言うと、そのダンジョンのどこかには寿命を迎えたゴーレムの墓場のような場所があって、そこに辿り着ければ苦労せずに山のような金が手に入る。
そして実は、その墓場がダンジョンのどこにあるかも分かっている。
それでも金を手にして戻ることができる冒険者はわずかだ。
それはなぜかと言えば、その墓場の前に通らなければならない部屋があって、そこに一人の老人がいる。どうやらその老人は精霊か何かの類らしいのだが、訪れる冒険者に試練を与えるのだ。
それを乗り越えることができた者だけが、先にあるゴーレムの墓場への道へ進むことができる。
その試練とは、その部屋で一対一の対決をすることだ。
相手はどこからともなく現れた、人の形をしているが幻影のような、何とも不思議な存在感を放つ者。
その者は挑戦者である人間と同じ戦闘スタイルを使ってきた。
剣を使う者には剣を。魔法を使う者には魔法を。
勝つことできた者もいたが、ほとんどの者は負けて撤退を余儀なくされていた。
旅人や冒険者が集まる酒場では、その試練に挑戦し敗れた者たちが、新たな挑戦者たちにいろいろと助言をしていた。
『お前はダメだ。そんなことでは勝てない』
『あいつを甘く見るな。あれは手強い』
『勝てなくても仕方ない。あれはそういうものだ』
敗れた者たちは、試練で戦った相手を手強く、恐ろしく、簡単に勝てる相手ではないと口を揃えて言った。
それを聞いたダンジョンに挑戦しようと考えていた冒険者は、その話だけで怖気づく者も多かった。

ある時、一人の冒険者が例のダンジョンに潜り、試練の部屋へと辿り着いた。
他の冒険者と同じように老人が現れ、試練への挑むかどうか尋ねたが、冒険者はそれよりもその老人と話すことを選んだ。
「あなたはなぜ、こんな試練を課すのですか?」
「なあに、人を見るのが好きなだけじゃよ。人の生き方をな」
「人の生き方?」
「そう、ここでは人の生き方がそのまま現れるのじゃ」
冒険者の前に、試練の相手が現れた。事前に聞いていた通り、人の形をしているがどこかおぼろげでつかみどころがなく、どのように仕掛けてくるのか、次の動きが読めそうにない。
しかし、その試練の幻影は次の瞬間、煙が風に流されるかのように消えてしまった。
それを見た老人は大層驚いて、そして喜んだ。
「ほお、あれに打ち勝ったか。お主何をした?」
冒険者はその問いにただ一言答えた。
「何とかなると思いました」
それを聞いた老人はただ満足そうに頷いた。
「うむ。それが正解じゃ」
冒険者は最初から最後まで剣を抜くことすらなかった。
「誰もがあれを相手に戦う姿勢を見せた。まるで強大な敵のように。しかし本当は敵ではないのだ。だが戦ってみると手強い。それはあれのことを『甘くない』と思っているからじゃ。『厳しい』と思っているからじゃ。『大変だ』と思っているからじゃ。お前さんはあれが何なのか、うっすら気付いたようじゃの」
「はい」
冒険者小さく返事をした。
「そう、あれの名前は『人生』と言う。その名前以外、最初は何も持っていない。だが人々がそれに力を与える。厳しいと思えば厳しい相手になる。だが、お主は何とかなると思った。だから何とかなったのじゃ」
老人は微笑みながら、指で部屋の隅を差した。するとその場所が音を立てて動き、奥へと続く道が現れた。
「やはりここはおもしろい。いろいろな人間の生き方が見れる」

その他の物語
https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?