空想お散歩紀行 妖怪宇宙大戦争
その日、世界中に人々がテレビに、パソコンの画面に、釘付けになっていた。
その画面に映っているのは、それまで映画やアニメの中でしか見たことないような光景。しかしそれは紛れもない現実だった。
空一面に浮かんでいる物体。いわゆる未確認飛行物体、UFOである。
それが今、地球の各地に突如として出現したのだ。
地上から見上げることができるそれは、巨大な天井のようだ。
だがそれは来訪者の乗ってきた乗り物の底部分に過ぎない。
それが何十機と空に静止している。
「何か言ってきたって?」
とある部屋の中。そこには10人ほどが集まってテレビを見ていた。
慌てて部屋に入ってくる一人の男。
変わり映えしない画面に飽きて少し席を外している間に状況が変わったのだ。
「ああ、今さっき声明を出した。世界中の言語でだ。いろいろ言ってたけど、まあ一言で言うと、降伏しろ、だな」
侵略宇宙人。そんなSFのようなことが現実に起きるとは誰もがこの光景を前にしても信じられない気持ちでいた。いや、受け入れるにはあまりに唐突すぎたのかもしれない。
だが、分かっていることがある。
この侵略者の方が遥かに地球人よりも力を持っているだろうことだ。
巨大な宇宙船群の科学力、こちらの言語を正確に全て把握している知性。どんな姿の宇宙人かはまだ分からないが、自分たちよりも高い能力を持っているだろうことは容易に想像できた。
「で?こっち側はどう反応してるんだ?」
「どうもこうも、どこも混乱しかしてないよ。どのチャンネルも特別番組になってるけど、言ってることは大体似たようなものだね」
「宇宙関連の専門家が出てるけど、何も分からないってさ。当たり前だけど」
「まあ、しょうがないな。だが、ワシらにとって重要なのはそこではないだろう?」
部屋の中の全員が同時に頷く。
突然襲撃してきたのが、宇宙人だろうと地底人だろうと彼らには関係無かった。
「今、この宇宙人共らが恐怖を集めてるんだろうなあ、人間たちの」
この中で一番年上の男がぼそりと呟く。赤い肌に雄々しい角。まさにおとぎ話に出てくる鬼そのものだった。
「どうするよ?このままじゃあいつらが世界を支配しちまうぜ?」
鬼の他には、天狗や河童、日本を代表する妖怪たちがそこにいた。
彼らが今回の騒動で恐れていること。それは、
「世界中の恐怖をあのよそ者に取られちまう」
神々が人間の信仰を得て生きているように、
彼ら妖怪や幽霊といった類の者たちは、人間の恐怖を糧としている。
「今、世界中の人間たちの頭の中はあいつらで一杯だぜ」
「そしてやつらがこのまま世界を攻撃すれば、まさに恐怖の独り占めだ」
「だからどうするよ?」
「今すぐこちらからも戦いを挑むべきだ」
「おいおい。もっと慎重になったほうがいいじゃないのか?」
部屋の中はいつの間にか、テレビ画面の方を見ている者は一人もおらず、これからどうするかの議論に熱が移っていた。
「いや、時間が経てば経つほどこちらが不利になる。確かに今この瞬間はやつらに対する人間の恐怖の方が上だが、我らには数百、数千年積み上げてきた恐怖がある」
「そうだな。時間が経つほどその貯金は減っていくだけだ」
その時、小さな鬼が慌ただしく部屋に飛び込んできた。
「い、今連絡が入ってきました!海外の妖怪たちから一緒に立ち上がろうと!ドラキュラ、フランケンシュタイン、ワーウルフ、名立たる者たちばかりです」
小鬼のその顔は、この非常事態にありながらどこか期待と興奮を帯びたものだった。
「・・・行くしかなかろう」
その場の全員が再び頷く。
「よし!日本中の妖怪に号令を掛けろ!我々は今から宇宙からの侵略者に対して宣戦を布告すると!」
「人間たちを守るぞ!やつらの恐怖は俺たちのものだ!!」
ここに日本と各国、世界大妖怪連合が立ち上がった。
侵略者から地球を守るために。全ては世界の恐怖を守るために。
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