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空想お散歩紀行 物語の道

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空想の世界の日常を自由に描いています。
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2022年5月の記事一覧

空想お散歩紀行 バーチャルユーチューバー亜種

空想お散歩紀行 バーチャルユーチューバー亜種

「こんにちはー。今日は、予告していました、この懐かしいゲームを実況していきたいと思いまーす」
軽快な口調で始まったのは、とあるユーチューバーの生配信だった。
彼は見た目はさほどパッとしていなく、いわゆる、どこにでもいるようなモブ顔の一人だった。
しかし、その淀みなくその口から紡がれる言葉は、まるで山奥の湧き水のせせらぎのように人の耳に自然に入ってくる。
そうかと思えば、ゲームプレイやその他の企画を

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オオカミ少年

オオカミ少年

「大変だ・・・ッ!」
少年は走っていた。森の中を必死に。
植物の小枝が何度も体に当たり、体に小さな傷をいくつも作りながらも、それでも彼はその足を止めなかった。
村に危機が迫っている。彼はそれを伝えるために走っていた。
しかし、彼の心には二つの不安がある。
一つは今迫っている脅威のこと。そしてもう一つが自分の普段の行いだった。
彼はいつも、ウソを言っていた。
村の人たちに偽りの一大事が迫っていること

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部活動、夏の空に向けて

部活動、夏の空に向けて

「決めたッ!」
その日、天文部部長、松永琴音は部室で叫んだ。
同じく部室にいる他の4人の部員はそれぞれ携帯をいじったり、マンガを読んだりしていて大して反応していない。
「・・・少しはリアクション取りなさいよ」
「お前の言うことにいちいち反応してたら、キリがないからな」
他の部員たちも無言で首を縦に振っていた。
不満な表情が明らかに顔に出ていたが、琴音は強引に話を続けた。
「私たち天文部の夏に向けて

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空想お散歩紀行 推し活ハウス

空想お散歩紀行 推し活ハウス

午後7時30分。夕食も終わり、まったりとした空気が流れているリビングに、それを破るように飛び込んできた音があった。
「あ、当たったーーーッッッ!!」
髪が乱れているのも気にせずにその27歳の女、七海亜美は満面の笑みで自分の気持ちを言葉に出していた。
「え!?当たったの」
「お~、おめでとー」
リビングでくつろいでいた他の住居人が皆、同じように彼女を祝福した。
ここはいわゆるシェアハウス。住んでいる

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空想お散歩紀行 星々の会話

空想お散歩紀行 星々の会話

数えきれないほどの人の話を聞いてきた。
話の内容は千差万別。
嬉しい話もたくさん聞いた。
長い時間を掛けた仕事が成功した話。ようやく念願の子供が産まれた話。
愛と喜びの話を星の数ほど聞いた。
それと同時に悲しい話もたくさん聞いた。
事故で大怪我をした友人を助けてほしいと叫ぶ声。長年の愛が終わり、別れを告げる声。
苦痛と悲嘆を星の数ほど聞いた。
時に悪だくみの話も聞いた。どこそこの会社を、銀行を、金

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空想お散歩紀行 キャンバスバトル

空想お散歩紀行 キャンバスバトル

その日、会場は満員御礼。主に若者を中心にイベント開始前から異様な熱気が既に会場中を包み込もうとしていた。
観客たちの前にあるステージは不思議と会場の熱気から隔絶されたような静けさを醸し出していた。
飾り気のない自然な色のライトに照らされるステージで目を引くのは、そこにある白い壁だった。
高さ3メートルほど、横幅5メートルほどのそれなりの大きさの壁。
それが今宵の戦いのフィールドであった。

古代、

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空想お散歩紀行 いつもの世界、いつもの自分を離れて休日を

空想お散歩紀行 いつもの世界、いつもの自分を離れて休日を

都会のとあるビルの一室。そこに一人の男が帰宅してきた。
一人で暮らすには十分、いや広すぎるほどの部屋に彼は満足気な表情を崩さず入ってきた。
事実、彼は今日一日を非常に気分よく過ごすことができたのだ。
部屋の中は、テレビや調理器具など一通りの生活用品が置かれている。
しかしその他の物が、異質な空気を部屋の中に作っていた。
大量の服や靴、それもサイズやデザインがバラバラ。化粧品。子供向けおもちゃ。まる

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空想お散歩紀行 迷子の迷子の

空想お散歩紀行 迷子の迷子の

世界は一つではない。しかしそれは、AとBという全く異なった世界が存在しているという意味ではない。
わずかに違いのある世界が幾重にも薄く、ミルクレープのように重なっているもの全てを総称して世界と呼んでいる。
多層構造世界。ある時間軸の一点で、その構造が全ての世界でほぼ同時に発見された。
自分のいる世界と違いが小さい世界は近くに、違いが大きい世界は遠くに存在している。
そして、多層構造世界の発見は互い

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空想お散歩紀行 目覚める場所はどこ?

空想お散歩紀行 目覚める場所はどこ?

聞こえてくるのは鳥の鳴き声と波の音だけ。
水平線からすっかり顔を出した太陽が波立つ水面を照らし、幾重にも違うパターンの光の反射を生み出している。
朝の海と空を眺めながら、一人の女性が背伸びをした。
「う~~~ん、いい朝」
今の季節は直射日光にまだ暑さの兆しはなく、この時間帯はちょうどいい涼しさが全身を覆ってくれる。
「今日は満点だぞ」
そう言うと彼女は振り返る。
海岸沿いに作られた公園。その駐車場

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空想お散歩紀行 付けたし屋

空想お散歩紀行 付けたし屋

たくさんの光が何回も何回も明滅を繰り返す。
カメラのフラッシュの嵐を浴びながら、それでもその人は笑顔を崩さない。
自分の顔の横にトロフィーを掲げながら、まさに今が人生の絶頂といった感じで一歩も動くことなくその場に立ち、嵐を一身に受けていた。
映画の祭典。毎年行われる、その年で一番の作品を作った監督に贈られる賞。数多の映画人たちがその賞を目指して自らの世界を表現する。
その賞を取ることは、映画界の歴

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空想お散歩紀行 地球の空に

空想お散歩紀行 地球の空に

自由とは自分自身を縛るものがないことだと思われがちだ。それは当たっているようで外れている。
俺は今、行こうと思えばどこへでも行ける。
だが、どこへ行こうとも決して自由ではない。心が常に縛られているからだ。決して望む場所には行くことができないと、既にあきらめてしまっているからだ。

だが、諦めていない男がいた。
そいつは、ここで共に20年過ごした仲だ。
この地球と呼ばれる世界で。
ここでは俺たちは半

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空想お散歩紀行 ハッピー・バースデー・サイキック

空想お散歩紀行 ハッピー・バースデー・サイキック

超能力は存在する。
触れることなく物を動かす。自由自在に空を飛ぶ。離れた場所に一瞬で移動する。
様々な、現代の人間の科学や知識では測ることのできない現象を操る力。
それを使う人間を超能力者と呼ぶ。

そしてこの世界では『全ての人間』が超能力者である。
ただし、『限定的』という制約が付くが。
赤ん坊としてこの世に生を受けたその日、能力が発現する。その時に発現した力の種類がその子が使える超能力だ。

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空想お散歩紀行 犯人の瞳に映るものを

空想お散歩紀行 犯人の瞳に映るものを

人間の活動が全て記録に残る、そんな技術が確立してからそれなりに年月が経過した、そんな時代。
人々は脳に埋め込む極小マシンのおかげで、PC等の端末を使わなくともネットに直接接続が可能になり、視界に様々な画面を立ち上げいつでもどこでも買い物や仕事等の作業が行えるようになった。
ドライブレコーダーのように、自分が見たものをそのまま外部記憶装置に保存も可能になり、まさに自分の人生をそのまま記録することが当

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空想お散歩紀行 魔法の法

空想お散歩紀行 魔法の法

魔法は世界中の至る所で、その力をふるっている。
日常生活から戦争まで、魔法が存在しない場面は無いほどだ。つまりそれだけ便利なものということ。
そして、魔法にはいくつもの種類がある。
自然精霊の力を借りるもの、物を動かすもの、遠く離れた場所とやり取りするもの。
まさに千差万別。それは過去数千年の歴史の中で先人たちの、そして今を生きる者たちのたゆまぬ努力のたまものであった。
しかし、世の中に完璧なもの

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