空想お散歩紀行 魔法の法
魔法は世界中の至る所で、その力をふるっている。
日常生活から戦争まで、魔法が存在しない場面は無いほどだ。つまりそれだけ便利なものということ。
そして、魔法にはいくつもの種類がある。
自然精霊の力を借りるもの、物を動かすもの、遠く離れた場所とやり取りするもの。
まさに千差万別。それは過去数千年の歴史の中で先人たちの、そして今を生きる者たちのたゆまぬ努力のたまものであった。
しかし、世の中に完璧なものなど存在しない。それは魔法とて同じである。長い歴史は複雑に絡み合い、いくつものほどきにくい結び目を作っていった。
「なるほど、これがご依頼の杖ですね」
「はい、そうです」
きれいに片づけられた室内の一角で、机を挟んで二人の女性が話をしている。
片方は眼鏡をかけた長い黒髪の女性。彼女の名前はステラ、この事務所の主である。
ステラの対面に座っているのは、つばの広い帽子に黒マントを着た、いかにも魔導士といった出で立ちの少女である。
「では、ルーナさん。あなたの望みはこの杖の使用権解除ということでよろしいですね?」
「はい、お願いします」
ルーナと呼ばれた少女が返事をする。
ステラの目の前に置かれているのは、いかにも年代物といった木で造られた杖が一本。所々に宝石が埋め込まれているその形状から、一目でこれが魔法を使うための物であることが分かる。
「では、最初に使用権解除について簡単に説明させて頂きます。まずは―――」
ステラが淡々とルーナに何枚かの資料を手渡し、その内容の説明に入った。
魔法にはいくつもの種類がある。
その中に封印関係の魔法がある。ルーナが持ち込んだ杖には、封印魔法の一種が掛けられていた。それを解除するためにステラの事務所を訪れたのである。
だが、ステラは魔導士ではない。彼女に魔法は使えない。
ではどのようにこの杖に掛けられた封印を解くのかというと・・・
事務手続きである。
今回持ち込まれた杖に掛けられた封印魔法は、持ち主以外に使用を許可しない、使用権限定の魔法だった。
魔法は数千年の歴史がある。いくつもの魔法や魔導具が開発されていく中で、開発者の権利を保護する法律も同時に発展していった。
「この杖は、100年前に魔導士にバリオロスによって出願され受理されています」
ステラの説明は続く。
魔法や魔導具に関する法律やその特許は現在、魔術特許省が管理している。
この杖は100年前に開発者限定使用の出願がなされていた。
その際、魔導士バリオロスは使用権期間を300年と設定している。魔術によって数百年生きる者は特段珍しくはない。この程度の使用期間はよくある例だった。
しかし、今現在魔導士バリオロスは不慮の事故により死亡が確認されている。
だが、魔術特許省は人の生き死にに関しては管轄外である。
つまりこの杖は、使用できる唯一の者が死んだのにもかかわらず、あと200年間は誰も使うことができない状態にあるということだ。
このような魔法関連の特許に関するトラブルのためにステラのような人間がいる。
「まずは使用権取り消しの申し立てをすることになります。申し立てから審理までは通常―――」
彼女は、魔術特許の法律の専門家だ。
魔法は使えなくとも、ことは法律の話なので彼女はその知識とスキルを活かしてこの仕事をしている。
人が作るものは完璧ではない。それは魔法も法も同じだ。どこかで利害や予期せぬトラブルがぶつかる。しかしそれに対する救済もまた作られているのだ。
3ヶ月後、魔導士バリオロスの所持していた杖の使用権は、本人死亡のため取り消しが受理され、無事ルーナが使用できる状態へとなった。
ちなみに彼女は限定使用権の取得をしなかった。それにはまたそれなりの手続きとお金が必要だったから、面倒と判断したからである。
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