空想お散歩紀行 いつもの世界、いつもの自分を離れて休日を
都会のとあるビルの一室。そこに一人の男が帰宅してきた。
一人で暮らすには十分、いや広すぎるほどの部屋に彼は満足気な表情を崩さず入ってきた。
事実、彼は今日一日を非常に気分よく過ごすことができたのだ。
部屋の中は、テレビや調理器具など一通りの生活用品が置かれている。
しかしその他の物が、異質な空気を部屋の中に作っていた。
大量の服や靴、それもサイズやデザインがバラバラ。化粧品。子供向けおもちゃ。まるで大家族がそこに住んでいるかのような統一性の無さだった。
帰宅してまずシャワーを浴びた彼は、裸のまま、本来ならそこら中に転がっている服や靴が入るべき場所、ウォークインクローゼットの中に入る。
電気を点けると、そこには人間の体が並んでいた。
男女問わず、子供と大人、普通の体型から筋肉質な体型のものまで、8人分の人間の体が、
全員目をつぶったままその場に微動だにせず立っていた。
「さて、明日はどれにしようかな」
彼はこの星の生命体ではない。まだ地球人類では観測できないほどの外宇宙からやってきた異星人である。
彼の目的は、地球の侵略でもなく、調査でもない。
単なる遊びである。
彼は休日を利用して、よくこの地球に来ていた。
非日常を、本来の自分とは違う体で楽しむ。
何も高度に技術が発達した異星人だけがやっていることではない。
地球人だって、ゲームの中でもう一人の自分の体をメイキングして現実ではない世界で楽しんでいる。
いわゆるアバターというものである。
この異星人の彼も、何体もの地球人ボディのアバターで余暇を楽しんでいるにすぎない。
「ん~~~、新しいの作るか」
そう言うと彼は、自分の目の前の空間に何やらモニターのようなものを出現させた。
そこから実に2時間、彼は悩み続けた。
身長から体重、目や鼻などのパーツの形や大きさ等々、こういうのはこだわり始めたら簡単に時間が溶けていく。このあたりは地球人だろうと異星人だろうと変わらない。
「・・・よし!」
作る体のデータ入力さえ終わってしまえば、そこから実際の地球人ボディが完成するまでは1分とかからない。
今回彼が作ったのは、身長160センチ程度、女性型、年齢は地球人換算で10年後半くらい。
なかなか会心の出来らしく、しばらく彼はその新作ボディを眺めていた。
自分の作った体で、日常から離れた世界を行くことが目的なので、ある意味この時点で目的の半分以上は達成しているのだ。
明日のことを楽しみに考えながら、残り少ない休暇を有意義に過ごすべく、彼は休息に入るのだった。
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