見出し画像

空想お散歩紀行 迷子の迷子の

世界は一つではない。しかしそれは、AとBという全く異なった世界が存在しているという意味ではない。
わずかに違いのある世界が幾重にも薄く、ミルクレープのように重なっているもの全てを総称して世界と呼んでいる。
多層構造世界。ある時間軸の一点で、その構造が全ての世界でほぼ同時に発見された。
自分のいる世界と違いが小さい世界は近くに、違いが大きい世界は遠くに存在している。
そして、多層構造世界の発見は互いの世界同士の交流につながる。
最初は簡単な文章のみのやりとりしかできなかったのが、現代では互いの世界へ自由に行き来までできるようになった。
それは技術や文化の発展と共に、新たな問題の誕生でもあった。

「通報入りました。第3階層の4番世界です」
とある普通の警察署。その一部署に連絡が入る。
「対象は?」
「8才の男の子。両親と遊びに来ていて、目を離したすきにいなくなったそうです」
今年から配属された新人の報告を聞きながら、彼、今坂ユウトは少し考え込む。
「3-4ってことは、近くにあるのは2-7と3-8か・・・」
多層構造世界になった今、自分の身近に違う世界がある。
時に、故意か偶然か、別の世界に迷い込んでしまうことがある。
しかも、近くにある世界は元いた世界をあまり大きな違いがない。
だからか、小さな子供に限らず大人でさえ時に迷子になってしまうことがあるのだ。
「3-8はまだしも、2-7に行かれると面倒だな。あそこから先は細かく枝分かれしてる」
「ですね」
迷子程度ならまだいいが、最悪世界をまたいだ遭難になってしまうこともありえる。
なるべく事が大きくならないうちに収めるのが彼らの仕事だ。
現場に向かうべく彼らは部屋を出る。その時新人がふと後ろを振り返った。
「・・・先輩。やっぱりあれ、どうにかならないんですか?」
彼が見た先にあるのは、部屋の名前を示す表札。
『捜査迷子課』
いまいち力の抜けるネーミングがそこにあった。
「仕事内容に関わってこないうちは上は変えねえよ」
そして彼らは今日も、迷子を探すために異世界を行き来する。

その他の物語
https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?