空想お散歩紀行 目覚める場所はどこ?
聞こえてくるのは鳥の鳴き声と波の音だけ。
水平線からすっかり顔を出した太陽が波立つ水面を照らし、幾重にも違うパターンの光の反射を生み出している。
朝の海と空を眺めながら、一人の女性が背伸びをした。
「う~~~ん、いい朝」
今の季節は直射日光にまだ暑さの兆しはなく、この時間帯はちょうどいい涼しさが全身を覆ってくれる。
「今日は満点だぞ」
そう言うと彼女は振り返る。
海岸沿いに作られた公園。その駐車場に彼女の相棒はいた。
空の色と同じ、薄い水色のボディの車。普通の乗用車よりもずんぐりとした体型のそいつは何も答えなかったが、陽の光を得意気にそのボディに反射させていた。
小型のキャンピングカー、いわゆる軽キャンに乗って彼女は旅をしながら生活をしている。
必要最低限の生活道具を積んで自由気ままに。しかし、彼女の質素な食器や服とは打って変わって、相棒の方はその可愛らしい見た目の中に最新のテクノロジーを積んでいた。
AI制御による運転機能により、完全自動運転を可能としている。
しかし、彼女は自分でハンドルを握るのが好きなので基本運転は自分がする。
その機能が活躍するのは全てが静まり返る夜だ。
完全自動運転、行き先ランダム。
彼女が眠っている間に、彼女の相棒は自分の判断で道を走っていく。
目が覚めた時、どこにいるのか分からない。毎日がミステリーツアー。
今日みたいな日もあれば、まだラッシュアワー前の街中を走っていることもあれば、緑色ばかりの山の中にいることもある。
PC一台でどこでも仕事ができる時代。彼女の相棒は夜は見知らぬ土地へと誘ってくれる乗り物。昼間は主に彼女の仕事場だ。
毎日知らない場所で目覚めることは、まるで毎日が新しい人生の始まりのように感じることができる。
「さて、そろそろ行くか」
朝の海の風と匂いを楽しんだ彼女は水平線に背を向ける。
今日はここで仕事をすることに決めた後に最初にやることは決まっている。
「いい感じのお店があると、最高の上に最高なんだけどなあ」
朝食をとれる店を探しに、彼女は相棒の運転席へと乗り込んだ。
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