空想お散歩紀行 バーチャルユーチューバー亜種
「こんにちはー。今日は、予告していました、この懐かしいゲームを実況していきたいと思いまーす」
軽快な口調で始まったのは、とあるユーチューバーの生配信だった。
彼は見た目はさほどパッとしていなく、いわゆる、どこにでもいるようなモブ顔の一人だった。
しかし、その淀みなくその口から紡がれる言葉は、まるで山奥の湧き水のせせらぎのように人の耳に自然に入ってくる。
そうかと思えば、ゲームプレイやその他の企画をしているときの喜怒哀楽の表情やリアクション、それらが演技も入っているのだろうが嘘臭くなく、一種の上質な映画を見ているような気分にさせてくれる。
現在、若者を中心に支持されているエンターテイナーだが、彼がその名を上げてきたのはつい最近の話だ。
「ふう・・・」
配信が終わって一息ついている彼に、
『いやー、今日も楽しかったな!』
どこからか声が掛けられるが、今部屋には彼一人しかいない。
「な。このゲームは掘り出し物だったろ」
彼、ユーチューバーのコウタは当たり前のようにその声に返事を返した。
傍から見ればコウタが独り言を言っているようにしか見えない。
それもそのはず、もう一つの声はコウタにしか聞こえない。
それは、この世ならざる者の声。霊の声だからだ。
その霊、名前をジンと言った。
二人には共通点がある。それは二人ともユーチューバーだということだ。正確には一人は元が頭に付くが。
コウタはそれなりにいい声と、世間ではあまり注目を浴びていないゲームを探してくるなど企画力は高いのだが、しゃべりが苦手だった。よく嚙むし、とっさのリアクションが取れない。
片やジンは、生前はそこそこ登録者数の多いユーチューバーだった。
その大きなリアクションや止まることのない軽快なトークが売りだったが、いかんせん企画がワンパターンですぐに飽きられるのが悩みだった。
ある日、ジンに不幸が訪れる。彼は事故に遭ってこの世を去ることになる・・・はずだった。
しかし、ユーチューバーとしてブレイクしたいという彼の想いは未練となり、この世にとどまることとなる。
そして、二人は出会った。
「僕が思うに、あんなにリアクション取る必要はないと思うけどな。あれじゃリアクション芸人だ」
『何言ってんだ。あのくらいした方がいいんだ。結局この世界はインパクトなんだよ』
「それで飽きられたくせによく言うよ」
ユーチューバーにはいろいろはジャンルがある。
その中にバーチャルユーチューバーというものがいる。
Vチューバーは、アニメ調で描かれた絵を動かしながらその裏で人間が声を出す。
生身の人間が画面におらず、二次元のキャラクターが自由に喋る、まるで異世界から飛び出してきたかのような絶妙な非日常間が人気の表現の一種だ。
コウタとジンはある意味それに近いことをしている。
配信に登場するのはコウタだが、そのコウタにジンが乗り移ってトークを担当している。
憑依配信。彼らが付けた、おそらく世界で唯一のユーチューバーのスタイルだ。
お互いの短所を補い合うこのスタイルのおかげで彼らは瞬く間に人気を得始めた。
『さて、次は何をやる?』
「ここらで今まではちょっと違う味を出そうと思ってる。その名も―――」
同じ高みを見ている人と霊は、世界を自分たちのエンタメに巻き込むために文字通り一心同体の活動を続けている。
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