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Tale_Laboratory
2021年10月31日 11:12
何かがおかしい。それが何かははっきりとは分からない。だが、何かがおかしいのだ。俺は今日、ハロウィンのイベントを見に出掛けてきたはずだった。化流戸(けると)市では毎年10月の終わりにハロウィンのイベントが行われている。毎年と言っても、流行りだしたのはここ数年、メディアで取り上げ始められてからだ。それまでは細々とやっていた小規模イベントに過ぎなかった。正直言うと、俺は子供の頃にやっていたハロ
2021年10月30日 11:27
今日も空は見事な秋晴れ。時間は正午を過ぎ、街は朝から続いた空気とここから始まる午後の空気の間で、しばしの休憩を取っているかのように和やかだ。だが、ここケルト市のとある高校、昼休みの喧騒が校舎のあちこちから聞こえてくるのをよそに、その少女はただ一人校舎の屋上で佇んでいた。本来屋上は立ち入り禁止になっているのだが、彼女は既に卒業している先輩からもらった合鍵で今この場に立っている。「ふ、今日は一
2021年10月29日 16:14
「ありがとうございました!」店員さんが深々とお辞儀をするのを見ながら、私はお店を後にした。「えーと、服は買ったし、アレもアレも買ったから、と」買った物を確認。特に忘れ物は無し。「ま、何かあったらまた来ればいいか」私は目を閉じる。そして、「よいしょっと」頭からゴーグルタイプのヘッドセットを外した。先程までのショッピングモールの風景が一瞬にして見慣れた自分の部屋へと戻る。今まで私がい
2021年10月28日 11:15
ここケルト市では、多くの異種族たちが生活している。皆それぞれの種族の特徴を理解し、それぞれに合った生き方をしている者は多いが、全てではない。中には自分の持っている特性に悩んでいる者も大勢いる。今日は、雲一つない晴天。太陽が高い時間にもかかわらず、汗をかくほどには気温が上がらなくなった秋の中頃。しかしここに、額から大粒の汗をかいている少女が一人いた。(気がはやっていたとはいえ、入るお店間違え
2021年10月27日 11:16
「おまたせ~」休日の駅前、平日とはその空気の色が全く異なる。平日が落ち着いたモノトーンだとしたら、今は跳ねるようなビビッドだ。「え?ああ、ユウリちゃんか。一瞬誰か分からなかった」澄み切った青が空を覆う、絶好の休日の昼間。駅前で待ち合わせをしていた少女、アイナが友人の格好に一瞬気を取られていた。「え、私って分かんなかった?まあ、しょうがないか。今日初めて下ろしたやつだからね」ユウリと呼ば
2021年10月26日 10:29
漆黒のカーテンが降り、星々の小さなライトが空を照らし出す。太陽が眠る時間になっても人々は眠らない。街には人が生み出した光が溢れ、人は夜を削り取った空間で生きている。だが、人は夜そのものへの畏れと憧れを無くすことはない。「この後どうする~?」「ん~、どうしよっか」街を行く人々。家路に付いている者やまだ仕事中の者。そんな流れの隅っこで、壁によりかかり何とは無しにその流れを眺めている女の子が二
2021年10月25日 09:35
「おはよ~。寒い寒い寒い」いつも通りの朝。良く晴れて空は高く透き通っているが、空気は先週から一変し、いきなりその鋭さを増してきた。「急に寒くなりすぎ!どうなってんの?」「ね~。私来週くらいにしようと思ってた衣替え今日しちゃったよ」朝の駅前。サラリーマンや学生が途切れることなく流れている。「うう。私も冬用のにしてくれば良かったかも」女子高生の二人組が急に変わった季節に文句と言いながら歩い
2021年10月24日 10:52
7日目。そのゲームが開始されてから経過した時間。さすがに1週間も経てば、参加者たちも現状を受け入れて落ち着くだけのことはできている。だがそれは事態の解決には直接に繋がることは無い。もしかしたらこの状況に対する一種の逃避なのかもしれなかった。このゲームに参加した者たちは全員自らの意志で参加表明をしたわけではない。きっかけはとある出会い系サイトだった。恋愛、結婚、素敵な恋人、パートナーを求
2021年10月23日 14:03
「う~~~~ん」椅子に座ったままで腕を高く上に伸ばす。長時間同じ姿勢で固まった肩と首がほぐれていくのを心地よく感じながら、「そろそろ終わりかな」窓の外の景色を見ながら、終業時間が近づいていることに何とも言えない安堵感が体に広がる。だが、目の前に視線を戻すと同時に現実にも連れ戻される。今私の目の前にあるPC。その画面に映し出されている詳しい意味は分からない単語や数字の羅列。「これいつに
2021年10月22日 10:27
瓦礫がいくつも山高く積まれたその場所に足音が響いている。それは赤茶けた大地の小石を意にも介さず踏みつけながら進んで行く。その足音の持ち主は特に痛みを感じることは無かった。それは金属でできた足だったから。足だけではない、頭のてっぺんから足の先までが金属でできたロボット。外見から女性型だということが分かる。彼女は当たりを見回す。大地と、そこに積まれた瓦礫の山。そして大地と同じく赤茶けた空を
2021年10月21日 10:01
夜の闇の中を走り抜ける影があった。それは一つではなく、3つだったが、あたかも一つの体のようにぴったりと同じ動きをしていた。今夜、この街では同じように動く影がいくつもあった。それは黒猫の群れだった。三匹一組で街の中を走り回る。彼らはとある魔女の使い魔として、今重大な任務を負っている最中だ。その任務とは、とあるものの探索。今日から十日後、街はハロウィンと呼ばれる祭事が開かれる。それはこの世
2021年10月20日 09:32
「いらっしゃいませ」自動ドアが開き、客が入ってくるとその店員は元気に声を掛ける。今日は休日で、店内も多くの客で賑わっている。「何かお探しでしょうか?」一人の店員が、親子連れの客に声を掛ける。「ええ。新しくペットを飼おうと思っているんですけど・・・」ペットショップであるこの店にはいろいろな動物たちを扱っている。と言っても、一般家庭で飼うことが前提なので小型のものが中心だが、この店にはとあ
2021年10月19日 09:49
一人の男が机に向かって、頭を抱えていた。彼の目線の先にあるのは一枚の紙。その上には何人もの名前と、数々の単語や線が書かれていた。足元の床には同じようにいろいろと書きなぐられた紙が一杯に落ちている。それが彼の悩みの数と同じということを如実に表していた。彼には目的があった。今でこそ、質素な部屋、使い古された家具に囲まれているが、元はそれなりに歴史と伝統を受け継いでいた貴族の一人だった。だが、争
2021年10月18日 08:53
武士たるもの、常に備えていなければならない。いついつに戦が起こるなど、誰も分からない。明日かもしれない、いや今日の夕暮れ時からもしれない、いやあと10秒後かもしれない。とにかく、未来は誰にも分からない。だが予感というものはあるもので、そろそろかなと感じることはある。拙者の今の状態がまさにそれだ。だからいつでも出立できるよう準備を整えるのだ。身を清め、刀を磨き、鎧を点検する。いざという