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空想お散歩紀行 休日の昼下がりと依代女子高生

「おまたせ~」
休日の駅前、平日とはその空気の色が全く異なる。平日が落ち着いたモノトーンだとしたら、今は跳ねるようなビビッドだ。
「え?ああ、ユウリちゃんか。一瞬誰か分からなかった」
澄み切った青が空を覆う、絶好の休日の昼間。
駅前で待ち合わせをしていた少女、アイナが友人の格好に一瞬気を取られていた。
「え、私って分かんなかった?まあ、しょうがないか。今日初めて下ろしたやつだからね」
ユウリと呼ばれた少女は自分の体を見回す。
「だからか。学校とは違ってかなり大人っぽく見えるよ」
「そうでしょ?それが狙いだもん。さ、行こ行こ」
二人は同じ高校に通う友人。今週、やっとこさ地獄のような中間テスト期間が終わったので、しばらくぶりに羽を伸ばしに来たのだった。
特に明確な目的があるわけではない。適当に歩いて、適当にいろんなお店を見て、適当にお茶でもしようという、今までテストで縛られてきた自由を満喫するための日だ。
二人が並んで歩いていると、ふとユウリが切り出した。
「てかさ、アイナ。それ学校の時と同じヤツでしょ。せっかくの休みなんだからさ、もっと好きにやったら?」
ユウリが今の自分より背が低い友人の体に指をさす。
「うーん、でもこれが慣れちゃってるからなあ。休みだからって変えると違和感すごいし」
アイナは自分の胸を手を当てている。
「え?じゃあ家でも同じ恰好してるの?」
「うん、その方が楽じゃない?」
「いやいや、学校と同じ格好なんて息が詰まるよ。私は学校から帰ったら速攻で着替えるけどね」
お互いの格好に対する価値観の違いをしばらく歩きながら話す二人。
だが、彼女たちが言っているのは服装のことではない。
二人とも学校では制服を着ているが、今、アイナは私服でここに来ている。
「ユウリちゃん、家用のがあるの?」
「あるよ。姉ちゃんのお下がりだけど」
「姉妹がいるといいなあ。私お兄ちゃんいるけど、さすがにお兄ちゃんのは使えないし。それにしてもユウリちゃん、感覚変にならないの?学校の時より10センチくらい背高くなってるんだよ」
「これがいいんじゃん。私たちの特権なんだし」
彼女たちはウィル・オ・ウィスプと呼ばれる種族。彼女たちは肉体という物を持たない。精神体のみで生きている、ここケルト市でも割と珍しいタイプである。
他の種族にはウィル・オ・ウィスプは薄っすらとしか視認できない。
だから彼女たちが社会生活を送るためには、人造の肉体に入る必要がある。
それが彼女たちの使っている、ドールと呼ばれる物だ。
「大体、うちの学校は今時古いのよ。ドールの身長も体重も決まってるし、大っぴらには言ってないけど、スリーサイズまで決まってるようなもんでしょあれ!?セクハラじゃん!あんなの」
だんだんヒートアップするユウリをまあまあとなだめるアイナ。ちなみに他の種族から見ると、彼女たちの通っている学校の生徒は男女ともほとんど見分けが付かないらしいが、本人たちはちゃんと違いが分かるとのこと。
「だから家と休みの日くらいは好きな体で過ごしたいじゃん」
「まあ、分かるかな」
と言っても、今ユウリが入っているドールはかなりスタイルが良く、高校用のドールに入っているアイナと並ぶと文字通り大人と子供に見えるので、少しやりすぎではないかとアイナは思ったが、それは言わないでいた。
「入ってみたいドールはいろいろあるけどさ、それを買うことができたとしても、置き場に困るよね。そういう意味では肉体がある種族はいいよ。服だけしまっとけばいいんだもん」
「それに、ドールは高いの多いしね」
「いいと思うやつに限って高いんだよね・・・やっぱお金かなあ」
「・・・だね」
人々で賑わう通りを歩きながら、二人して空を見上げる。どこまでも高く手が届きそうもない空。そして彼女たちの悩みもまた、空と同じように手が届きそうもない。
肉体のない、精神だけの存在の彼女たちも、悩みの種は他の女子高生たちと大差ないのだであった。

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