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空想お散歩紀行 鍵の意味を探して

瓦礫がいくつも山高く積まれたその場所に足音が響いている。
それは赤茶けた大地の小石を意にも介さず踏みつけながら進んで行く。
その足音の持ち主は特に痛みを感じることは無かった。
それは金属でできた足だったから。
足だけではない、頭のてっぺんから足の先までが金属でできたロボット。
外見から女性型だということが分かる。
彼女は当たりを見回す。大地と、そこに積まれた瓦礫の山。そして大地と同じく赤茶けた空を。
かつてこの星には人間と呼ばれる生命体がたくさんいた。
彼女もその人間たちの役に立つために作られた存在だが、彼女が起動したときには周りに人間はいなかった。
自分の中の情報を確認したら、青い空と緑の土地の映像があったが、どこを確認してもそれらがなかったので、新しい情報を上書きして彼女は旅に出た。
目的は自分に命令を与えてくれる人間を探すこと。
それともう一つ。
彼女の中のメモリーに残っている映像。そこに映し出されているのは、彼女が認識している唯一の人間。
それが彼女を作った人物だと自然と理解できていた。
その人間が彼女に渡したのは、小さな鍵。
今ではそれは彼女の首からチェーンに繋がれてぶら下がっている。
もう一つの彼女の目的とは、その鍵が入る鍵穴を探すこと。
それが何なのかは分からない。
箱のような物を開ける鍵で、中に何か入っているのか?
それとも、何かの機械を動かすための鍵なのか?
自分を作ってくれたその人間は、もうこの世界にはいない。理由は分からないが、彼女は理解していた。ロボットには相応しくないかもしれないが、直感という表現が一番近いかもしれない。
だが彼女は覚えている。自分に鍵を渡したその人間の表情はとても穏やかだったことを。
人間の感情など、完全に理解できるわけはない。その時の人間の体温、脈拍、呼吸、ありとあらゆる生体反応から計算して、その人間がストレス状態かリラックス状態かを判断することしかできない。
だがそんな機能を使わなくとも、なぜか彼女は、鍵の人間の心を見た気がした。ロボットにはできないはずの何かを彼女はしたのだ。
胸に下がっている鍵をそっと握る。これの使い道を探すのが目的だが、彼女が探したいのは、今はもう確認できない、自分とその人間との繋がりなのかもしれない。

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