空想お散歩紀行 幻のペットショップ
「いらっしゃいませ」
自動ドアが開き、客が入ってくるとその店員は元気に声を掛ける。
今日は休日で、店内も多くの客で賑わっている。
「何かお探しでしょうか?」
一人の店員が、親子連れの客に声を掛ける。
「ええ。新しくペットを飼おうと思っているんですけど・・・」
ペットショップであるこの店にはいろいろな動物たちを扱っている。と言っても、一般家庭で飼うことが前提なので小型のものが中心だが、この店にはとある特徴があった。
「初めてなので、あまり手間が掛からないのと、できれば犬がいいかな」
「それでしたら、こちらのケルベロスの小型種などいかがでしょうか?」
店員が案内した先の動物用ケージの中には、3つ首の子犬が静かに寝息を立てていた。
300年前、世界に異変が起こった。
天界、天国、地獄、あの世。今まで別世界として語られてきた領域とこの地上が繋がれてしまったのだ。
それによりとてつもない混乱が起こるかと思いきや、思ったより穏便に事が運んだと歴史の教科書は語っている。
以降、それぞれの世界とは交流が続けられている。
それに伴い、別世界の動物たちも地上に持ち込まれるようになり、長い年月を掛け、交配と品種改良が進んできたのだった。
「伝説では地獄の番犬なんて異名がありますが、この種類の子は今ではむしろ大人しい部類に入ります。体も小型犬以上に大きくはなりません。頭は3つですが、体は一つなのでエサ代も一匹分で大丈夫です。難点としては3つの首がそれぞれ吠えるので少しうるさくなることがあります」
気持ちよさそうに3つの頭を寄りかからせながら眠る子犬を子供がじっと見つめたまま離れない。
ここは数あるペットショップでも、幻獣を専門に取り扱っている幻獣ペットショップなのだ。
店内にはケルベロスの他に、尻尾が二つに分かれた猫又。水槽の中を泳いでいるクラーケン。籠の中で飛んでいるコカトリスなど、過去には物語や伝説の中でしかいないと思われていた動物たちが店内に所狭しといる。
魚類系、鳥類系、爬虫類や哺乳類など種類も様々で、そのどれもが小型から中型サイズだ。
「大人しくて、最近人気があるものと言えば、こちらですかね」
店員が指したケージの中にいるのは、
「こちらの手乗りユニコーンは、小さくてかわいいので若い女性を中心に人気があります。ただ小さくても馬なので、飼うにはそれなりに勉強が必要ですが。あと、定期的に角の手入れをしないと、小さなお子さんが怪我をするケースもまま見受けられます」
店員の説明を聞くことなく、子供はあちこちの動物に目が走りっぱなしだ。できることなら全部飼いたいとでも言わんばかりに。
だが親の方は、世話のこと、財布の中のこと、そして何より命を飼うということに対する思いから慎重に考えている。そこは普通の犬猫だろうと、幻獣だろうと違いはない。
ひとしきり、それぞれの幻獣たちの説明を店員から聞き、親子で話した結果、その日一匹の小型ケルベロスに新しい家族が決まった。
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