空想お散歩紀行 恋愛人狼・ラバーズ
7日目。
そのゲームが開始されてから経過した時間。
さすがに1週間も経てば、参加者たちも現状を受け入れて落ち着くだけのことはできている。
だがそれは事態の解決には直接に繋がることは無い。もしかしたらこの状況に対する一種の逃避なのかもしれなかった。
このゲームに参加した者たちは全員自らの意志で参加表明をしたわけではない。
きっかけはとある出会い系サイトだった。
恋愛、結婚、素敵な恋人、パートナーを求める人大集合と銘打った、どこにでもあるようなサイト。
『カップル成立確実!さもなくば・・・』
という怪しげな文面。
とにもかくにも、そのサイトに登録した者は、その瞬間意識を失った。
次に目が覚めた時はどこかの見知らぬ建物の中。
ホテルのように広い建物であることは分かるが、壁には一つも窓が無いので、ここがどこかは全く分からない。時計はあるので時刻は分かる、その程度だった。
その建物内で目を覚ましたのは、男女それぞれ15名。計30人。
目覚めた者の傍には一冊の本が置いてあり、それにこのゲームのルールが全て記載されていた。
『生き残りたければ、つがいとなれ』
一番重要なルールはただ一つ、ゲーム終了時までにカップルになっていない者は・・・消滅する。
当然、誰もが最初は信じてはいなかった。
だが、突然自分が置かれたこの状況が既に異常。全員が強制されるわけでもなくルールブックを読み進めていた。
ルールブックによると、
・参加者は30名。男女それぞれ15組。表向きは全員独身の恋人なしだが、15組中、3組は既婚者である。
・独身側は誰が独身で誰が既婚者かは分からないが、既婚者側は誰が同じ既婚者かは分かっている。
・独身側は自分が決めた相手に告白することでカップルとなる(告白は専用の部屋で行われ、誰が誰に告白したのかは当人たち以外は知ることができない。告白された側にそれを受け入れるか断るかの権利はある)
・独身側は男女共に、既婚者に告白してしまった場合、不逞を働いたとみなしその場で消滅する。
・告白できるのは一日に一回まで。
・一日の終わりに参加者全員で投票を行い、最も票を集めた男女1名ずつが消滅する。
・独身側の勝利条件は、この投票によって既婚者側の男女全てを消滅させるか。告白により既婚者側よりも多いカップルを成立させるかである。(既婚者側がその時点で2組残っていたら3組以上作ること)
・ただし投票により、既婚者側の片方だけが消滅した場合、既婚者として1組減ることにはなるが、残った片方はヤモメとなり、一日の終わりに独身側の一人を選んで消滅させることができるようになる。(ヤモメが何人いようと一日に消滅できるのは一人である)
・既婚者側は、投票による消滅、独身側に告白させることによる消滅、そしてヤモメとして消滅させることにより、独身側に既婚者より多くのカップルを作らせないことで勝利する(その時点で2組の既婚者が残っており、独身側が5人以下だった場合、2組より多いカップルが作れないため既婚者側の勝利となる)
・独身側が勝利条件を満たした時点で、カップルになっていない独身者は消滅する。
・男同士、女同士のカップルは認めない。
そして始まった生き残りを懸けた恋愛ゲーム。最初は皆半信半疑だったが、実際に人が消滅するところを見たら、否応なしにこれが現実だと受け入れざるを得なかった。
そして今日で7日目。参加者はだいぶ減った。
既に男女の数も同数ではなくなっている。
参加者の一人、ソウタは悩んでいた。
彼は独身側として参加した一人だが、5日目にマリという女の子とカップルになれた。
しかし、昨夜マリは消滅した。
このゲーム、カップルになったとしても周りにそれを言うことはできない。
なぜなら勝利条件が既婚者側より多くのカップルを作ることなのだ。
もしカップル成立宣言などしたら、既婚者側にヤモメが発生していた場合、真っ先に狙われる対象となってしまう。
実際、マリは投票で消滅したわけではない。カップル成立後に既婚者に告白することなんて考えられないから、必然的にヤモメにやられたことになる。
カップルであることを見抜かれたか、それともただの偶然か。どちらにしろ結果は変わらないが。
そしてこのゲームの恐ろしいところはそれだけではない。独身側にとって、敵は既婚者だけではないからだ。
ルールにあった、独身側が勝利条件を満たした時点でカップルになっていない者は消滅する。
それを踏まえれば、独身側でも自分が消滅したくないがために、カップルが成立したと思われる人間に投票して潰し、延命を図るというやり方も考えられないことはない。
ソウタも今は一人。このまま独身側が勝利したとしても、自分は消滅してしまう。
残っている既婚者は?カップルが成立しているのはどいつだ?ゲーム終了まであとどれくらいの猶予がある?自分が今すべきことは何だ?
様々な思惑が脳内を駆け巡りながら、時間だけは刻一刻と正確にその針を刻んでいく。
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